第43話 これからの世界とこれからの彼ら
「あ―――ゆ、勇者様っ!?
良かった―――生きて―――!!」
「やあ、フィル君!
本当に―――ほんっっっとうに、お疲れ様!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
―――バサァッッッ…………!
『ブラックネス・ドラゴン』が巨大な両翼を広げ、空へと羽ばたいていく。
『金竜』と『銀竜』によってもがれた翼はヴィアの『回復魔法』によって繋ぎ治されていた。
そして、そんな『黒竜』の後に続き―――
―――バサッ、バサァッ……!
『金竜』―――『ゴールデン・リフレクトドラゴン』と―――
『銀竜』―――『シルバー・フィロソファーズドラゴン』が飛び立っていくのを、『勇者一行』と生徒達が見つめていた。
フィルは、ぽつりとアルミナへ声をかけた。
「勇者様………あの竜達って―――」
「彼らは―――『魔物は絶対悪』という認識を我々人類に強く意識付ける為の分かりやすい『アイコン』。
いわば―――『魔王』の『前身』だったのさ」
三大『危険域』ドラゴン。
この大陸における最大警戒対象の魔物。
その肩書と共に人々に恐れられることこそが―――あの竜達の『存在意義』だった。
「5年前―――最後の戦いの時、ベリルに懇願されたんだ」
『虫のいい話だと思うけど―――どうか『このコ達』を見逃してあげてくれない?
彼らは―――『魔物の未来の為に』なんて大口を叩いたペテン師に騙された、被害者なんだから』
「あの2体の竜は―――他の魔物のようにベリルの『エクシードスキル』で操られたり、強制的に知性を与えられたわけではなく、自分自身の『意思』でベリルに『協力』していた。
きっと今回もそうだったのだろう。
強大な『力』と『魔力』を持つ彼らは、いつしかキュルル君のような『心』をその身に宿し―――『人間』の言葉を信じ、戦ったんだ」
そして、争いを嫌うもう1体の竜は―――友達の為に、同族の前へと立った―――
―――バサッ、バサッ、バサァァァァァ…………!
3体の竜達が、遥か遠くへと飛び立っていく。
世界の『仕組み』―――魔物の『存在意義』が消えた世界で、この先『人類』は彼らとどのような関係を築いていくことになるのか―――
それはまだ―――誰にも分からない。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「これから、この世界はどうなっていくんだろうな」
アルミナは、ぽつりとそんな問いを口にしていた。
それに答えたのは、コーディスであった。
「そうだな―――今後、魔物には人類と同じ『心』が宿っていき、人類と魔物が仲良く手を取り合って世界は平和に。
めでたしめでたし―――とは行かないだろうね」
彼は、静かにその『現実』を口にした。
「『オリジン・コア』が消失したことにより、『人類の敵で在れ』という魔物の『存在理由』は消えた。
しかし、依然として魔物は人類にとって脅威的な存在であることには変わりないだろう」
「この世界の全ての魔物がキュルル君のような人間と遜色ない『知性』と『心』を持つとは限らないだろうしね」と、コーディスは述べる。
「それに『心』を持った魔物の中には―――世界の『仕組み』によってではなく、自らの『意思』で人間に危害を加えようとする者も、きっと現れることだろう。
人間と同じ『心』を持つというのなら―――『それ』は必然だ」
人間は人間同士で争いあう。
ならば、人間と同じ『心』を持った魔物もまた然り。
「この世界に住む人々の中に巣食った、魔物への悪感情。
身体的、生物的な差異。
『心を持った魔物』を認める者達と認められぬ者達との衝突。
不安点を挙げればキリがない。
かの『英雄』が危惧した通り―――これから先、世界には途轍もない困難が待ち受けていることだろうね」
コーディスは決して楽観的な展望を語りはしなかった。
この世界の未来は決して明るい希望に満ち溢れてはいないと、彼は冷徹に告げる―――
「ねえ、コーディス。
もし間違ってたらごめんなさいだけど―――」
そんな彼に―――ウィデーレが問いかける。
「貴方が『勇者学園』を設立した本当の理由は―――『勇者』の資質を持つ者を『魔王』が目覚める前の段階から見極めて、これから先『魔王』が現れた時にその討伐を迅速に進めることが目的だったんじゃない?
つまりは、世界の『仕組み』に迎合する形で、なるべく人類の犠牲を最小限にする為の措置として、貴方はあの学園を構想した―――違う?」
「………ああ、その通りだよ。
やはり皆にはバレていたか」
コーディスは仲間達に自分の本心を隠していたことに対する申し訳なさを含ませた声を返した。
もっとも仲間達からしてみれば、彼がそのような態度を見せること自体が驚きの出来事なのだが。
「でもそれなら―――何故あの『スライム』を入学させることを許可したの?」
「……………………」
『勇者学園』の最終的な目的は『魔王』の―――『魔物』の討伐。
その『魔物』をわざわざ学園に引き入れる許可を、彼は出した。
コーディスは―――少しの沈黙の後、口を開く。
「自分でもハッキリとは分からないが…………
あの『スライム』を―――『人間』と心を通わせる『魔物』を見て………
『何か』が変わるかもしれない、という思いが胸の中に浮かんだんだ」
そんな返事を聞いた『勇者一行』は―――『ニッ……!』と笑みを浮かべ―――
「コーディスって……案外ロマンチストだったんですね?」
ウィデーレのからかうような声と共に、笑いに包まれるのだった。
そして、コーディスは照れ臭い気持ちを誤魔化すように口を開いた。
「これから先―――『勇者学園』もその存在意義を見直すことになるだろう。
世界も我々も、どうなっていくのかは分からないが―――私が始めたことには、私が最後まで責任を持たねばな」
そんな呟きに「おお……! あの面倒くさがりのコーディスからそんな言葉が出るなんて……!」と、仲間から感動の声が上がるのだった。
「とりあえずは……今後の展望のことも含め、今回のことを国王に報告せねば」
「果たして彼はどういった判断を下すことになるのだろうな……」と、コーディスは独り言ちるのだった。




