第28話 フィルと皆の『力』
《 - 勇者学園・出発前 - 》
「フィル」
馬車へと乗り込む直前、アリーチェはフィルへと話しかけた。
「もしも貴方が1人で戦うようなことになったら―――どうかわたくしの『魔法』を頼ってください」
「え―――?」
その申し出に、フィルは困惑の声を上げる。
「スリーチェの『伝達魔法』を使って、わたくしに呼びかけてください。
勿論、わたくしの方に貴方を手助けする余裕があればの話にはなりますが―――」
「あ、あの、ちょっと待ってください。
アリーチェさんの『力』って―――もしかして、あの『加速魔法』のことですか?」
フィルもその魔法については知っている。
あの大陸西側の事件で『水晶ゴーレム』を破壊する為に、自身の『力』と重ね合わせたことがある。
確かにそれが使えればとても頼もしい『力』ではあるが―――アリーチェの『魔力値』のことを考えると、フィルはおいそれと使う気にはとてもなれなかった。
それに―――
「確かあの魔法って―――触れたモノにしか加速を付与出来ないんですよね?
僕が1人で戦ってる時だと、僕に魔法をかけるのは無理では―――?」
そのフィルの疑問に―――アリーチェが答える。
「フィル、貴方もお聞きになったでしょう?
わたくしやスリーチェ、そしてサリーチェお姉さま……『ガーデン家』にはある特性があるかもしれないと」
「―――!
それってリブラ先生が言ってた―――!?」
医務室でリブラより伝えられた推測。
それは―――『ガーデン家』の血を引く者は、他者の『エクシードスキル』を扱えるかもしれない、というものであった。
『マーナ山』でアリーチェが『アーティフィシャルフラワー』の補助無しで走り出すことが出来たのも、何かしらの『エクシードスキル』がその時に発現したから、ということなのらしい。
一緒に聞いていたフィルにとっても、それは驚愕に値する話ではあったのだが―――
「でも―――それが、一体―――?」
尚も疑問の声を上げるフィルに―――アリーチェが再び答える。
「……わたくしはそれを知った時から、あの『マーナ山』で走り出した時の感覚をずっと思い返してきておりました。
もう一度、他者の『エクシードスキル』を発現させることが出来ないかと」
それを聞いてフィルは驚きと感心を同時に抱いた。
まさか、話を聞いたその時から他者の『エクシードスキル』を使えないかを模索していたとは―――
自分が同じ立場であったら、ただただ困惑していることしか出来なかっただろうに、やっぱりアリーチェさんは凄いや、などと改めて尊敬の念を抱くフィルであったが―――
「そして―――わたくしは今、とある『エクシードスキル』を扱えるようになりましたの」
「えっ―――!?」
既に他者の『エクシードスキル』の発現に成功していた―――!?
その事実にフィルは思わず目を見開いて声を上げてしまう。
「い、一体どんな『エクシードスキル』なんですか!?」
「……………」
「―――?
アリーチェさん?」
急に歯切れが悪くなったアリーチェを、フィルは不思議そうに見つめた。
「『コレ』に頼ることになるのは、わたくしとしても非常に癪な所があるのですけれど―――
いえ、ある意味では今のわたくしとフィルとの関係において重要なポイントとなる、思い出深い出来事であったとも言えるのですが―――」
「―――???」
何やらぶつくさと呟き始めたアリーチェの姿に、フィルは更に疑問符を浮かべる。
「……フィル、覚えておりますか?
貴方と出会って間もない頃……痴れ者に襲われたわたくしを、貴方が救ってくれた時のことを」
「え?
それって―――」
それは、学園活動初日に起きた事。
アリーチェはとある人物の手にかかり、危うく命を失いかけたことがあり―――それをフィルが間一髪の所で救い出したのだった。
「その時、わたくしを襲った痴れ者―――レディシュ=カーマインはある『エクシードスキル』を持っておりました」
「レディシュさんが持っていた『エクシードスキル』―――?
えっと――――」
フィルも詳しく聞いたのは事件の後でのことであったが―――
それは確か―――
自身が触れた人物に、魔力を残留させることが出来る『エクシードスキル』―――【レジデュアル・コンタクト】。
そしてその間は―――自身が直接触れている時と、同等の効果が発揮される―――
「あ―――――――」
フィルの頭の中で―――ピースが埋まった音がした―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「『最大規格-6倍』」
自身の身長を優に超える程のサイズの『黒い包丁』を、フィルは握りしめる。
アリーチェと別れる前―――彼女の口付けを受けた左頬からの、熱を感じながら。
彼女が今も、自身に触れているかのような熱を感じながら―――!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まさか『彼女』は『加速魔法』を―――『エクシードスキル』を使って、遠隔で!?」
フィルから遠く離れた位置にいるスクトが、驚愕と共に叫ぶ。
それはスクトにとって、完全に予想外の出来事であった。
あの『マーナ山』で自身が他者の『エクシードスキル』を使えることに気付いていたとしても、この短期間で自身の望む『エクシードスキル』を発現させられるようになるなど―――!
「ほんのついさっきまで―――僕はアリーチェさんの『力』を頼ろうとは思っていませんでした」
フィルは、静かに呟き始める。
「『伝達魔法』で向こうのアリーチェさんの様子は僕にも伝わっていたんです。
彼女のお姉さん―――サンドリーチェさんの相手をしているアリーチェさんには、とても僕の方へと『力』を回す余裕なんてありませんでした。
でも―――スリーチェが、アリーチェさんに『力』を与えてくれた」
「っ………!?」
アリーチェ達側の状況を把握していないスクトには、フィルが何を言っているかは分からない。
だが―――向こうで『何か』が起きたということだけは分かった。
「僕にかけられたヴィアさんの『高等強化魔法』が解けた、その瞬間とほぼ同時に―――アリーチェさんは僕へ『加速魔法』をかけてくれた。
そして『加速』は僕の『身体』―――僕の『眼』にも作用して、貴方の動きを捉えることが出来た」
先程フィルが上げた困惑の声は、『高等強化魔法』が解けたからではなく、アリーチェからの連絡―――彼女から『加速魔法』を受け取ったことによるものだったのだ。
「僕は、アリーチェさんから『力』を受け取った。
そのアリーチェさんは、スリーチェから『力』を受け取った。
そしてスリーチェのことを、皆が守ってくれている―――」
フィルは確信と共に、告げる。
「これは『僕達』の『力』です」
「―――――ッ!!!」
そして―――
「これで最後です―――スクトさん」
そして、フィルは―――唱える。
「《バニシング・ウェイト》――― 」
全てを終わらせる為の、その魔法を。
両親が遺してくれたナイフの効力―――その『代償』により、キュルルの欠片達による魔法の『形成力』が弱体化した今のフィルには、その魔法は扱えないはずである。
だがこれは―――『キュルルの欠片達』による補助を受けない、フィル自身による魔法の発動であった。
誰かからの『力』に頼ることのない―――
フィル自身の『力』――――!
「《オリジン・ゼロ》!! 」
その『魔法名』と共に―――フィルは大地を蹴った。




