第33話 人間と争いと矛先
「でも、ある人は―――
ぼくを『人間』だと言ってくれた―――」
また場面が変わる。
今度はさっきまでのような『戦い』の光景ではなく―――どこかの建物の一室の中だった。
その部屋の中で『白い少年』が1人、何をするでもなくただじっと座り込んでいた。
そこに―――
『話には聞いていたけど、貴方1人の時はそうやって何もしていないのね』
気さくな調子で彼へと話しかける白衣の女性が現れる。
その女性は数冊の本を持ちながら、『白い少年』に向かって優しく微笑みながら近づいていった。
『これね、『ライトノベル』っていうの。
こっちは『マンガ本』。
まあいわゆる大衆娯楽作品ね。
今の時代、娯楽なんかに資源を回す余裕なんてないって、政府からは発行や所持を禁じられてる物だけど……私はこういうのが『人間』には必要だと思うわ。
ただ他者を害するだけの生物……私はそんなのになりたくないもの』
そう言いながら―――彼女は持っていた本を『白い少年』へと差し出した。
『これは、私の身勝手なエゴ。
私達は敵対者を殲滅させる為に貴方を作り出した。
それでも私は―――貴方は『人間』だと、そう思いたいの。
『人間』で、あって欲しいの』
『白い少年』は、その本を受け取った。
『私の好きなファンタジー物よ。
その本に出てくる『魔法』って力に、貴方の『力』はよく似ているわ』
パラパラと本をめくっていく少年を見ながら―――白衣の女性は、ぽつりと呟いた。
『ひょっとしたら貴方のその力は、誰かを傷つけるだけじゃなく―――
もっと優しい使い方も―――』
その言葉の途中で―――白衣の女性の姿がぼやけていく。
「彼女だけでなく―――僕を『人間』として扱ってくれる人が―――
『優しい人達』が―――たくさん、いた―――」
この空間の背景に、様々な人達の顔が浮かび上がった。
先ほどの女性の他にも、男性や老人、子供の顔なども並んでいる。
その全ての人達が、優しい微笑みをしていた―――
「でも―――皆、死んだ―――」
その言葉と共に、浮かび上がっていた顔が消え―――
次に映し出されたのは―――廃墟となっていく『世界』の姿だった。
「エスカレートしていく破壊の応酬―――
ぼくを作り出した人達も―――
ぼくを恐れた人達も―――
ぼくに優しくしてくれた人達も―――
ただただ―――消えていった―――」
至る所で上がる火の手。
爆発に次ぐ爆発。
空を覆う、ぶ厚い雲。
黒色の雨。
壊れていく『惑星』―――
それが―――僕の目の前に映っていた。
「どちらの勢力も、敵も味方もいなくなった『世界』―――
環境が汚染され尽くし、あらゆる生命が消え果ようとしていた『世界』―――」
その『世界』の中で―――『白い少年』は―――
『こんな世界でも―――貴方に出会えたってことだけで、生まれて良かったと心からそう思えるの』
1人の少女を抱きかかえていた。
『けど―――やっぱり悔しいな。
もっと貴方と一緒に生きていたかった。
この子に、産まれてきて欲しかった』
少女がお腹をさすりながら、悲しげに呟く。
『ねえ、ダンテ―――私、生きたいよ』
僕のよく知る女の子と似た雰囲気を持つ、その銀色の髪の少女―――『白い少年』のことを『ダンテ』と呼んだ少女の瞳から、涙が零れ落ちた。
「ぼくに『最後の名前』を与えてくれた人―――
ぼくを愛し―――ぼくが愛した人―――」
少女を抱きかかえる少年から―――光の粒が零れ出す。
『ダンテ―――?』
光に包まれだす少年を見て、少女は焦燥の声を上げた。
「ぼくは、彼女の―――『彼女達』の生きる世界を―――作り上げたいと、思った。
だから、ぼくは―――」
そして、光そのものとなった少年は―――
『待って!!
ダンテ!!!』
少女の悲痛な叫びと共に―――世界へと、降り注いだ―――
「自らの存在を―――生命力の源―――
きみ達が『魔力』と呼ぶ『力』へと変換し―――
世界を―――この『星』を―――『再生』した―――」
気が付けば―――僕の周りは元の白一色へと戻っていた。
「だけど―――ぼくにはひとつの懸念があった―――
このまま世界を元に戻しても―――
また『同じこと』が起きてしまうのではないか、と―――」
『同じこと』―――それはつまり―――
人間同士の『争い』によって、また世界は『滅びの道』を歩んでしまうのではないか、ということ―――?
僕の考えていることがそのまま伝わったかのように、『白い少年』はコクリと頷いた。
「世界を再生する過程の中で―――『人間』の心から―――『争い』という感情を失くす、ということも考えた―――
でも―――それはもう『人間』ではない気がした―――
『優しさ』も―――『愚かさ』もあるのが―――
『人間』ではないかと―――ぼくは、そう思った―――」
人間が人間である為に、『争い』という『愚かさ』は必要。
しかし、人と人との間で『争い』が起きれば、それは滅亡へと繋がってしまう―――
「だからぼくは―――『争い』の『矛先』を作った―――」
「――――――っ!!!」
『争い』の『矛先』―――
人類同士が『争い』を起こさない為の『必要悪』――――!
「それが『魔物』――――
そして『魔王』――――」
そう語る少年の手には、先程の白衣の女性から渡された本があった。
たしか、『ファンタジー物』だったっけ―――?
「『魔物』、『魔王』、『勇者』の存在をもって―――
人類同士の争いを―――抑制する―――
それが―――」
それが彼が作り出した―――
世界の『仕組み』―――
「ちなみに―――
『勇者』に選ばれた者には―――
特別な魔力と共に―――ぼくの持っていた旧世界の知識も―――若干、与えられることになる―――」
「え、あ………もしかして、今までの勇者様の意味不明な言動って………」
僕達もたびたび振り回された勇者様の謎のノリ。
その原因に触れた気がしたのだった―――




