第29話 無限とゼロ
「なっ―――――!!」
その『魔法名』が聞こえた瞬間、スクトは息を飲んだ。
馬鹿な、その魔法は使えないはずでは―――!
まさか今までブラフを―――!?
そんな思考が巡るも―――あの魔法を唱えられた以上、もはや考えている時間など無い。
はるか先に見えるフィルの姿が―――
―――トッ…………!
消える。
だが、それよりも前にスクトは―――
「《アンファザマブル・ウォール》!!!」
『超』高等防御魔法を唱えていた―――!
―――ヴンッッッッッッッッッッ!!!
スクトの周囲に、半透明の薄い壁が現れる。
それは内部に『ほぼ無限の空間』を持つ壁。
『硬度』ではなく、物理的な『距離』によって攻撃を殺す、スクトが持つ最強の『防御魔法』
これで―――もう、こちらの負けはない。
スクトはそう確信した。
相手がどれだけの『破壊力』を持とうが、この魔法の前には関係ない。
この『ほぼ無限の空間』を超えることは、何人たりとも不可能なのだから―――!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
とある日―――アリーチェはフィルへと何気なく話しかけた。
「フィル、知っておりますか?
この世界の物体は『質量』を持っている限り、『光』を超える速度は出せないのです」
「ですが、貴方は『質量操作魔法』の使い手。
それにより、貴方は自身の肉体の質量をほぼゼロへと変えることで―――理論上、貴方は光の速度で移動することが出来る」
「ならば、それにわたくしの『加速魔法』を合わせれば―――光をも超える速度を出せるのではないか、そんなことをふと思ったのです」
「それはきっと―――無限の距離すらゼロへと変える、この世の理を超えた速さ、なのでしょうね」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ゾワリと―――スクトは悪寒を感じた。
なんだ―――この嫌な感覚は。
そんなはずがない。
あり得るはずがない。
この壁を超えることは絶対に出来ない。
相手が―――『無限の射程』を持たない限り―――
『無限』を超える程の、速さを持たない限り―――!!!
そう自身へと言い聞かせていた、その時―――
―――フッ………
人影が見えた。
超えることなど不可能な『壁』の内側―――
スクトの前方に―――
「フィル=フィ―――――!!!」
―――タンッ…………!
スクトがその名を呼び終えるより先に―――巨大な『黒い包丁』を振り下ろした姿勢のフィルが、スクトの背後に立っていた。
そして―――――
―――バ………キィィィィイイイッッッ!!!
甲高い音が―――スクトの身体より響き渡った―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「スクト―――――ッ!!??」
サンドリーチェが魔法を放つのも止め、悲鳴のような声を上げる。
スクトの身に何かが起きた。
スクトに分け与えた『魔王』の魔力を介して、サンドリーチェにはそれが分かってしまう。
馬鹿な、まさか、彼が、そんな―――!!!
「全て―――終わりましたわ、お姉さま」
「―――――」
サンドリーチェの背後から―――声が響く。
フィルへと使っていた『加速魔法』を―――自身へと移し替えたアリーチェが、そこにはいた。
「アリィィチェェエエ―――――――!!!」
「《エミッション・アクア》」
―――シュパァッッッッッッッッ!!!
激昂したサンドリーチェが背後へ振り向くよりも先に―――アリーチェの指先から、水流の一閃が放たれ―――
―――バ………キィィィィィィイッッッ!!!
甲高い音が―――サンドリーチェの身体より響き渡った―――




