第32話 僕と『白』
《 ? ? ? 》
「―――――あれ?」
僕は―――『白い空間』に立っていた。
「え、えっ!?
な、なんだここ!?」
僕は訳も分からぬままに周りを見回すが―――見えるのはただ一面の『白』だけだった。
壁も地平線も存在しない、永遠に続いているのではないかと思えるほどの、『白』の空間――――
「い、一体、どうなって……!
僕、確か―――」
そう、確か―――突如として出現した巨大な『白い球体』にキュルルが飲み込まれてしまったのを見た僕は―――何かを考えるよりも先に身体が動いていたのだ。
《バニシング・ウェイト》を唱えた僕は、キュルルを飲み込んだ『白い球体』に向かって跳び出して―――
そして、その『球体』に身体が触れた瞬間―――僕は、いつの間にかこの空間に立っていた。
「っ……!
そうだ、キュルル!
何がなんだか分からないけど、とにかく今はキュルルを―――!」
「きみは―――」
突然―――僕の背後から声が聞こえた。
「―――――っ!?」
慌ててその声の方向へ振り向いた僕が見たのは――――
「きみは―――人間―――?
いや―――魔物の気配も―――感じる―――
不思議な―――存在―――」
この『白い空間』に溶け込んでしまいそうな程の―――『白い少年』だった。
髪も、肌も、着ている服も―――彼は余りに『白』過ぎた。
そして、そのほぼ全てが『白』で構成されている身体の中で―――瞳だけが漆黒に染まっている。
その色彩は―――僕がよく知る『スライム』の女の子とは、まるで対極だった。
彼は―――なんだ?
一体、いつの間に現れたんだ?
そして―――彼を見ていると―――
とても『落ち着く感覚』と―――
とても『恐ろしい感覚』の、矛盾した2つの感覚に見舞われるのは、なんなんだ―――?
何がなんだか分からない―――
それでも、このままただじっとしている訳にもいかない。
僕はゴクリと唾を飲み込み―――ゆっくりと声を出した。
「あ、あの……君は……な、何者―――?」
何とか絞り出したような僕の問いに―――
「ぼくは―――この世界を『再生』した者―――」
彼は、静かに答えた。
「え………?
世界を、『再生』―――?」
目の前の少年が言ったことがよく分からず、その言葉をオウム返しに呟いた僕だったが―――
『ねえ、『原初の魔法』って知ってる~?』
いつかの、ガーデン家のお屋敷でのグリーチェさんとの会話が、僕の脳裏に蘇った。
かつて、この世界は滅亡の危機に瀕していた。
そして、世界を救うために―――ある1人の人間が魔法を唱えた。
それこそが『原初の魔法』―――『再生魔法』 《ワールド・リジェネレーション》
そう、『再生』―――――
「ま、まさか―――!」
目の前の『白い少年』を凝視しながら、僕は叫んだ。
「あ、貴方が『原初の魔法』のお話に出て来た―――この世界を救った『英雄』!?」
瞠目する僕を前に、その少年はニコリと笑う。
「正確には―――ぼくはその『残滓』―――
もはや『自我』も希薄となった―――
世界の『仕組み』を司る為の―――
ただの『機能』としての存在―――」
「…………………っ!!」
この世界を『再生』した英雄―――そんな伝説の人物との突然の邂逅に、僕は言葉を失ってしまうのだった。
「他に―――何か、聞きたいことは―――?」
「え?」
何も言えなくなった僕に『白い少年』がそんなことを聞いてきた。
「『自我』が希薄となった今のぼくは―――
何かを問われれば―――ただ、その答えを返す―――『回答者』となっている―――
聞きたいことがあれば―――いくらでも―――」
「えっ、えっ!
えっと、えっと―――」
ただでさえ訳の分からない状況に御伽話の人物との衝撃的な出会い。
完全にパニック状態になった僕は―――
「と、とりあえず―――貴方のお名前は!?
あ、僕はフィル=フィールです!!」
「ぼくの、名前―――――?」
そんなことを口にしてしまっていた…………
いや、それよりもっと聞くべきことがあるだろ、と頭の中のかろうじて冷静な部分が僕にツッコミを入れる―――
「ぼくの名前は―――――
『第5次世界大戦太平洋連合・生体戦略兵器開発計画・被検体34257号』―――」
「―――――はい?」
『白い少年』の告げた、意味不明な言葉の連なりに―――僕の口から間抜けな声が漏れ出た。
「それが―――――
ぼくの、もっとも古い名前―――――」
そんな『白い少年』の言葉と共に―――
白一色であったこの空間の風景が、変わった。
―――ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!
「―――――!!??」
僕と『白い少年』が立っている場所からはるか遠くで、轟音と共に大爆発が起き―――まるでキノコのような形の煙が吹きあがった。
「かつて、ぼくが世界を『再生』する前―――『西暦』と呼ばれる暦が使われていた時代―――この世界のすべての国々を巻き込んだ、巨大な『戦争』があった。
世界は二分され―――2つの勢力は極限にまで争い合った―――」
この空間の背景が移り変わっていく。
見たことのない縦長の箱状の建物が密集する街に―――筒状の飛行物体が降り注ぎ、凄まじい爆発の連続が起きる。
巨大な鉄の鳥のようなものが、どこかの空の上で舞っている。
不思議な鉄製の武器を構える人々が―――殺し合っている―――
「そして、人類の肉体にはある『可能性』―――きみ達が『エクシードスキル』と呼ぶものがあるということに気付いた、 一方の陣営の研究者達は―――
膠着した戦況を打開する為の『生体兵器』の開発を進め―――」
どこかの実験室のような場所―――
液体に満たされたガラス管が無数に並び、その中には子供達が目を閉じながら浮かんでいた。
その中の一人が―――目を開ける。
「ぼくは―――唯一の成功体として、生み出された―――」
再び景色が変わり―――そこでは、僕の目の間にいる『白い少年』が様々な場所で戦っていた。
いや―――それは『戦い』と呼べるものではなかった。
とある場所では、『白い少年』が手を振るうと―――その眼前全てが炎に包まれ、数千を超える人々が瞬時に焼き払われた。
また別の場所では、『白い少年』の周囲を巨大な竜巻が旋回し、あらゆる建物を薙ぎ払っていた。
「きみ達が『魔法』と呼ぶ『力』で―――ぼくは、ぼくを創った人達の命令通り―――
『敵対陣営』を―――殲滅していった―――」
それは―――圧倒的な『力』による、『蹂躙』だった。
「ぼくを作った人達は、ぼくのことを『英雄』と呼び―――
ぼくを作った人達と敵対する人達は、ぼくのことを『化け物』と呼んだ―――」
『白い少年』は、告げる。
「ある者達にとっての『勇者』であり、ある者達にとっての『魔王』―――
それが―――ぼく、だった―――」
次々に映し出される凄惨な光景と、それを背景に淡々と自身の素性を語る少年を前に―――僕はただ、立ち尽くすことしか出来なかった―――




