第42話 彼と淑女と別れの言葉
フィル達が地面へと降り立った所から離れた場所で―――木を背にして座り込んでいたスクトは伸ばしていた片腕を下ろした。
「まさか……最後の最後に、誰かを助けるために『これ』を使うことになるなんてな……」
そんな言葉を零していた彼の耳に―――
―――ザッ、ザッ、ザッ……
複数人の足音が聞こえて来た。
その音の方へと目を向けたスクトは―――フッ……と笑みを浮かべる。
そこに居るのは―――かつての仲間達。
コーディス=レイジーニアス。
ウィデーレ=ヘイム。
ヴィア=ウォーカー。
ロクス=エンド。
そして―――――
アルミナ=ヴァースが―――静かに彼を見下ろしていた。
「アルミナさん―――生きていたんですね。
もしかしたら、とは思っていましたけど」
身体中に傷を負いながらも、しっかりと己の足で立っているその『勇者』へと、スクトは声をかける。
「おや……その言い方からすると、君がわざと手加減して私を生かしてくれた、という訳ではないのか」
アルミナはスクトの言葉にわざとらしいショックを受けたような表情をした。
「ははっ……僕はあの時、確実に貴女の命を奪うつもりでしたよ。
ただ―――貴女にトドメを刺そうとした、その直前―――」
スクトはどこか遠くを見つめるような目で、呟いた。
「『あの子』の―――ウルルの声が、聞こえた気がしました」
ウルル=ガーネット。
スクトにとって決して忘れることのできない、『スライム』の少女。
「………つまり私はその子に助けられた、という訳か」
「さぁね……案外僕が甘い奴だっただけ、ということもありえますよ。
まあ、どちらにせよ………僕は貴女を仕留め損なった、それだけが事実です」
話し合うだけ無駄―――スクトは暗にそう告げていた。
それ以上の追求を止めたアルミナは、空を見上げる。
そこには―――白い空間の欠片が、僅かに漂っていた。
「『オリジン・コア』の破壊―――君の『最終目的』は、結局叶えられてしまったという訳だが、これは君の企みを阻止する為に動いた我々の敗北、とも言えるかな」
そんなアルミナの言葉を、スクトは「はっ……」と笑い捨てた。
「言ったじゃないですか。
僕の行動は全て、ただの『八つ当たり』にしか過ぎないと。
勝利も敗北もありませんよ。
僕が本当に叶えたかったのは……
僕が…………救いたかったのは―――――」
―――ピキィッッッ!!!
その言葉の途中で―――スクトの身体から、ガラスが割れるかのような音が鳴った。
「はは………
どうやら―――もうお別れの時間のようです」
「…………そうか」
淡々とそう告げるスクトを―――アルミナ達は静かに見つめていた。
そんな彼の元に―――
―――ザッ……ザッ……ザッ………
1人の『淑女』が―――連れられてきた。
スリーチェとグリーチェに支えられながら、この場に姿を見せた『淑女』―――サンドリーチェを見つめて、スクトは呟いた。
「サリーチェさん―――」
それを聞いたサンドリーチェは、「はぁ……」と溜息をつく。
「その名前はもう呼ばないでください、と―――あの『約束の日』に言いませんでしたっけ?」
「あ、いや、その……つい………」
どうやらスクトは自然とその名が口をついて出てしまったようであった。
そんなスクトの隣に―――スリーチェとグリーチェは静かにサンドリーチェを座らせた。
―――ピキッ……パキィッ……!
そのサンドリーチェからも―――スクトと同じ様な音が響く。
「………スクト、あの日の『約束』はちゃんと覚えておりますか?」
「………当たり前じゃないですか。
僕がウルルに言ったことなんですから」
『ウルル』
『君を助けるにあたって、守って欲しい『約束』がある。
もしそれを守れないのであれば、僕はもう君を助けない』
『その『約束』っていうのは―――何が起きても『謝らない』こと』
「ですから―――ただ、この言葉だけを貴女に贈ります」
「ええ―――私もです」
「「ありがとう―――」」
―――パキパキパキィ…………!
その言葉を同時に告げた直後―――2人の全身にヒビ割れが広がった。
「もし……『あの子』に会えたら………同じ言葉を……」
「きっと………会えますよ………
私が………絶対に………会わせて……あげ……ます………」
「はは………最後の……最後まで……
貴女に…………頼り………ぱなし………」
―――パキィィィィィ……………!!!
何か―――決定的な何かが砕けような、甲高い音が響き―――
その2人は――――もう、それ以上言葉を発することは無かった。
「さよなら、スクト―――」
瞳を閉じたアルミナと―――
「さようなら、お姉さま―――」
一筋の涙と共に零れたスリーチェの別れの言葉が、この場に響き渡った。




