第11話 僕と『鍵』
―――ダッ……ダッ……ダッ……!!
「っ……!!
ホントに速い……!!
コーディス先生とヴィアさんの強化が無けりゃ……とっくに振り落とされてる……!!」
凄まじい速さで駆ける馬の手綱を渾身の力で握りしめ、高速で通り過ぎていく背景を横目に、込みあがる恐怖をフィルは『決意』で抑え込んだ。
必ずこの戦いを終わらせ、キュルルと共に皆の元に帰るという『決意』で―――
「キュルル!
君の本体までのガイドをお願い!!
あと、そこまでどれくらいの時間が掛かるか分かる!?」
「きゅるっ!!
このまま真っ直ぐ行けば大丈夫!!
時間はこの速さなら多分、んーと―――ボクが学園の食堂メニューを全部食べ終わるまでの時間ぐらい!」
「それならかなり早めに着きそうだね!!」
そんなことを肩に乗るミニキュルルと話し合っている時だった。
「「「………ォォォォォォオオオオ!!」」」
「―――ッ!!!」
魔物の雄叫びが、フィルの耳に届いた。
前の方へ目を凝らしてみると―――そこには、先程まで居た場所にも劣らない数の魔物の群れが見えた。
『ロック・リザード』や『ハーピィ』といった見慣れた魔物は勿論―――先程も見た『シルバー・ワーウルフ』といった『レッドエリア』生息の魔物の姿もあった。
「やっぱり……そう簡単には行かせて貰えないか……!!」
この馬の速度なら、あっという間にあの魔物の群れに突っ込む事になる。
いくら2人の『勇者一行』のメンバーからの強化を受けた身体とはいえ、フィル1人であの規模の魔物を相手など出来るはずがない。
「そうさ―――僕1人で何とか出来るはずがない」
それを分かっていながら―――フィルは笑う。
「でも、僕は―――1人じゃない」
そう呟いたフィルの手には―――小さなナイフが握られていた。
「お父さんとお母さんが遺してくれた『力』―――そして」
フィルはそのナイフを―――
「キュルルがいる!」
「きゅるっ!!」
―――ズッッ!!!!
自らの胸へと、突き立てる。
それと同時に―――既に眼前にまで迫っていた魔物の群れが、馬ごとフィルを飲み込んだ。
そして―――――
「『規格外―――60倍』」
魔物の群れの中から―――
「「《ダイナミック・マリオネット》!!」」
―――ズォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
『漆黒の魔物の群れ』が溢れ出る―――!!
「「「「グギッ!? ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」」
フィルへと襲い掛かった魔物達は、突如出現した『漆黒の魔物』達に押し返され、悲鳴のような鳴き声をあげながら圧し潰されていった。
そんな『漆黒の魔物の群れ』の中心地には―――
「キュルル!」
「うん! 周りのはボクが担当するよ!
フィルはそのまま、この馬を走らせることに集中してて!!」
脚を止めずに駆け抜ける馬の手綱を握り、前を見据えるフィルと―――その背に抱き着くキュルルの姿があった。
そして『漆黒の魔物』からは管のようなものが伸びており、その全てがキュルルの身体へと繋がっていた―――
「お父さんとお母さんから託されたこのナイフの『力』を使えば、キュルルの《ダイナミック・マリオネット》を再現できるかもしれない―――
試す時間もなかったから、ぶっつけ本番になっちゃったけど、成功した!」
これは自分が『勇者一行』と共にキュルルの本体、ひいてはスクトの元へ向かうことが決まった際、何か出来ることがないかと、僅かな時間の中でフィルが考えついたことであった。
「それに―――今の『僕達』なら、作り出した魔物の操作をキュルルに任せることが出来る―――
これも何の確証もなかったけど―――上手くいった!」
例え『漆黒の魔物の群れ』を作り出すことに成功しても、馬の手綱を握りながら周囲の魔物に対処する、などという離れ業はフィル1人には出来なかったであろう。
馬を操る者と、『漆黒の魔物』を操る者―――その『分担作業』が出来なければ、確実にここで足止めを食っていたに違いなかった。
「きゅる! ボクは最初から上手くいくって思ってたよ!」
「え?」
フィルは背中に抱き着くキュルルへと振り返った。
キュルルは―――満面の笑みで告げた。
「前も言ったでしょ!
ボクとフィルが一緒なら―――どんなことでも出来るって!!」
「―――!」
その何よりも力強い言葉に―――
「うん―――そうだね、キュルル!!」
フィルは、心から応える。
「キュルル、行こう!!
ここを突破するよ!!」
「きゅる!!」
2人は膨大な数の魔物の中を、恐れ一つ抱くことなく駆け抜ける。
そして―――フィルは自らの手に握る小さなナイフを見つめながら、改めて思い起こす。
勇者学園を出発する前に、リブラから言われたことを。
このナイフに秘められた『力』のことを―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「フィーたん、君が両親から託されたナイフだが―――それがあればスっくんの企みを阻止し、キュルルルンを救うことが出来るかもしれないよ。
『2つ』の意味でね」
「え―――!?」
医務室の中で椅子に座るフィルは、対面に座るリブラから言われたことに驚愕と困惑の声を上げる。
スクト達の企みを阻止できるという言葉も気になるが、それ以上に―――
キュルルを『2つ』の意味で救うことが出来る、とは一体―――?
「あ、あの、それってどういう……!?」と慌てた様子のフィルとは対称的にとても落ち着き払った様子でリブラは口を開く。
「まず―――スっくんは『魔王』となったキュルルルンの魔力を自分たちが扱えるようにする『組み換え』を行った。
その『魔王』の魔力で一体何をしようとしているのかは、現状不明だ。
スっくん曰く、偽りの『魔王』がやろうとしていたことをやる、とのことだが……
果たしてそれはこの大陸の人類を全て消し去ってしまおう、ということなのか、はたまた……」
「っ……!」
勇者学園の最上層でコーディスから『魔王』や世界の『仕組み』の話を聞かされた時に、アリーチェも似たようなことを言っていたのを思い出し、フィルは思わずゴクリと唾を飲む。
「ただ―――何を企んでいようと、必要となるのが『魔王』の魔力である以上、その魔力の『源』であるキュルルルンを取り戻すことが出来れば、その企みを阻止することが出来る、ということになる」
「は、はい……それは分かりますけど……」
フィルがそう呟いた直後、「しかし―――」というリブラの声が続いた。
「ただキュルルルンを取り戻しただけでは、大きな問題が残ったままとなる」
「大きな問題―――?」
疑問の声を上げたフィルに、リブラは淡々と話を続けた。
「キュルルルンは『魔王』に目覚めてしまっている。
つまり、あのコが我々の元に戻って来た瞬間―――あのコは『人類』を襲い始めてしまうだろう、ということさ」
「―――――っ!!!」
そう―――魔王に目覚めた魔物は『人類の敵』となる。
『人類』同士を結託させる為に。
『人類』を存続させていく為に―――
フィルもその話は聞かされていたはずなのだが―――無意識に考えないようにしていたのかもしれない。
あのコが『人類』の―――自分達の『敵』になってしまう『未来』など―――
その『最悪の未来』を想像してしまい、顔を俯かせたフィルは―――『はッ!』と顔を上げた。
「あの、それじゃあ、さっき言った『2つ』の意味でキュルルを救うっていうのは―――」
「ああ、スっくんの元からキュルルルンを取り戻す、という意味と―――
キュルルルンを『魔王』という世界の『仕組み』から解放する、という意味さ」
ニヤリと笑いながら、リブラは告げた。
「その『鍵』となるのが―――フィーたん、君の持つナイフなんだ」




