第19話 『勇者一行』と『魔物』
「これで終わり―――!!
《ピンポイント-エレメンタル・シャワー》!」
―――ピシュァッッッッッッ!!!
ウィデーレ=ヘイムが放った、一点集中の『槍の雨』は――――
―――ガッ……キィィィイイイイッッッ………!!
『水晶ゴーレム』の身体を、三分の一未満まで削り切った。
「「「う、おおおおおおおおッッ!!!」」」
フィルが倒したものに続き、2体目の『水晶ゴーレム』討伐を目にした生徒達は、一斉に歓声をあげる。
しかし、その討伐を成し遂げた当人であるウィデーレは決して表情を緩めることなく、次に自身がやるべきことを見定め始めた。
魔物の群れに対応している生徒達の援護に回るべきか。
残っている『水晶ゴーレム』討伐に加わるべきか。
それとも―――
一瞬の内に様々な思考を巡らせたウィデーレが一番に懸念したのは、先程この場に現れた『淑女』―――サンドリーチェについてだった。
あの『淑女』の相手は現在、彼女の妹―――アリスリーチェがしているはずである。
しかし、自らも『レスピレーティア』周辺で相対したあの『淑女』の実力は、『勇者一行』である自身と比べても決して劣らない。
『魔王』の魔力の『組み換え』とやらが済み、あの時よりも更に力を増したとなると―――アリスリーチェ1人では荷が勝ちすぎている。
そう結論付けたウィデーレは、彼女達の姿を探す。
今、あの2人はここから離れた場所で戦っている。
他の生徒が巻き添えにならないように、アリスリーチェが誘導する形で戦場を移したのだ。
ウィデーレは即座に『飛行魔法』で空中へと浮かび上がると、彼女達の姿を探す。
手遅れになる前に、早く見つけないと――――
そう思いながら周囲へ目をやったウィデーレは――――その2人の姿を見つける。
「なっ―――――!」
そして、彼女は同時に理解する。
あの戦いに―――自分は決して加われないと。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
2人は―――互いに互いの魔法を利用し合っていた。
「 《サンダー・ジャベリン-ラージ》」
サンドリーチェの右掌から、巨大な『雷の槍』が放たれる。
凄まじい速度でアリーチェへと向かったその『槍』は―――差し出されていた彼女の左掌へと触れられると―――
「はッ――――!」
そのままの速度で、サンドリーチェへ向かって撃ち返された。
アリーチェの掌に『雷の槍』が触れた瞬間、彼女の『エクシードスキル』【マジック・ドミネイト】によって一瞬の内にその魔法を掌握し―――即座にその軌道を反転させたのだ。
そして返された『雷の槍』は―――
―――シュアッッ……!
サンドリーチェに触れると同時に、消失する。
彼女もアリーチェと同じように【マジック・ドミネイト】を用い―――その魔法を無効化したのだ。
そんな魔法の応酬が―――1秒の間に、10を超える回数繰り返され続けていた。
遠目にその戦いを見るウィデーレは理解してしまう。
下手にこの戦いに魔法による横槍を入れようものなら―――それは即座に攻撃へと『転用』されてしまうであろうことが。
「この私が、『魔法戦』に手を出すことが出来ないなんて―――全くもって、酷い冗談ね……!」
普段と同じく余裕の色を含んだ声で呟くウィデーレであったが―――その掌は固く握られ、震えていた。
そんな自身の中に湧き上がる感情を押さえつけ、改めて自身がどう動くべきかを思案しようとした、その時―――
「ギアアアアアアアアアアアアッッッッ!!」
「―――っ!!!」
ウィデーレの耳に、『ドラゴン』の叫びが聞こえた。
その叫び声の方向へ目を向けると、そこには―――巨大な黒い翼をもぎ取られた『黒竜』の姿があった。
「グ………ゴアアアアアアッ……!!!」
『黒竜』―――『ブラックネス・ドラゴン』の前では、『金竜』と『銀竜』が黒い翼を片翼ずつ咥えていた。
いかに最大級の硬度の鱗を持つと言われている三大『危険域』ドラゴンの一角とはいえ、同じ格の『ドラゴン』相手に1対2―――この結果は必然とも言えるだろう。
もぎ取られた翼の断面から止めどない血をまき散らしながらも―――『ブラックネス・ドラゴン』は決して背を向けず、2体の『ドラゴン』の前に立ちはだかり続けていた。
「コアアアアアア…………!!」
―――シュアァァァ………!!!
『銀竜』の口の中に再び魔力の奔流が巻き起こり始める。
満身創痍に近い『黒竜』にトドメを刺すべく―――
「 《エレメンタル・シャワー》!!」
―――ヒュバババババッッッッッッッ!!!!
そんな『銀竜』に向けて―――様々な属性の『槍の雨』が放たれた。
『銀竜』の魔法発動を阻止する為に。
『黒竜』を、守る為に―――
「ゴアァァッッ!!!」
―――ドッッッッ!!!
だが、その『銀竜』の前に『金竜』が素早く降り立つ。
『魔法師殺し』の名を冠するその『ドラゴン』が持つ金の鱗は、あらゆる魔法を反射する。
『槍の雨』はその全てが反射され、魔法を放った者―――ウィデーレへと向かってしまう―――
「―――なんてことには、ならないわ!」
―――ヒュヒュヒュヒュッ………!
ウィデーレは突き出していた指先を上下左右へと素早く動かす。
すると、全ての『槍の雨』がその軌道を変え―――『金竜』を避けた。
「ゴァッ!?」
そして驚愕のような叫びを上げた『金竜』の背後に立つ『銀竜』に―――
―――ドドドドドドドドッッッッ!!!!
「グギィアアアアアッッッ!?」
『槍の雨』が炸裂し―――『銀竜』が放とうとしていた魔法は霧散する。
「フッ――」と笑みを浮かべるウィデーレであったが―――
「グォオオオアアアアアッッッ!!!!」
「―――――っ!!」
怒りの叫び声を上げながら、『金竜』がウィデーレへと襲い掛かる。
『魔法』を反射されてしまう以上、ウィデーレには迎撃の手段はない。
ウィデーレの小柄な身体が、『金竜』の巨躯に圧し潰される―――その直前。
「 《サーペント・ブロウ》!」
『 《デグレート・デッドリー・ロアー》!』
―――ゴァッッッッッッッッ!!!
「ギァアアアアアッッッ!!!」
巨大な蛇達による鞭打と、高圧縮された『音』の衝撃により―――『金竜』は後方へと吹き飛ばされた。
「コーディス! ロクス!」
「すまない、遅れてしまった」
『ようやくこっちも『水晶ゴーレム』を片付けられたよ』
この場に駆け付けたコーディスとロクスがウィデーレの前に降り立ち―――
「1人で無茶しないでくださいよー、ウィデーレ。
あの2体にどれだけ苦労したか忘れちゃったんですかー?
ほら、 《エクストラ・バイタリゼーション》」
「ヴィア……うん、ありがとう」
あまり緊迫感を感じない声をかけながら、ヴィアは『強化魔法』を唱える。
そうしてこの場に集まった『勇者一行』の仲間達へ向けて、ウィデーレは改めて口を開いた。
「さっきの『シルバー・フィロソファーズドラゴン』を庇った『ゴールデン・リフレクトドラゴン』―――凄い速さだった。
5年前に戦った時には、あんな動きはしていなかったわ」
「ああ、それに先程の私とロクスの同時攻撃もあまり堪えてはなさそうだ」
『多分、スクト達の仕業だろうね』
「あの2体の『ドラゴン』も強化されている、ってわけですかー……ホントに勘弁して欲しいですよねー」
そんな会話を交わしながら―――彼らは背後を振り返る。
そこには―――
「グ………ガァ…………!」
傷だらけの身体で尚も立ち続ける『ブラックネス・ドラゴン』の姿があった。
「思えば―――君と顔を合わせるのは勇者学園入学日以来だね」
そんな『黒竜』に向けて―――コーディスは声をかけた。
「君はもう休みたまえ。
ここから先は―――我々が引き継ぐ」
コーディスがそう言い終えると共に―――彼らは改めて2体の『ドラゴン』に向き直るのだった。
「『勇者一行』が『ドラゴン』を―――『魔物』を助ける、か」
誰にも聞こえないほどの小さな声で、コーディスが笑みを浮かびながらポツリと呟くと―――
「「ゴァアアアアアアアアアアッッッッ!!」」
「皆―――行くぞ!!!」
「「『おう!!!』」」
2体の『ドラゴン』に向かって、彼らは駆け出すのだった―――




