未帰還の転生者
「あッはははははは~~! おもしろかった~~~!! 今の顔、最高~! やっぱりこういう役得くらいないとね~~! 本当……心の底から働きたくないと思っていたはずなのに、こんな気持ちになるなんて……。やっぱりこの仕事が生きがいに感じる私は……ワーカホリックなのかもしれない」
『――そんなわけないでしょう、堕天使』
『念話とはいえ、天使としてあるまじき言葉遣いはやめない?』
『黙れ堕天使。言いましたよね? 以前のような真似はするなって言いましたよね? 転生に余計な私刑を付けるなという意味だと分かりますよね? 何かしらのジョブに就けて転生させるのは先方の要望ですので、無職かつ最低ステータスで送り込むのをやめろと言っているんですよ。復職直後にやらかすとか、どういう神経してるんですか?』
『ちゃうねん』
さっきの男が泣きついたのか、間髪入れず届いた念話。二度とやるなと言われていた私刑に、同僚が相当怒っているのが言葉遣いからも分かる。
堕天使は怒りの矛先をかわそうと、滔々と理屈を並べ始めた。
『落ち着いて聞いて欲しい。これは私が悪いんじゃなくて、あのクソが全部悪い。やってることは添付の書類で確認……あ、送ってなかった。後で送るから確認して欲しいんだけど、強盗を4件もしたクソだし、なにより普通は最低でも2日は生き残る異世界から、こんなに早く戻って来たのが悪い』
本来、堕天使が想定していた死に戻りの理由は「祭壇から一歩も動けず餓死」。だから発覚は遅れるはずだったのに、初日から戻ってきたのは想定外だった。
『復帰初日にバレたのが問題じゃなくて、初日にやらかしたのが問題だと言ってるんですよ堕天使』
完全に同僚の方が理屈は通っている。しかし堕天使は納得がいかないのか、下唇を突き出して念話を聞き続ける。
堕天使の理屈では、転生を望んだのは男であり、自分はその望みを叶えただけ。自分の権限で転生させられる世界はサヴァイヴァリアしかないのだから、やるべきことはやった。それを「やらかし」と呼ばれるのは心外だった。
そんな堕天使の不満をよそに、同僚の説教は続く……と思われたが、突然「……あ」のひと言で止まった。
『そういえば忘れていました。10年前、あなたの謹慎が決まる直前に、あなたが担当したと思われる人間が1人、こちらに来ていないのです』
『え、マジで? 誰?』
『サヴァイヴァリアに送ったという報告も受けていませんでしたし、それで問題なくやっているなら構いません。ですが、あなたの私刑付きで生き延びているというのは逆に不安なので、現状を確認してください。書類は他のと混ざらないように、デスクの引き出しに転送します。私に限らず皆、他の仕事を入れる余裕がないので、あなたがお願いします』
そう言うと、念話はぶつんと一方的に切られた。堕天使を復職させなければならないほど人手不足の状況。説教している場合ではないと判断したのだろう。
結果的に仕事を押し付けられた形だが、堕天使は鼻歌を口ずさむ。
「ふんふんふ~ん、いや~お礼を言いたいくらいだわ。まったく、ああいうところは何も変わってないわねアイツ。それにしても、いったい誰が私のことを助けてくれたのかな~……って。こ、これは!」
最上段の大きな引き出しを開けると、そこに1枚だけ置かれた書類。それを見た堕天使は大きな声を上げた。
なるほど、確かにこれは堕天使がサヴァイヴァリアに送った記憶がある人間――いや、忘れようとしても忘れられない人物だ。
犯罪者の名前など、私刑が終わればすぐ忘れる堕天使でも、この名前は一瞬で思い出せるほど印象が強かった。
「スーパーノヴァ君! 時代を先取りしすぎたキラキラネームのせいで、就職氷河期に生息した悪辣なるプロ圧迫面接官たちの標的にされ続け、精神を壊された果てに高学歴ニートになったという、高山超新星君じゃないの!」
本来ならただのニートで犯罪者ではない。当然、私刑の対象ではない。それでも転生させた理由は――ただ面白そうだったから。
「あれって確か、私が謹慎になる3日前のことよね? インパクトのあるわがままボディだったし、脂肪が多いから餓死まで時間がかかったんだと思ったけど、奇跡的に誰かに見つけてもらって安全な場所に移れたのかしら。日本じゃ苦労したってのに豪運ねえ」
名前を見てから次々に甦る、あの楽しかったやりとり。堕天使は面談を忘れ、しばし思いにふけった。




