第17話 本物と偽物
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッッ!!!」
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!」
アルミナとスクト。
両者の戦いを常人の目で追うことは、もはや不可能であった。
2人の姿が現れたその次の瞬間、数百メートル離れた場所へ2人が一瞬の内に移る。
そんなことが、半径数キロメートルの範囲内で次々に起こっていた。
―――ギャギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギィィィィィッッッッッッッ!!!
そして、その空間内に絶え間なく響き渡る、2本の長剣と『防御壁』がぶつかり合うことで生まれる、甲高い衝撃音。
2人の戦いの余波により、既に周囲の草木は根こそぎ吹き飛ばされてしまっていた。
一体どちらが優勢なのか―――並の人間には、その判別すらつかないだろう。
「ふッ―――《ルビー》!!」
「―――!」
移動の一瞬の隙をついたアルミナが、素早くスクトの背後を取り―――その髪を赤色へと変える。
そして、振りかぶっていた長剣を―――振り下ろす!!
だが―――
「おっと―――!」
―――ヒュンッッ………!!
「―――くっ!!!」
その一撃は―――すんでの所で避けられてしまう。
アルミナは即座に髪の色を青色へと変え、再びスクトへと肉薄した。
「先程のようにはいきませんよ」
高速戦闘を続けたままに、スクトは口を開き始める。
「不意を突かれさえしなければ、その攻撃を避けるのはそう難しいことじゃない。
何せ―――貴女は攻撃の一瞬手前で、わざと速度を殺してしまっているのだから」
「―――っ」
スクトの指摘に、アルミナの眉がピクリと動く。
攻撃の前に速度をわざわざ落とす、その理由は―――
「《サファイア》の速度のままに《ルビー》の攻撃を行ってしまえば―――『奥の手』が発生してしまう」
『奥の手』―――《サファイア》と《ルビー》の同時併用。
凄まじい硬度と再生能力を持つ『水晶ゴーレム』をも粉々に粉砕する程の、人知を超えた破壊力を生み出す、まさに必殺の技。
「それは本来、僕に致命的なダメージを与える手段として寧ろ積極的に狙うべき行動のはずだ。
しかし―――」
スクトはチラリと、ある一点の場所へと視線を向ける。
そこには―――ガラス管の中に浮かぶ、少女の形をした『スライム』の姿が見えた。
2人の戦いの余波も、そこだけは綺麗に避けられていた。
「『奥の手』によって生まれる衝撃は―――確実にあの『スライム』を巻き込んでしまう」
「くぅっ――――!」
思わず歯嚙みをするアルミナに対し、スクトは笑みを浮かべる。
その笑みには―――『憐憫』の感情が含まれていた。
「全く、僕としては実にありがたい事このうえありませんよ。
あの『魔王』の魔力の源が失われてしまえば、貴女は容易く僕を仕留めることが出来るでしょうに。
貴女があの『スライム』と知り合いであったばっかりに、その手段が取れない」
―――ヒュババババババッッッ!!!
「―――っ!!!」
淡々と言葉を口にしながら、スクトは『20枚』の刃と化した『防御壁』を奔らせ―――アルミナはそれを辛うじて避ける。
「『魔王』に目覚めたのが全く無関係の、そこらに生息するただの魔物であったならそんな『気遣い』なんて無用であったのに。
何とも、僕達にとっては好都合で―――貴女達にとっては不運な『巡りあわせ』となってしまったものだ」
そんな言葉を受けたアルミナは、スクトから離れた位置に着地し―――
「スクト、それは違うぞ。
『魔王』に目覚めたのが、私の知人にして『彼ら』の仲間―――キュルル君であったのは、『君にとっての』不運だ」
『ニッ……!』と、歯をむいて笑いながら彼女は言った。
「『我々』に―――絶対に引けない『意志』を与えてしまったのだからな」
決して虚勢ではない、力強い声でアルミナは言い放つ。
だが、スクトは鼻で笑うかのように「ふっ」と息をつくと―――
「強がるのは結構ですけど―――僕が気付いていないとでも思っているんですか?
貴女の『破滅の音』に」
「………………………」
アルミナは、笑みを崩さない。
だが―――
―――ピキッ…………!
その身体の中から―――音が響いた。
「貴女は《ヴァリアブル・コランダム》が生み出す『スピード』と『パワー』に身体強化が追いつかず―――その『力』を使えば使う程に、貴女の身体は崩壊へと突き進む」
それはかつてアルミナ自身がフィル達に話したこともある、規格外の『力』の代償。
先程響いたのは―――彼女の身体の骨にヒビが入る音であった。
「王都で起こした『サプライズイベント』はただの警告や嫌がらせではありません。
貴女にその『力』を使わせて、少しでも消耗して貰う為に行いました。
その甲斐はあったようですね」
「ふっ………私一人を消耗させる為に、王都全域に魔物を放った、か。
『魔物遣い』が荒い奴だ」
やれやれ、と余裕そうに肩をすくめる仕草をするアルミナであったが―――
―――パキッ……ピキッ……!
その『破滅の音』は、今も断続的に彼女の身体から響き続けている。
そんなアルミナの姿を見やりながら、スクトは改めて口を開いた。
「アルミナさん、貴女はこの大陸で―――いや、この世界で最も強大な『力』をその身に宿している。
それは貴女自身が元々持つ才能によるモノも大きいが、一番の理由は貴女が『勇者』に選ばれたからだ」
「………………………」
スクトの言う『勇者』とは、人々から称えられる『称号』のことではなく―――この世界の『仕組み』によって与えられる『役割』のことである。
「人類に対する『絶対悪』となり、凄まじい『力』を持つ『魔王』を打ち滅ぼす『勇者』―――当然、その者には『魔王』を超える『力』を与えられる。
しかし―――貴女の『力』はどうにも中途半端だ」
スクトはこれまでに散々見せつけられた、アルミナの規格外の『力』を『中途半端』だと言う。
「確かに一般的な観点から見れば、貴女の『身体強化魔法』によって生み出される『力』は常識外れの代物に違いありません。
ですが―――規格外の『力』を振るうことによって生じる、その身体への負担。
強大な『魔王』を打ち破る『力』を与えられるはずの『勇者』に、そんな『欠点』があるモノでしょうか?」
「………………………」
スクトは―――先程以上の『憐憫』を、その目に宿しながら、告げた。
「その疑問の答えは―――貴女は本来の『勇者』ではなかったから、だ」
尚も身体から『破滅の音』を響かせるアルミナは、何も言わなかった。
「そう、本当に『勇者』となるはずだった者の名は―――ベリル=ビーイング」
アルミナは、無表情のままにスクトの言葉を聞いていた。
「それこそが、彼女の持つ『エクシードスキル』―――【リシーヴ・エンパシー】が【マスター・エンパシー】へと昇華した理由だった。
だが、しかし―――――」
スクトは両手を広げ、天を仰ぐ。
「ああ、何ということだろうか。
『勇者』に選ばれたあの人は―――あろうことか、偽物の『魔王』となってしまった」
芝居がかったような口調で言葉を紡ぐスクトは―――
「だから――――」
再び、アルミナへと視線を向ける。
「『オリジン・コア』は、急遽『代わり』を立てた。
本来の『勇者』のものとは程遠い―――不完全な『力』を与えて」
そう、つまり―――
「貴女は『勇者』の『代役』―――偽物の『勇者』だった」
その言葉を受けたアルミナは―――
「―――それがなんだ」
そんなことはとっくに知っていた、とでも言うように―――穏やかな声で応える。
「この『力』が不完全であろうが何だろうが、関係ない」
その揺るぎない瞳で、スクトを見つめる。
「私は『勇者』だ」
そして、剣を握る両腕を交差させ―――叫ぶ!
「私の全てをかけて―――お前を止めてみせる!!」




