第7話 『彼ら』と『彼ら』の力
「ギョォォオオオオアアアアアアアッッッ!!」
「―――っ!!
なんだ!?」
突然聞こえて来た耳障りな鳴き声に、その場にいた生徒達が一斉に振り返る。
そして、見たモノは―――
「ム―――ムカデ!!??」
血のように真っ赤な甲殻に身を包んだ、余りにも巨大で長大な『大ムカデ』―――『ブラッドネス・タイラントセンチピード』の姿を捉えた生徒達は、生理的嫌悪感から来る怖気が止められなかった。
全長だけならば『水晶ゴーレム』を優に超えるその『大ムカデ』は、猛毒の顎を開きながら生徒達に向かって猛進する。
そのおぞましい外見の魔物に、その場の生徒達は思わず身を竦ませてしまっていたが―――
―――バッッッッッッ!!!
ただひとり―――そんな魔物の眼前へと、迷わず飛び出してく生徒の姿があった。
「はァーーーーはッはッはッはッッッッ!!!
実に討伐し甲斐がある魔物が現れたじゃあないか!!!
いいだろう!! 私が相手をしてやる!!!
この最強『勇者』、コリーナ=スタンディがなぁッ!!!」
『大ムカデ』の鳴き声が搔き消される程のけたたましい大声を上げながら―――その女生徒、コリーナ=スタンディは両手を天高く掲げる。
すると―――
―――シュオオオオオオオ!!!!
その掌が―――光始める。
「ギリュォオオアアアアアアアアアア!!!!」
『大ムカデ』はそんな光景など構わず、目の前に飛び込んできた愚かな獲物を吞み込まんと、叫び声を上げる。
その大顎が、コリーナの眼前にまで迫った時―――
―――カッッッッッッッッ!!!!
コリーナの掲げていた両手に―――巨大な『光の剣』が現れた。
そして――――!!
「《ジャッジメント・カリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!》」
『光の剣』が、振り下ろされ―――
「ギッ―――――」
『ブラッドネス・タイラントセンチピード』は―――叫び声を上げる間もなく、その長躯を『縦』に両断されるのだった。
「す―――スゲェ……!
マジで『勇者』みてぇだ……!」
その光景を見ていた生徒が、思わずといった風に呟き―――
―――ピクッ……!
その言葉を聞いたコリーナが―――――
「そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!! そうだろう!!!!!!!!」
「うおおおおおおおッッッ!!??」
瞬時にその生徒の眼前へと移動し、捲し立てるのだった。
「ふッはははははははははは!!!!!
ようやく!!! ようやく私の実力が認められる時が来たか!!!
もっと認めるがいい!!! さらに見るがいい!!
この私の、『勇者』の力をッッ!!!
《ジャッジメント・カリバー》!!!
《ジャッジメント・カリバー》!!!
《ジャッジメント・カリバー》!!!
《ジャッジメント・カリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア》!!!」
「うぉおおおおおおい!!!
お、落ち着けぇ!!!
そんなもん何度も使ったら魔力が――――!」
あの凄まじい『光の剣』を考え無しに振り回すコリーナに、周りの生徒達が慌てて止めようとする。
だが―――
「はぁーーーはっはっは!!!
そのような心配は要らない!!!
今の私の『魔力値』は『エクシードスキル』、【フィーヴァー・タイム】によって―――普段の『50倍』となっているのだからなぁああああああああああ!!!」
コリーナの『エクシードスキル』―――それは本来、『魔力値』を普段の『10倍』にするものであったはずだが、彼女は高らかにそう叫んでいた。
そして、そんなコリーナの首元には―――不思議な輝きを放つ宝石が組み込まれたネックレスが光っていた―――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ギャアアアォオオオオオオオオッッッ!!」
「おいッ!!
『デス・レッドドラゴン』だ!!」
「「「―――ッ!!!」」」
消火不可の火炎を放つその『ドラゴン』の名に、かつての襲撃事件においてその脅威に晒された生徒達がビクリと反応する。
「『アレ』の炎は今の俺達でもヤバい!!
誰か遠距離から攻撃できる奴―――!」
「オメェらぁッ!!
どいてろぉおおおおおおおおッッ!!!」
「―――!?」
狼狽える生徒達を掻き分けて飛び込んできたのは―――
「み―――ミルキィ!!」
その大柄の生徒―――ミルキィ=バーニングは一切の躊躇もなく、その『ドラゴン』へ真っ正面から突っ込んでいく。
そして、既に息を口内に吸い込み終えていた『デス・レッドドラゴン』は―――
―――ゴォオオアアアアアアアアッッッ!!!
容赦なく、渦巻く火炎を吐き出した。
「―――――」
『ドラゴン』の目の前へと飛び込んだミルキィは至極当然、炎に飲まれる。
全身を火達磨と化したその憐れな獲物の姿を視界に収めたその『ドラゴン』は―――
「おおおおおおおおッッッ!!!」
「ギギャッ―――!?」
火達磨のまま、全く速度を落とさず駆けてくるその獲物の姿に、瞠目して鳴き声を上げる。
「なぁにを驚いてやがるトカゲ野郎!!
これは俺の《フレイム・アーマー》だよッッ!!!」
『炎の鎧』を纏ったミルキィは『デス・レッドドラゴン』の頭上へと跳躍し―――
掲げていた大斧を―――振り下ろす!
―――ズンッッッッッ!!!!
「ギッ――――」
脳天に大斧を叩きこまれたその『ドラゴン』は―――体内に溜め込んでいた炎を巻き上げ、地面へと沈んだ。
そして、周囲に巻き散らかされた消火不可の炎を―――
「うおらぁッッ!!」
―――ブオンッッッッ!!!
大斧から吹き上がらせた『自身の炎』により上書きすることで―――消し去るのだった。
「おいミルキィ、大丈夫かよ!?
いくら炎を無効化出来る『エクシードスキル』があるからって無茶し過ぎだろ!
つーか、あの『ドラゴン』の炎を自分の炎で掻き消せるって知ってたのか!?」
「いやぁ! なんとなく出来るんじゃねぇかって思っただけだ!」
少し離れた位置にいるヴィガーからの声に、ミルキィは笑いながら答える。
「けどまぁ―――今の俺なら出来るって、理屈抜きで確信できたんだよ!」
そう告げるミルキィの首元で―――ネックレスに組み込まれた宝石が光る。
そして「へっ……!」と笑い返すヴィガーの首元からも、同じ輝きが見えた。
ヴィガーはそのネックレスを指でなぞりながら、ポツリと呟いた。
「全く―――色々あり過ぎてすっかり忘れちまってたぜ。
俺達が『特別校外活動』と『選抜試験』に参加しようと決めた理由だったってのにな」
ヴィガーが思い起こしたのは―――『特別校外活動』の告知に記されていた一文であった。
【この『特別校外活動』に参加した者には、『勇者』になる為に必要な『力』が授かれるであろうことを、『勇者学園』最高責任者コーディス=レイジーニアスの名に誓って確約する】
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「マーナ山の『ドワーフ』達の力を借りて作り出されたマジックアイテム、『マーナ・ブースト』。
スクトもその存在は既に知っているはずだろう?
何せ―――その製造責任者が君の協力者だったのだからな」
「……そういうこと、ですか。
あの爆発で消失したものとばかり思っていましたよ」
アルミナが告げた説明によって、スクトは全てに合点がいったというように呟いた。
『マーナ・ブースト』
マーナ山で採掘される高純度の『エルマーナ鉱』を用い、『ドワーフ』達の卓越した加工技術によってのみ生成できるその『マジックアイテム』の効果は―――
『魔力値』、そして『エクシードスキル』の増強である。
「無論―――そんな便利なアイテムが何の代償もなしに使える道理はない。
この『マジックアイテム』を身に着けた者は、凄まじい負荷が身体へとかかる。
学園としても、それを戦闘で使うことは想定していなかった。
危険の及ばない場所で使用してもらい、『エクシードスキル』に目覚めた者、もしくはその可能性がある者に成長を促す……というのが本来の目的だった」
だが――――
「今の彼らは―――その負荷に耐えられる『身体』となっている」
コーディスの身体強化魔法、《エンハンス・フィジカル》によって。
コーディスの『エクシードスキル』、【ドラスティック・トラスト】によって。
他人を心から信じることが出来ないと告げた男の信頼を―――生徒達が得たことによって。
「…………………」
『貴方はその蛇達のこと以外、誰も信頼していない。
共に戦った仲間がこんな事態を引き起こしていようが、どうでもいい。
だから貴方はここにいる』
かつてコーディスへと吐き捨てた言葉が、スクトの頭の中をよぎり―――彼は思わず「ふっ――」と笑ってしまうのだった。




