第34話 不具合と修正
「そうして―――
ぼくは今、ここに至る―――」
「…………………………………」
僕は息をする事も忘れかけたまま、呆然としていた。
あまりにも壮大な、この世界の『再生』の物語。
自分のちっぽけな脳味噌では到底処理しきれない情報の嵐に、僕は立ったまま気絶しているかのように動けずにいた。
それでも―――
「ダンテさん………色々と説明してくれて……ありがとうございます」
僕は無理やりに口を開いた。
「でも………僕が今、一番知りたいのは―――」
『それ』を―――知る為に―――!
「キュルルのこと、なんです……!」
「キュルル――――
『魔王』に目覚めた―――『スライム』―――」
『白い少年』―――ダンテさんへ、僕は問いかける。
「キュルルは―――どこにいるんですか……!?
ここにキュルルがいるというのなら――― 一体何のために!?」
キュルルを取り戻す。
それこそが、僕が今ここに居る理由なのだから―――!
そして、そんな僕の問いに―――ダンテさんが答える。
「あの『スライム』は―――『修正』の為に使わせてもらう―――
それこそが―――ぼくがここに現れた、その理由―――」
「修、正………?」
一体何のことを言っているのかは分からない。
ただ、『使わせてもらう』というその言葉に、僕は何か嫌な予感がした。
「ぼくは元々―――大地の奥底で、ただ『機能』として存在するだけだった―――
でも今回―――余りにも『不具合』が起き過ぎた―――」
「『不具合』………?」
「そう―――」と、ダンテさんは頷く。
「まず―――『魔王』として目覚めたはずの『魔物』が―――
その在り方を―――拒否した―――」
「―――っ!」
それは多分、キュルルが語ったあの話に出て来た『スライム』―――ウルルのこと―――!
「更に―――本来その『魔王』を倒す為の存在―――『勇者』が―――
『魔王』の為に―――『人類』と敵対した―――」
「『勇者』が人類に敵対って……!
まさか、ベリルさん!?
彼女が『勇者』―――!?」
ここに来て告げられた新たな真実に、僕は声を上げてしまった。
「そう―――今の『勇者』は―――当初の『勇者』の『代役』―――
『前任者』が放棄してしまった『役割』を―――果たす為の―――」
「…………!」
僕はもはや、ただただ瞠目するばかりであった……
「そして―――『魔王』に目覚めた『魔物』が唱えた『魔法』による―――
ぼくの『声』の阻害―――
世界の『仕組み』の機能不全―――
この時から―――ぼくに残った僅かな『自我』は―――
『仕組み』の『修正』の必要性を―――感じ始めた―――」
「『仕組み』の『修正』………」
それが、先程彼が口にした言葉の意味―――!
「それでも―――不完全でありながらも―――『仕組み』自体は動いていた為―――
まだ―――性急に行動を起こすつもりは―――なかった―――
ぼく自身が動くことになった―――最後の切っ掛けは―――
きみ達の戦い―――」
「え……!」
ダンテさんは、その漆黒の瞳で真っ直ぐに僕のことを見つめた。
「『機能』の誤認を利用しての―――人間の手による―――新たな『魔王』の目覚め―――
『組み換え』による『魔王』の魔力の利用―――
その『魔王』の魔力を利用した者―――『魔王』に近しい存在が―――『勇者』を打ち倒し―――
『勇者』以外の人間―――きみが―――その存在を打ち倒してしまった―――」
「――――!」
「『勇者』により『魔王』が倒される―――
ぼくが定めた『仕組み』から―――完全に逸脱したこの『流れ』が―――
ぼくを―――地表へと呼び出す『トリガー』となった―――」
『僕達』がスクトさんを倒した。
それが『彼』を―――『オリジン・コア』を呼び出す切っ掛けになった……!?
「全ての『不具合』の原因―――
それは―――『魔物が心を持ったこと』に―――起因する―――」
「っ―――!!!」
「魔物が人類の『脅威』であり続ける為の進化の中―――
ぼくが意図しなかった『知性』―――『心』の会得―――
それこそが―――元凶―――
ゆえに―――ぼくはそれを『修正』する―――」
それはつまり、魔物から『心』を失くすということ……?
キュルルからも―――!?
「そして―――その新たな『仕組み』を構築する為に―――
あの『魔王』に目覚めた『スライム』に―――
仕組み』の中核である―――この空間の中で―――
《ワールド・リジェネレーション》を唱えてもらう―――」
「なっ―――!!」
《ワールド・リジェネレーション》……それはかつてダンテさんやウルルが使った『再生魔法』。
自らの身体を『魔力』へと変換し、世界へと溶け込ませる魔法―――!
「それがあの『スライム』を―――捕らえた理由であり―――
ぼくがここに現れた理由―――」
「そ、んな―――!!」
僕の呼吸が乱れていく。
キュルルの『心』が失われることも―――
キュルルが消えてしまうことも―――
僕は―――受け入れることなど、出来ない!!
「ま、待ってください!!
キュルルは―――キュルルは僕にとってかけがえのない、とても大切な存在なんです!!
だから、だから―――!!」
「この決定は覆らない―――絶対に」
ダンテさんは―――断言する。
「魔物に『心』は必要ない。
その為に、あの『スライム』を『使う』。
この『修正』は確実に実行される。
全ては―――『人類』の為に」
「――――――っ!」
今まで途切れ途切れに言葉を紡いでいたダンテさんが―――それだけは、はっきりと言い放った。
「どうしても―――どうしても、止めてはくれないんですか!?
一体どうしたら―――貴方は『それ』を止めてくれるんですか!!」
今から事を成そうとしている相手に、それを止める方法を聞く―――
焦燥に駆られた僕は、そんなあまりにも間抜けなことをしてしまった。
だけど―――――
「『これ』を止める方法は―――ある」
「え―――?」
『自我』が薄れ―――『回答者』となっている彼は、答えてくれた。
「今この場で―――ぼくを『消す』ことが出来れば―――『修正』は行われない」
「――――――」
その余りにもシンプルな解決策を―――
「今のぼくは―――魔力の残滓により、かろうじて存在をこの世界に固着されている―――
きみの持つ『力』をもってすれば―――ぼくを『消す』ことは可能―――」
僕の持つ『力』――――
キュルルのおかげで目覚めた、僕の『エクシードスキル』―――
「ただし―――きみがぼくに対して『敵対行動』を取れば―――
ぼくは『防衛行動』を取り―――
きみの『排除』に動く―――」
「………………………」
「きみがぼくを打ち倒せる可能性は―――限りなくゼロに近い―――
それでも――――『それ』を止めたいというのなら――――――」
「………………………」
ほんの少しの静寂の後―――
僕は―――――――木剣の柄を、握った。
「ダンテさん―――――」
柄の先に、黒い《キッチンナイフ》が形作られ―――
その切先を彼へと向けながら―――僕は、叫ぶ!!
「貴方を―――――倒します!!」
そして、彼は――――
「『敵対行動』を確認―――『防衛行動』に、入る―――」
ただ、静かに告げるのだった――――




