第20話 淑女ともしもの世界
「はぁッ――――――!!!」
―――ビュオォォォォォォォォォッッッ!!
蝶の羽根を模した『翼』をはためかせ、アリーチェは『魔法の嵐』の中を突っ切っていく。
互いに互いの魔法を利用できる以上、魔法の撃ち合いは不毛なだけ。
ならば―――
アリーチェは、腕部のパーツから突き出された細身の刃を構え―――
サンドリーチェの前まで辿り着くと―――
「ふッ―――――!」
その刃を―――突き出す!
しかし、その前にサンドリーチェは笑みを浮かべると―――
―――フ………!
「――――――!!」
その姿が、一瞬のうちに消え去る。
アリーチェの刃は誰もいない空間を空振るのみであった。
「これは『マーナ山』でウィデーレさんの魔法を避けた時の―――ッ!
そこッ!!」
―――ヒュバッッッッ!!!
かつての戦いの記憶を想起させたアリーチェは―――自身の後ろからの気配を感じ取ると、即座に振り向きつつ、指先から《エミッション・アクア》による高圧水流を放った。
「この素早い反応―――流石ね、アリーチェ」
―――シュオッ……!!
背後からアリーチェを狙おうとしていたサンドリーチェは、不意打ちが失敗したことに何ら焦ることなく―――その水流を瞬時に消し去った。
―――バッッ!!
アリーチェは素早くサンドリーチェから距離を取り―――
「はっ……はっ……!
ふぅ………お姉様」
小刻みに呼吸を行いながらも、静かに口を開いた。
「今の『空間跳躍魔法』は―――おそらく、今まで何度も見ていた『門』の超簡易版ですわね?
事前に『設置』していた跳躍場所へと、即座に跳ぶことが出来る魔法。
ただし距離は極端に短く、『設置』も長くは持続しない、といった所でしょうか」
「………本当に流石ね、アリーチェ。
姉として誇らしいわ」
「そして―――」と言葉を続けながら、サンドリーチェは生身の右腕と、魔法によって生成された左腕を広げ―――
「確実に始末しなくてはいけない、ということが―――より鮮明になったわ」
―――シュオオオオオオオオオオッッッッ!!!
その両腕から―――再び凄まじい魔力の奔流が吹き荒れる。
「お姉様……今まで使われていた『空間跳躍魔法』はイーラさんの姉―――ポエナ=イレースが持っていた物なのですよね。
それを貴女やスクトさんまでが使えるのは―――」
「私の持つ『力』によるものよ。
他者が持つ魔法を自己へ、自己が持つ魔法を他者へと分け与えることのできる『エクシードスキル』―――【マジック・デストリビュート】」
穏やかな声色のまま、彼女は話を続けた。
「ポエナさんとは、魔力制御のナイフを作成した者を探し出したことにより出会ったわ。
我々の計画の為に、あのナイフの力をより高める必要があると考えたから。
そして、彼女を一目見ただけで分かった。
彼女が―――我々と同じ『地獄』にいることが」
「………………!」
アリーチェの脳裏に、キュルルから聞いた『魔王』に目覚めた『スライム』の話が蘇る。
ベリル=ビーイングが出会ったという『悲しい目をしたエルフ』というのは、やはり―――
「あの人は我々の計画に賛同を示してくれたわ。
『オリジン・コア』に残るこの世界に関する情報―――死者の情報に触れることが出来るという『望み』を叶えてあげる為に。
我々がいずれ『オリジン・コア』を破壊するつもりであるということを、承知の上でね」
「…………………」
アリーチェは思う。
ポエナ=イレースはかつて『オリジン・コア』に侵入することで死に別れた伴侶に合うことが出来ると言っていた。
だがサンドリーチェの話によれば『オリジン・コア』には残るのはあくまで死者の『情報』。
生きた人間そのものではない。
仮にポエナ=イレースの『望み』か叶っていたとしても、出会えるのは生前の伴侶と同じ姿をしただけの『幻』―――それを彼女が分かっていなかったとは思えない。
分かっていながら―――縋ったのだろう。
「そして、貴女はポエナ=イレースから『空間跳躍魔法』を授かり、それをスクトさんへも分け与えた―――そういうことですのね」
「ええ、更に私はナイフを介して『オリジン・コア』からの『力』を微弱ながら利用することが可能となっていた。
かつてベリル=ビーイングが『オリジン・コア』から力を得ていたようにね。
それにより、スクトやポエナさんの使う魔法の出力を数十倍に引き上げることが出来たのよ」
それが、コーディス達やイーラの兄―――トリスティスが疑問に思っていた、スクト達が扱う魔法が通常では考えられない程に強化されている理由だった。
「全ては、私が『オリジン・コア・レプリカ』に触れ、情報を得て、その機能の一部を掌握することが出来たことに起因していたわ。
私の『エクシードスキル』の目覚めも、ベリル=ビーイングの『エクシードスキル』を使用できるようになったのも」
「…………」
アリーチェは―――淡々と全てを語る姉の姿を見ていた。
「スクトが表の世界で王国護衛隊、そして『勇者一行』として活動する傍ら―――私は身を隠し、強化された『魔法』や『エクシードスキル』を自由に扱えるように調整作業を行い続けていた。
そして5年の月日が経ち、『力』の調整や計画の目途が立った頃―――コーディス=レイジーニアスによる勇者学園設立の報を聞いた私達は、それを利用することを考え―――そして動き出した」
「本当に―――全ては貴女が始めたこと、なのですね」
そう呟いたアリーチェの瞳を―――サンドリーチェは決して逸らすことなく見つめ返し、答えた。
「そう。
全ての歯車が噛み合い、今という結果が生まれた。
私とスクトが出会っていなかったら。
私達とウルルさんが出会っていなかったら。
私がガーデン家の娘でなかったら。
どれか一つでも、何かが違っていたら―――」
そんな『もしもの世界』を語るサンドリーチェは――――「フッ」と自嘲的な笑みを浮かべた。
「いえ―――今更、そんなことはどうでもいいわね」
「お姉様―――」
サンドリーチェは、もうそれ以上語り出すことはなく―――
「さあ―――続きと行きましょう。
《ディレクティビティ・バースト》!」
―――ボッッッッッッッッ!!!!
「―――ッ!!
はぁッ―――!!!」
魔法の応酬が、再び始まるのだった―――




