第22話 僅かな時間と近づく決着
その2人の『淑女』の間で―――数多の魔法が交差し続けていた。
「くっ―――――はぁッ!!」
―――ヒュバァッッッッッッ!!!
「ふふ―――――」
―――シュォッ………!!
時に放たれた魔法をそのまま返し、時にその魔法を瞬時に消失させる。
互いに互いの魔法を利用し合い、放ち合い、消し合う。
この戦いに決着がつくことなど永遠に無い―――
「と―――いう訳でも、ないのよね」
「っ…………!」
顔色一つ変えずに戦い続けているサンドリーチェに対し―――アリーチェは焦りを滲ませた表情で息を詰まらせた。
「確かに互いに他者の魔法を利用することが出来る私達の戦いは、一見不毛に思える。
しかしアリーチェ―――貴女は自分から強力な魔法を放つことが出来ない。
そうなると―――《シュル・エアーラージ》!」
―――ボッッッッッッ!!!
サンドリーチェの魔法によって生成された左手から、巨大な『空気の砲弾』が撃ち出される。
「―――っ!
ふッ―――!」
その『砲弾』は、アリーチェの掌に触れた瞬間にピタリと止まり―――
「はぁッ―――!!」
―――ボヒュッッッッッ!!
サンドリーチェへと撃ち返された。
「そう―――貴女は私の魔法を『掌握』し、放ち返すという方法を主軸に戦うしかない。
それに対して―――」
スッ……とサンドリーチェが静かに右手を差し出し―――その右掌に撃ち返された『砲弾』が触れた瞬間―――
―――シュォッ……!
その『砲弾』が、消失する―――
「自ら魔法を放つことが出来る私は、貴女からの魔法攻撃を必ずしも『掌握』する必要は無い。
こうして魔法を『消失』させるだけでも十分戦える」
同じ『エクシードスキル』を使える者同士―――しかし、両者の『土台』が違った。
500という極端に低い『魔力値』のアリーチェと、20000以上の『魔力値』を持つサンドリーチェ。
しかもサンドリーチェは現在『組み換え』による強化までされている。
「ただ魔法を霧散させるだけの『消失』と―――
相手の放った魔法の構造を把握し、自身の物として扱えるようにする『掌握』―――
一体どちらの作業の方が使用者の負担となるのか、語るべくもない」
「………………」
アリーチェは、声を挟むことなく静かに佇んでいた。
いや―――
「そんな作業をこの短時間の内に数十、数百と繰り返す。
それは強化された今の私でさえ、容易には行えない行為。
例え同じ『エクシードスキル』を持っていた者が他にいたとしても―――常人であればとっくに倒れているか、莫大なイメージ処理に精神が崩壊してしまっていたことでしょう」
「………っ………!!」
アリーチェは口を挟まないのではなく―――挟めないのだった。
強烈な頭痛―――魔法の『掌握』作業による精神への負担に耐えている彼女は、一言も声を発することが出来なかったのだ。
「やはり、貴女はとても素晴らしい才能を持っている。
『私』にとって、とても誇らしく―――『私達』にとって、とても危険な存在だった」
自身の荒い息を隠せなくなりつつあるアリーチェを見つめながら―――サンドリーチェは冷たい声で告げるのだった。
そして、アリーチェは――――
「『才能』………だけでは、ありませんわ……!」
「―――――!」
絞り出すように、声を放つ。
「絶対に……貴女を止めるという、『意志』が………!
別の場所で……今も戦っている『彼』に、負けていられないという『誓い』が……!
そして―――――!」
とっくに気を失っていてもおかしくない負担の中で―――彼女は『ニッ……!』と笑いながら、言った。
「この程度で値を上げていては、あの『スライム魔王』に笑われてしまうという『意地』が!!
わたくしに『力』を与えているのですわ!!」
アリーチェは決して揺るがぬ瞳で、サンドリーチェを睨みつける。
その瞳を見て、サンドリーチェは僅かに―――しかし、確かに焦りを感じた。
見誤れば、自分は『呑まれる』と―――
「ええ、そうねアリーチェ。
貴女は強い。
私が知る者の中で、誰よりも。
だから―――――」
サンドリーチェは、自身もまた笑いながら、力強く告げる。
「全力をもって、貴女を倒すッ!!!」
そしてアリーチェもまた―――力強く告げる。
「ならば、わたくしは―――『わたくし達』は!!
全力で『貴女達』を止めてみせる!!!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「 《ローバスト・ウォール-エッジ・ストーム》」
―――ヒュバババババババァァァッッッ!!
「うぐっ―――ああああああッッッ!!!」
その『刃の嵐』を、フィルは辛うじて防ぎきった。
強化された肉体を全身全霊で動かし、刃と化した『防御壁』を叩き落す。
だが―――決して無傷では済まなかった。
頬や腕、脇腹などに出来た傷から流れ出した血は、制服に赤いシミを作り、地面へと流れ落ちる。
「うおおおおおおああああああッッッ!!!」
―――ダッッッ!!!
フィルはそんな身体の傷に構うことなく、その脚で大地を強く蹴り、スクトへと肉薄する。
しかし―――
「 《アクセル・タイム》」
―――フッ……!
「―――っ!!」
スクトは即座に『時間魔法』による加速でフィルから離れる。
一瞬のうちにその場から数十メートル以上後方へと移動したスクトは―――
「 《ローバスト・ウォール》」
―――ヒュバッッッッ!!
再び『防御壁』の刃を奔らせる。
「ぐぅっ―――――!!」
―――ギィィンッッ!!
フィルもまた、再びそれをどうにか防ぐ―――そんな攻防がこの場では繰り返されていた。
スクトは常にフィルから距離を取り、 《ローバスト・ウォール》の刃による遠距離からの攻撃を続けている。
肉体時間を加速する『時間魔法』《アクセル・タイム》はフィルからの攻撃を避け、距離を開ける用途にしか使っていなかった。
あの超加速をもってすれば、再びフィルの背後を取ることも可能であるはずだが―――スクトは決して自分からフィルには近づかない。
戦いの中で、スクトは冷静に思考していた。
どれだけ身体強化が施されていようと、彼の実力は『勇者』アルミナに遠く及ばない。
その気になれば一瞬で戦いを終わらせることも出来るだろう。
だが―――
スクトは自身の腹部、そして左腕をチラリと見た。
髪を赤色に染めたアルミナの攻撃によって出来た腹部のヒビ―――そして、フィルの攻撃によって出来た左腕のヒビを―――
あの『黒い生成物』による『破壊力』。
この一点に限って言えば、彼は『勇者』にも匹敵―――いや、今の彼ならばそれを超える可能性もある。
腕のヒビは『5倍』のサイズの『黒い包丁』により付けられたものだが―――彼は更にもう一段階サイズを増大させることが出来たはずだ。
万が一にでもアレを叩きこまれるリスクは避けたい。
それがスクトが遠距離攻撃を続ける理由であった。
そして―――フィルのあの動きも、長くは続かないとスクトは睨んでいた。
彼が今もスクトの『刃』に対応できているのは、2つの『強化魔法』の力によるものであり―――その内の1つ、ヴィア=ウォーカーによる『高等強化魔法』 《エクストラ・バイタリゼーション》は短時間しか作用しない。
『高等強化魔法』が解けた瞬間に―――彼の敗北は決定するのだ。
そう―――彼に残された時間は後僅か。
今も必死に刃に『黒い包丁』を振り続けるフィルを見ながら、スクトは呟いた。
「どんなに甘く見積もっても―――あと数分といった所かな」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「 《カタストロフィック・ゲイル》!」
―――ビュォォアアアアアアアアアア!!!
「―――――っ!!!」
自分のみならず、地上にいる生徒達を容赦なく飲み込むであろうその『風獄』を―――
「はああああッ――――!!」
―――シュォッッッ!!!
アリーチェは瞬時に『消失』させる。
「はぁッ……はぁッ………!!」
「ふふ……魔法の『掌握』を行う余裕もなくなってきたみたいね」
大きく肩を上下させながら息をしているアリーチェは、誰の目から見ても限界が近いことが明らかであった。
もはや意識を保つことすら困難であろう自らの妹の姿を見ながら、サンドリーチェは呟いた。
「もって―――あと数分といった所かしら、アリーチェ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
全ての決着が、近づいていた―――――




