第26話 スリーチェと『皆』
胸の前で強く両掌を握り締めているスリーチェの表情は苦悶に満ちていた。
自身の『魔力』―――『生命力』を創り出す『恒常魔法』を解いてしまった彼女は、本来であれば既にその命は失われているはずである。
そんなスリーチェが今もなお、生き続けているのは―――同じく苦悶の表情で彼女を抱きしめる、グレーテリーチェの『力』によるものだった。
それは、自身の『魔力』を他者と共有する魔法―――《ウィズ・アライブ》。
その魔法により、グレーテリーチェは自身の魔力をスリーチェへと供給し、彼女の命を繋いでいた。
そして、この魔法を使用にするには、魔力を共有する相手側―――つまりスリーチェが、この魔法を自発的に受け入れる必要があった。
スリーチェちゃん、わたしはね――――今まで、貴女に真実を教えるつもりはなかったの。
グレーテリーチェは、心の中で静かに独白していた。
あなたはいつだって、怒りや恨みというものを他人ではなく、自分自身へと向けてしまう。
そんな貴女が、最愛の姉が自分を生かす為にあんな身体になってしまった、ということを知ってしまったら――― 一体どれだけ自分を責め立てることになるというのでしょう。
そんな貴女が、『開錠』の存在を知ってしまったら―――きっと躊躇いなく自身の命を差し出してしまうのでしょう。
そして、わたしのこの魔法のことを話しても―――貴女はきっと受け入れないのでしょう。
だから、貴女に真実を話すことはきっと永遠にないのだと、そう思っていたの。
けれどあの日、学園西側で強襲事件が起き―――『勇者学園』から戻って来た時の、貴女を見て―――
『でも今は……!
わたくしも、『勇者』になりたいと……!
そう思っておりますの……!
あの時の『彼』みたいに……!
誰かに『勇気』を与えられるような、『勇者』に!』
何かが変わったと―――そう思った。
そして今―――『最大の敵』となってしまったサリーチェ姉さまを前にして―――
それでも、こうして立ち続ける貴女を見て―――
もう貴女は大丈夫だと、そう思ったの―――!
だから、だからね―――――!
「わたしが―――絶対に、貴女を死なせたりはしない!」
グレーテリーチェは―――腕の中の妹へと、力強く告げる。
だがその時、上空から―――
「スリーチェ……!!
グリーチェェエエッッ!!!!」
その『淑女』の『叫び』が聞こえた、その次の瞬間―――
「「「「ウォオオォォオオオオォォオオオオオオオオォォォ!!!」」」」
「―――――っ!!!」
『シルバー・ワーウルフ』を始めとした、魔物の群れが迫る。
それを見たグレーテリーチェは魔法による身体への負荷をおして長剣を片手に握り、腕の中の妹を守ろうと―――!
「大丈夫ですわ、グリーチェお姉さま」
その腕の中から―――とても穏やかな声が響く。
「だってここには―――『皆』がおられますもの」
―――ザンッッッッッッッッ!!!
その爪や牙が、スリーチェとグリーチェに触れる前に、魔物の群れが一掃された。
この場に現れた―――『皆』によって。
「「「我ら『園芸用具』一同―――遅ればせながら、ここに参りました!」」」
ファーティラ=ガーデニングが。
ウォッタ=ガーデニングが。
カキョウ=ガーデニングが―――
「お嬢様ッ!!
先程は貴女の身に危険が迫っておりながら何も出来なかったこと、心からお詫びします!!
もう二度と―――貴女を危機に晒したりはしませんッ!!」
プランタ=ガーデニングが―――
「本音を言うと、ウィデーレさんと一緒に戦いたかったけど―――チームを組んだよしみ。
最後まで、皆と一緒に戦う。
ね、バニラ」
「うん! 私もキャリーちゃんと一緒に、最後まで頑張るよ!」
キャリー=ミスティが。
バニラ=タリスマンが―――
「ふっっっっっははははははは!!!!
さあ!! この場に居る全ての者よ!!
その目に焼き付けよ!!!
この最強勇者が仲間達を守り切る、その姿を!!!!」
コリーナ=スタンディが―――
「ふん―――『マーナ山』での借りを返してやる。
ありがたく思うのだな」
イーラ=イレースが―――
「ったくあの性悪エルフ!
こんな時まであんなかよ!」
「まあ、いいじゃないですか! あの人らしくて!
僕―――俺も、俺らしく行きます!」
「うん! 私も、私に出来ることを、全力で!」
アニー=ウォルフが。
アルス=モートが。
ティアー=グラッドが―――
「さぁて、ここいらが―――!!」
「正念場ってヤツだよなぁッッ!!」
ミルキィ=バーニングが。
ヴィガー=マックスが―――
スリーチェとグリーチェを、守り抜く。
彼らを見つめながら―――スリーチェは告げる。
「ここは―――『勇者学園』ですもの!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「まさか、全ての『水晶ゴーレム』が―――!?
『勇者一行』ならいざ知れず―――あんな子供達に―――!?」
愕然とした表情を浮かべるサンドリーチェは、もはや余裕の無さを隠すことが出来なかった。
「お姉様―――もう『貴女達』は勝てませんわ」
「―――!!!」
そんなサンドリーチェとは対照的に、アリーチェは泰然として口を開く。
「どれだけ強大な『力』を得たとしても―――たった『2人』では『わたくし達』には敵わない」
「なに、を―――!!」
アリーチェを睨みつけながら、サンドリーチェは声を荒げた。
「まだ―――まだよ!!
スクトがここに来れば―――彼と一緒ならば、全ての状況は覆る!!
今のスクトの力は『勇者』アルミナをも超える!!
彼は必ず『勇者』を倒し、そして彼の元に向かったフィル=フィールも―――!!」
「言ったはずですわよ、お姉様」
サンドリーチェの言葉を遮り―――アリーチェは、告げる。
「『貴女達』は―――『わたくし達』には敵わないと」




