ステータス
幸いなことに吹っ飛んできたアルフレッドなる爺さんは一命をとりとめたらしく、爺さんを家に運ぶよう他の指示したマカロンの姐御も加わり、話し合いが始まった。
『で、何があったんじゃ? 説明してくれや』
体を縮こめるサトミちゃんに代わり、受付嬢が軽く挙手して言葉を開く。
『こちらのサトミさんの能力測定を行っていたのですが、速度と技巧以外の能力が9999と表示されたんです。それを聞いていたアルフレッドさんが。インチキしたのかと絡んでいきまして……』
『9999!? しかも6項目でか!?』
『ああ、マカロン。信じられないと思うが、私もそれを見た。ジョブがLv:1の従魔使い《テイマー》なのに、そんな数値が出るのはおかしい。装置の故障を疑って、予備のも使ったんだが、それでも同じ数値だったよ。それでアルフレッドさんが文句をつけだして大変だったんだ』
「複数の装置を使っても同じ数値なのは当然でしょう。というより、ここの装置も9999までしか測れないんですね」
『どういうことなんじゃ、肉団子のおっさん』
横から口を出すと、周りの注目が集まる。なんとも居心地が悪いけど、事情を知るのがオレだけなら、説明しないといけない。
なにより、サトミちゃん自身が、自分の能力を知っておかないと、今回は無事に済んだとはいえ、無意識に人を殺しかねない。
「サトミちゃんの能力は、速度と技巧以外1万を超えています」
昨日測った数値を伝えると、信じられないという風に、皆口をぽかんと開けている。
『……確かに前に聞いたとき、かつてこの世界におったとされる人間の英雄らぁ、最高の戦士の物理能力とか、最高の魔法使いの魔法能力を限界として数値を出す言うとったか。確か、昨日この世界に来たばっかりなんじゃろ? あれか、チートいうヤツなんか?』
「チートは俺ですね。サトミちゃんは真っ当なこの世界のスキル――友情契約に因るものです」
『友情契約……?』
待て。なんでそこで首をかしげる? 祭壇にあった装置でも、ステータスだけじゃなく所持スキルは表示されたはずだが?
正直マカロンの姐御や、そこのイケメンは仕方ない。自分と無関係のジョブなんて詳細を知ろうとは思わないだろう。でも測定も仕事の内という、受付嬢まで首をかしげるのはいかがなものか。
「……いや、従魔使い《テイマー》の初期スキルなんじゃないですか? その性能だって知られているのかと」
「いえ、知らない、従魔使い《テイマー》、なる人、少ない」
お、マカロンの姐御のおかげか、話すのは片言ながら、日本語のリスニングはできるようだな。
こっちもリスニングだけなら問題ない。話しやすいように英語を使ってくれて構わないと伝えると、安心したように英語で話し始めた。
『従魔使い《テイマー》は研究が進んでいないジョブのひとつなんです。一度ジョブを司る神様に信仰を誓った後、宗旨替えしようとすると神罰を受けることになりますので』
なるほど、それは中々シビアな話だ。ゲームなら全てのジョブをマスターしようというのは普通だけど、一度ジョブに就いたら変更できないのか。
いつ魔物がやって来るかも分からない世界で、従魔なしじゃ何もできない従魔使い《テイマー》なんて不人気で当然だ。
「それでも、全くいないというわけじゃないのでしょう? Lvを上げて覚えるスキルならともかく、初期スキルなんですから、装置でそのスキルの詳細を確かめれば、サトミちゃんのステータスの理由は分かるでしょうに」
『何を言うとるんじゃ肉団子のおっさん。所持しとるスキルの名前が分かったところで、その詳細は実際に使うて明らかにしていくもんじゃろうが。ジョブによって覚える汎用スキルはまだしも、わっちの『覚悟の鉄砲玉』みたいなユニークスキルは、効果がさっぱり分からんのんじゃ』
「え? 覚悟ガンギマリの状態の攻撃に、防御無視ないし最低保証ダメージつけるものですよね?」
シーンと静まり返る室内に思わず困惑する。
あれ……? なんかやっちまったか?
! そうか、装置を使ったのは初めだけ。ジョブが文字化けしてたからすぐに宇宙眼を使ったんだな。スキルの詳細までは装置じゃ測れないのか。
「そういうことですか。オレはステータスを正確に、スキルの効果も含めて測るスキルを持ってます。それで従魔使い《テイマー》は友情契約で契約した従魔とは、お互いのステータスの1割を、共有する効果がある。オレはこの通り強制契約ですが、のじゃドラはサトミちゃんと友情契約を結んだので」
首にかけられた、サトミちゃんとのつながりの証である首輪を撫でる。
『……つまりサトミには、そっちの娘のステータスの1割が乗っとるってことなんじゃな――待てよ、ほいじゃあそっちの娘のステータスはどうなっとるんじゃ?』
「こんな感じですね」
さらさらと『のじゃドラ』のステータスを書き出していくと、マカロンの姐御たちは目を大きく見開いて『のじゃドラ』を見た。
真っ青な顔で顔じゅうに汗を垂らしながら、イケメンにいたってはガタガタと椅子から転げ落ちた。
『おー……すごいメギちゃん! 私からじゃ、メギちゃんも『つよにく』も全能力9999だから、本当のメギちゃんのすごさを分かってあげられてなかったんだね!』
『お……おお! そうじゃぞ我が友よ! わしはそれはもうすごいのじゃ!』
きゃいきゃいと、お互いの手の平をくっつけて、はしゃぐ2人。実に微笑ましいが、相手が『のじゃドラ』なのが微妙に気に食わない。
『……待て。そうなると肉団子のおっさんのステータスはどうなっとるんじゃ? そっちのパーティの中で一番強いんは分かっとるけど、これより上とか、さすがに信じられんわ』
「俺ですか? 全ステータス999900です」
『おおおおおお! さすが『つよにく』! すご過ぎ!』
「でしょー? ははは」
差し出した両手を無視して、サトミちゃんが俺の腹をバシバシと叩いた。
なるほど、これは出会った時からやられたサトミちゃんなりの愛情表現。両手を合わせてきゃいきゃいやるよりも、上の行為と位置付けてしまおうじゃないか。
サトミちゃんから伝わったのか、真っ青な顔をする『のじゃドラ』を鼻で笑うと、振り絞るかのような声で姐御が呟く。
『……冗談……じゃないんじゃろ?』
「ええ。姐御のステータスもさっき勝手に測らせてもらいましたけど、これで合ってますよね? 9999までなら測れるなら、スキルの正確性の証明になるはずです」
『失礼します……確かに、数値に間違いはないですね』
『それはそうじゃろ。自分が記憶しとったステータスとは微妙にずれはあったけど、そこまで大きい差があったわけじゃなかったけぇな。それより急に姐御とか言い出してどうしたんじゃ、肉団子のおっさん』
「すいません、心の中で勝手にそう呼ばせてもらってました」
杯を酌み交わした家族の話を聞く限り、優しい娘とは分かるけど、ヤクザの娘だしな。
13歳とか娘というにも幼い相手だけど、イメージは完全に極妻とかそういうもの。正直一般時から見たら広島弁のヤクザってだけで怖いんだよ。しかし姐御は姐御で、英語で話してるはずなのに、勝手に広島弁に変換されるな……。
『まあええ。肉団子のおっさんが自分のことチートじゃ言うんは分かったけぇええとして……そっちの……人の姿しとる……ドラゴンでええんか? それを従魔にしたんは昨日の話なんじゃろ? どこにおったんじゃ?』
「あー、警戒してるのなら、そこは大丈夫ですよ。おそらくこの近辺にいる魔物ではないので」
慈愛の女神がサトミちゃんのため用意したであろう魔物だ。
芋虫だけじゃなく、木の上から色々な魔物が落ちて来たものの、ドラゴンに関しちゃ『のじゃドラ』以外見なかったし、この近くに生息しちゃいないんだろう。
「ただ、あそこのテーブルマウンテンには近づかない方がいいでしょうね。ドラゴンはいなくとも、あそこに棲む虫はなかなか強かったですから。防御力20万の芋虫にも驚きましたが、振って来たカブトムシなんかも、軒並みステータスが10万を超えてたので」
『おい。さっきここに大襲撃しかけてきた魔物も、危険度Aの狼蜥蜴でさえ、一番高いステータスで2000くらいなんじゃぞ!?』
んー?
「ちなみに姐御も相当なステータスしてますよね? ……うわ」
さりげなくイケメンに宇宙眼を使ってみたらなんだこりゃ。ジョブは聖騎士と大層な感じだけど、ステータスの平均は1500程度。
これじゃ狼蜥蜴とやらをひとりで足止めできるかも怪しい……いや、危険度Aとか聞く限り、それをひとりで押さえられるなら上等なのかもしれないが。そう考えると姐御のHP9000、攻撃力8000は本当に強い。
『サトミ、頼みがあるんじゃが……もし目的がまだ決まっとらんのなら、ここに腰据えてくれんか? できりゃあ、わしらの手伝いをしてほしいんじゃ』
『ん? いいよー。ボクのやりたいことはポケクリを集めることだし、この辺のポケクリが集まるまでは住んでもいいよね?』
「サトミちゃんが望むなら、何も言うことないよ」
サトミちゃんの一声で街に滞在することが決まると、姐御とイケメンは、これから俺たちが自由に使っていいと、大きなログハウスに案内してくれた。




