第25話 還る力と2人の力
―――カッッッッッッッッッ!!!!!
サンドリーチェは―――驚愕と共に閉じた片目を見開いた。
突然『嵐』の内側より、強烈な光が放たれたのだ。
その次の瞬間―――
―――シュォアッッッ………!!!!
『破滅の嵐』が―――消失する。
「な―――に、が―――」
呆然と呟いたサンドリーチェは―――『それ』を見て言葉を失くす。
消失した『嵐』の中から姿を現した、自らの妹の―――可視化されるの程の、凄まじい魔力の輝きを―――!
「これ、は―――?」
そしてアリーチェ自身もまた、自らの身体を見下ろしながら戸惑いの声をあげていた。
あの『破滅の嵐』が自身を飲み込もうとした、その直前―――身体の内側から止めどない魔力の奔流が湧き上がり、一瞬の内に身体の負担が消え去ったのだった。
咄嗟に【マジック・ドミネイト】によって『嵐』を消失することは出来たものの、自身の変化についてはまるで分かっていない様子のアリーチェに対し―――
「―――――っ!!
まさか―――!!!」
サンドリーチェはある『心当たり』に突き動かされ、地上にいる『彼女』の―――『彼女達』の方へと視線を向けた。
それは、先程この場に現れた―――もう2人の妹。
スノウ=ホワイリーチェ=ダリア=ガーデン。
グレーテリーチェ=ガーベラ=ガーデン。
サンドリーチェの隻眼に、その2人の姿が写る。
スリーチェは両手を胸の前で強く握り―――グレーテリーチェはそんなスリーチェを優しく抱きしめていた。
それを見たサンドリーチェは―――
「まさか―――スリーチェが『開錠』したというの!?
グリーチェがあの子に真実を伝えるなんて―――!」
その隻眼を見開いたままに焦燥の声をあげた。
「『開錠』―――?」
アリーチェがぽつりと、サンドリーチェが発したその言葉を繰り返した直後―――
『お姉さま―――』
「―――!
スリーチェ―――!?」
アリーチェの頭の中に、スリーチェの『伝達魔法』による声が響いた。
そして――――
『わたくしは―――ずっとお姉さまに生かされておりました。
今のわたくしがあるのは、お姉さまのおかげだったのです。
本当に―――本当に、ありがとうございます』
「―――――!」
その言葉で―――言葉に込められた強い『感謝の意志』によって―――アリーチェは全てを理解した。
『貴女が与えてくれたものを―――今この時だけ、お返しします。
だから―――!』
アリーチェの頭の中に―――
アリーチェの心に―――
『どうか―――勝って、帰ってきてください!!
アリーチェお姉さま!!』
力強い声が響き―――
「ええ―――勿論ですわ!!
スリーチェ!!」
その声に負けないぐらい力強い声で、アリーチェは応える―――!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
スリーチェの『開錠』によるアリーチェへの魔力の還元。
その完全に予想外な出来事に、今まで決して崩れることのなかったサンドリーチェの表情に綻びが生じる。
「しかし―――それでもまだ、こちらの有利に変わりはない!
アリーチェに通常の『魔力値』が戻ったぐらいでは、今の私には―――!」
そう言いながら、地上のスリーチェ達から目の前に対峙するアリーチェへと視線を戻したサンドリーチェは―――
「《エミッション・フレイム》」
―――ポッ……………!
こちらへと向けられていたアリーチェの人差し指から―――小さな『炎の蝶』が生まれるのを見た。
「な、何を―――?」
その余りにも場違いな、児戯のような魔法に思わずサンドリーチェは呆けたような声を出してしまう。
だが―――
―――ポッ、ポッ………
その『炎の蝶』が―――2匹、3匹と増えていった。
それをサンドリーチェが認識した、次の瞬間―――
―――ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポッ、ポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポポ……!!!
「なっ――――!!!」
瞠目するサンドリーチェの前で、10匹、100匹、1000匹――― 一瞬の内に、万を超える数の大群と化す―――!
「《フレアモルフォ・レギオン》」
アリーチェが『魔法名』をぽつりと零すと―――
―――ボァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
『炎の蝶』の大群が―――サンドリーチェへと向かう!!
「うっ―――ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
サンドリーチェは前方へと右手を伸ばし、襲い来る『炎の蝶』を【マジック・ドミネイト】によって無力化しようとする。
だが―――!
「かっ―――数が、多すぎる―――!!」
その余りにも膨大な『量』の前に―――『掌握』はおろか『消失』すら間に合わない。
そして高速で飛来する『炎の蝶』の大群は前方のみならず、上下左右あらゆる方向からサンドリーチェを包み―――
―――ゴォォォォォォォォォォオッッッッ!!!!
「か―――はぁッ―――――!!」
『炎の蝶』で構成された巨大な『炎球』にサンドリーチェは閉じ込められた。
常人であれば灰すら残らぬほどの超高温の空間に、サンドリーチェの口から苦悶の声が漏れる。
「―――《ルイン・テンペスト》ッ!!!」
―――ヒュゴォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
その確かな『命の危機』の気配に―――サンドリーチェは再び魔法で構築された左腕から、『破滅の嵐』を自身の周囲へと放った。
その圧倒的な『暴威』により、彼女を包んでいた『炎の蝶』は吹き散らされる。
「はぁッ……はぁッ……!!!」
危機を脱したサンドリーチェであったが―――その心中は自らが放った『破滅の嵐』の如く吹き荒れていた。
『初等魔法』による攻撃を、『高等魔法』で対応させられた―――!!
余りにも道理に合わぬ、ふざけた現実。
サンドリーチェは改めてその現実を生み出した存在を見つめる。
末妹にかけられた『恒常魔法』が解かれ、元の『魔力値』へと戻った自身の妹―――
「いや―――違う!!
それだけでは説明が付かない!!
如何にあの子に才能があろうと、これ程までの『力』なんて―――!!」
「『これ』はわたくしだけの『力』ではありませんわ」
「―――――!?」
自然と口に出してしまっていたサンドリーチェの困惑の叫びに―――アリーチェが答えた。
「わたくしにただ魔力が還元された、というだけではないのです。
今、わたくしの中から溢れる魔力には―――サリーチェの『意志』が宿っております。
もう二度と姉を失いたくない―――そんなあの子の強い『願い』が魔力へと溶け込み、わたくしの持つ『力』を増幅しているのです。
つまり―――」
アリーチェは、『最愛の姉』にして『最大の敵』へと告げる。
「これは―――わたくしとスリーチェ、2人の『力』なのです」
「―――――――っ!!!!」
サンドリーチェは息を飲みながら見つめる。
目の前にいる妹を。
そして、地上で祈りを捧げるように両手を重ね合わせている、もう一人の妹を―――




