第8話 『彼ら』と高揚
「「「おおおおおおおおおおッッッ!!!」」」
『勇者一行』、そして『勇者学園』の生徒達は尚も戦場を駆ける。
コーディスの『身体強化魔法』と渡された『マジックアイテム』によって、今の生徒達は『勇者一行』に並びうる力を得ている。
この場にいる者達は、間違いなく並の兵士を遥かに凌駕する力を持ち、『ヴァール大陸』最強のメンバーと呼んでも差し支えない程であろう。
しかし、それでも―――
「「「ウォオオオォォオオオオッッ!!」」」
「くそッ!! まだまだ湧いて出やがる!」
「どんだけかき集めて来たってんだよ……!!」
際限なく襲い来る『レッドエリア』生息の魔物達に、ミルキィとヴィガーが焦りの色を見せ始め―――
―――ピキキキキ………!
「っ……話には聞いていたけど………!」
「あれだけの硬度に加えて、この再生機能……!」
「アリスリーチェ様にフィール様、キュルル様は……!
アレに立ち向かっていたというのか……!」
反則的な性能を持つ『水晶ゴーレム』の脅威に、ウォッタ、カキョウ、ファーティラが苦々しく呻く。
時間の経過と共に―――
生徒達の体力と気力は着実に消耗されていくのだった―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「彼らは勝てませんよ」
スクトはアルミナへ向けて、その『現実』を告げた。
「今、あの場にはこの『ヴァール大陸』全ての魔物が集結していると言っても過言ではありません。
彼らが『力』を得ていたとしても―――いずれ限界を迎える」
「……………」
アルミナは黙ってその言葉を聞いていた。
「そして何より―――あの『水晶ゴーレム』は貴女にしか倒せない。
他の『勇者一行』の皆さんや生徒達では、精々足止め程度にしかならないでしょう」
あの『ゴーレム』を破壊する方法は、アルミナの『奥の手』―――『サファイア』のスピードに『ルビー』のパワーを乗せることで生まれる、地形を変える程の圧倒的な力だけ。
唯一の例外は、フィルとキュルルの『2人』による《オース・ブレード》の一撃。
しかしキュルルの本体が捕らえられている現状、彼らは『2人』にはなれず、『誓いの剣』も作り出せない。
つまり―――
「彼らは、いずれ敗北―――」
「私だけにしか『水晶ゴーレム』が倒せなければ、な」
自身の言葉に被せる様に告げられたその発言に―――スクトはピクリと眉を動かした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うおおおおあああああああッッッッ!!」
―――ガキィッ!! ガキィッ!! ガキィィィイイイイイイイッッ!!!
フィルが5倍のサイズの《ミートハンマー》を振るい、『水晶ゴーレム』の身体を削り取っていく。
コーディスの身体強化魔法と『マーナ・ブースト』の補助により、かつて大陸西側の洞窟内で味わった『絶望』が嘘のようにこの『災厄』が原形を失っていく。
しかし――――
―――ピキキキキキキキキ………!
その原形が―――瞬く間に元に戻っていく。
今のフィルは身体強化の恩恵によって、『黒い調理器具』を5倍のサイズで作り上げた時にかかる身体への負荷も、通常よりは軽減していた。
「っ……!」
それでも―――決して何時までも使用し続けることが出来る、という訳ではない。
フィルは痛む胸に手を当てて、顔を歪ませる。
このままでは、いずれ限界が来る。
そう―――『このまま』では―――
「今です!! お願いします!!」
フィルは―――後方へ向けて、叫ぶ。
「トリスティスさん!!!」
その声に―――
「《ディクリース・フォース》!」
そのエルフの男―――トリスティス=イレースは『魔法名』で応える。
すると―――
―――ピ……キ……キ…………!
『水晶ゴーレム』の再生速度が―――目に見えて遅くなった。
「やった……効いた!
勇者様達が言ってた通り―――!」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「あの日―――君とウィデーレと共に大陸西側奥地に赴き、何者かの『悪意』の存在を感じ取った日から―――我々はずっと『水晶ゴーレム』の解析を進めていた」
「……………」
アルミナの言葉に、スクトは何も返さない。
「そしてあの再生能力は―――『回復魔法』に類するものであるという確証が取れた」
つまりは―――
「『減衰魔法』による、再生の阻害が可能であるということだ」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ったく、俺はもうお前達に協力する義理はないってのにな」
眉をひそめながらトリスティスはぽつりと愚痴をこぼす。
『ヴィシオ領』での事件が終わった後―――彼はウィデーレとロクスに懇願されていたのだった。
これから先、スクト達による脅威が再び牙をむいてきた時―――おそらくその力が必要になる。
どうか我々に協力して貰えないか―――と。
彼自身としては、そのような面倒事に巻き込まれる謂れはないと、断るつもりでいた。
だが―――
「まさかアイツが―――な」
私からもお願いします。
どうか力をお貸しください―――兄様。
そう言いながら頭を下げる妹の姿が―――トリスティスの脳裏に蘇っていた。
そして、周囲への意識が一瞬逸れていた彼へ―――
「「「ウォオオォオォオオオッッッ!!」」」
「―――っ!!」
3体の『シルバー・ワーウルフ』が襲い掛かった。
『勇者学園』の生徒ではないトリスティスは、コーディスの【ドラスティック・トラスト】の恩恵は得られない。
その『白銀の人狼』に対抗する術は―――トリスティスにはない。
3体の『シルバー・ワーウルフ』は、振り上げた爪を―――
「「「ウォオオオオォ―――ッ!!??」」」
トリスティスから―――数十メートル離れた位置で振り下ろした。
獲物を切り裂く感覚がしないことに困惑混じりの遠吠えをする、誰もいない空間に向けて腕を振り続ける『白銀の人狼』の姿がそこにはあった。
そんな光景を見ていたトリスティスの背後から―――
「《プレゼンス・ジェミニ》……私の半径100メートル内の任意の場所に人1人分の『存在感』を配置することが出来ます」
そんな声が静かに響く。
更に―――
「《ブロウアップ・ブラスト-ボルケイノ》!」
―――ドッ……ゴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!
「「「ヴォッ―――――!!!」」」
地面から吹き上がる火山の噴火の如き大爆発で、3体の『シルバー・ワーウルフ』が同時に消し飛んだ。
「トリスティスさん、貴方は―――」
「我々が必ずお守り致しますわ!」
2人の女生徒―――バニラ=タリスマンとスノウ=ホワイリーチェ=ダリア=ガーデンはトリスティスの左右に立ち、力強く宣言するのだった。
「出来る限り私の『隠匿魔法』だけで凌いで見せます!
スリーチェさん! 貴女はトリスティスさんと一緒に『減衰魔法』でサポートを!」
「ええ! 了解しましたわ!」
バニラの言葉にスリーチェが頷き、隣のトリスティスと同じ様に『水晶ゴーレム』へと手を向けた。
「トリスティスさん!
次はわたくしも同時に『減衰魔法』を重ね掛けします!
先程よりも再生の阻害効果が増すはずですわ!」
「話には聞いてたが、マジで当たり前のように俺の魔法を使えるんだな……」
別に自身の魔法に執着やプライドのようなものは持っていないが、なんとも複雑な心境になってしまうトリスティスであった。
そして――――
「はあああああああああああああッッッッ!!!」
―――ゴッッッガァッッッッッッ!!!
フィルの―――その最後の一撃により―――
―――ゴォォオオオオオオオオ………!!!
再生を阻害され、身体を半分以上失った『水晶ゴーレム』が―――
地面へと、崩れ落ちていくのだった―――
「やっ………た…………!
やったああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」
フィルが、勝利の雄叫びを上げた。
「「「う―――おおおおおおおおおッッ!!」」」
それを見ていた他の生徒達もまた、先程までの焦燥も心身への負担も忘れ、歓喜の声を上げる。
そして、彼に続けと言わんばかりに活力に満ち溢れる。
この戦いの場に集う者達は、皆同じことを思った。
自分達は―――この戦いに勝てる―――!!
「なるほど―――――認めましょう」
その時―――この場の高揚した空気を一瞬で掻き消す程の、獄氷の如く冷たい声が上空から響いた。
全ての生徒が、その声の元へと目を向ける。
そこには―――
「貴方達は―――紛れもなく、私達の『敵』であると」
その隻眼で、この場に集った者達を見下ろす『淑女』―――サンドリーチェ=コスモス=ガーデンの姿があった。
そして―――――
「ようやくのご登場ですのね」
もう一人の『淑女』が、声を上げた。
「サリーチェお姉様」
声の主―――アリスリーチェ=マーガレット=ガーデンは、静かに姉の姿を見据えていた。




