第13話 彼と『存在理由』
一秒にも満たない時間の中で脳裏に蘇った記憶を、アルミナは振り払った。
「何故その条件のことを知っているのか、ということも気にはなるが今は置いておこう。
それで、結局のところ―――」
アルミナはスクトの目を真っ直ぐに見つめ、改めて問う。
「君は何故、そんなことをしたんだ?」
生徒達を襲った理由は、生徒達に『エクシードスキル』の覚醒を促す為。
では、生徒達に『エクシードスキル』の覚醒を促した理由は?
「僕達の『最終目標』の為の布石ですよ」
その言葉に、アルミナがピクリと反応する。
「……ロクス達からの報告で聞いた話だが―――かつて、君は彼らに向けてこう言ったらしいな。
かつて偽物の『魔王』が―――ベリルがやろうとしたことをやる。
もっと手っ取り早い方法で、と」
ベリル=ビーイングがやろうとしていたこと―――それは、この大陸を無人とすること。
彼女はそれを人類の犠牲が最も少なくなる方法で成し遂げようとしていた。
では、彼の言う『もっと手っ取り早い方法』とは、やはり―――
「言っておきますが、この大陸の人類を皆殺しにするつもりなんてありませんよ」
と、アルミナの考えを予測していたのか、スクトは『それ』を否定する。
「そもそも、ベリルさんが起こした『ヴァール大戦』も、ただの『過程』であって『最終目標』じゃありません。
この大陸から人類の姿が消えたところで、根本的な解決にはなっていないんですからね」
コーディスがフィル達に語った話によると、『ヴァール』大陸から人類が消えることで、大地の奥深くに存在する『オリジン・コア』が人類の存在を感じ取ることが出来なくなり、その結果『魔王』の存在意義も消失し、『魔王』が生まれることが無くなるのだという。
しかし、いくら一時的に『ヴァール』大陸から人類が居なくなったとしても、時が経ち、再び人が移り住むようになってしまえば意味はない。
『ヴァール』大陸に永遠に人類が寄り付かないようにする、というのも不可能であろう。
「ベリルさんの『最終目標』は『オリジン・コア』に大地から人類がいなくなったと『誤認』させ、そしてその状態を『固定』することだった。
彼女は最終的には、自らの命を代償に発動する『封印魔法』をもって『オリジン・コア』からの『声』を永久的に封じ込めようとしていた。
それは貴女方もご存じだったのでしょう?」
「…………………」
スクトの言う通り―――あの決別の日に、アルミナ達はベリル本人の口から自身の『目的』を聞いていたのだ。
「しかし、その方法もまた『根本的な解決』とは言い難い。
いかに強力な魔法といえど、永久に作用し続けるという保証はありませんからね。
いつかは封印が解け、再び『魔王』が現れてしまうリスクは残り続ける」
そこでスクトは、ニヤリと笑みを浮かべながら告げた。
「だから僕は―――真の意味で『根本的な解決』を図ろうと思ったんです」
「真の意味での『根本的な解決』―――?」
アルミナの疑問の声に、スクトは即座に答えた。
「『オリジン・コア』の破壊、ですよ」
「―――――!!」
その回答に―――アルミナの目が見開かれる。
「勿論、通常であれば大地の奥深くに存在する『オリジン・コア』に対し、僕らは手を出すことは出来ません。
『爆発魔法』でも使って地中を掘り進む、なんてのも現実的じゃありませんしね」
スクトはため息をつきながらお手上げ、とでも言うように両手を広げた。
「ですが、その『オリジン・コア』を大地の奥から引っ張り上げる方法が存在します。
それこそが―――」
そして―――広げていた両手を、握りしめながらスクトは告げる。
「『エクシードスキル』を持つ者を、大量に目覚めさせること」
「っ…………!」
アルミナは―――その言葉で、スクトの目的を全てを察したようだった。
「人間が『エクシードスキル』に目覚める時―――『オリジン・コア』はその人物に僅かに『引き寄せられる』んですよ。
その理由は『エクシードスキル』と『オリジン・コア』には切っても離せない『関係性』があるからなのですが―――そこは詳しく話す必要はないでしょう。
重要なのはその性質。
アルミナさん、貴女にはもうお分かりでしょう?」
「……君は―――君達は……この大陸にいる人達に……!」
「ええ、そうです」と、スクトはアルミナの言葉を引き継ぐ。
「『エクシードスキル』の覚醒を促す。
『強制的』に、ね」
スクトの言葉が、不気味なほどにその場に響いた。
「大陸西側における襲撃事件は、その効果を確かめる為に起こしました。
僕達の想定通り、生徒達の中から『エクシードスキル』に目覚めた者が大量に現れたらしいですね」
「………コーディスは君達が何かしらの『エクシードスキル』に目覚めた者が必要だったのではないか、などという推測もしていたが―――『エクシードスキル』を目覚めさせること『そのもの』が君達の目的だった、ということか……!」
両拳を握りしめながら、アルミナは呟いた。
「そしてその結果―――僕達は確かに『オリジン・コア』の活性化、そしてその存在が『動いた』ことを感知しました。
多分ですけど、あの魔王に目覚めた『スライム』にも何かしらの兆候が出ていたんじゃないでしょうかね」
「っ―――!」
アルミナはスクトの言葉に、フィルから聞いた話を思い出した。
あの『スライム』の少女―――キュルル=オニキスがあの事件以降、妙な夢をみるようになっていたらしい、という話を―――
そして、ギッ……と歯ぎしりをしながら―――
「スクト、君はあの事件と同様のことを―――今度は大陸全土で起こすつもりか!」
アルミナは語気を強め、その『核心』を問いかけた。
「やることはかつてベリルさんが引き起こした『ヴァール大戦』と同じようなものですよ。
但し、あの人は大陸から人間達を追い出すことを目的としていましたが―――僕達の場合、逆に大陸から人間を一切逃がすことなく、逃げ場のない状況でじわじわと追い詰めていく方法を取ります。
『エクシードスキル』に目覚めるための条件―――『絶望』を乗り越えるという、その状況を作り上げる為に」
なんて事のないような口ぶりでそんなことを口走るスクトを、アルミナはまなじりを吊り上げて睨みつける。
「それで人間達が『絶望』を乗り越え、大陸全ての人間が『エクシードスキル』に目覚める―――そんなことが起きると本気で思っているのか!!」
「僕も流石にそこまでお花畑じゃありませんよ。
『絶体絶命』―――誰もが膝をつく『絶望』を前に、一体どれだけの人間がそこから立ち上がることが出来るというのか。
まあ、1000人中1人も居ればいい方でしょうか」
「それを考えると、あの事件で生徒達の中から『エクシードスキル』に目覚めた者が数百人も出たのは、流石は『勇者』になる為に集まった子供達、と言った所ですかね」と、とても軽い調子でスクトは語る。
「僕らが算出した、『オリジン・コア』を引き上げる為に必要な『エクシードスキル』に目覚めた人の数は、最低でも数万人程といったところです。
それだけ揃うまでに犠牲になる人間の数は、果たして数百万か、あるいは数千万か―――」
「スクト…………君は……………!
君は―――――!」
笑みを顔に張り付かせながら話し続ける『元』仲間の姿を、アルミナは全身を震えさせながら見つめる。
そして、そのスクトの笑みが―――不意に、消えた。
「アルミナさん―――僕は本気ですよ。
『オリジン・コア』をこの大地の奥より引きずり出し―――魔王の『魔力』を用いて、完全に滅する」
無表情のままに―――彼は告げるのだった。
「この世界の『仕組み』をぶち壊す。
それが、今の僕の―――『存在理由』です」




