町の案内
大襲撃――もとい、『つよにく』を恐れ、パニックになった魔物たちの大移動が終わり、町には平穏が戻っていた。
それでも魔物がぶつかり、壊れた家や壁を直すため、人々がせわしなく働いている。
そんな活気の中を『つよにく』はマカロンの後ろに続いて進む。
「なんていうか、先ほど招き入れられた時も感じましたけど、結構な田舎ですよね。この世界の町って、みんなこんなもんなんですか?」
「んなこたなか。ここは開拓の最前線、ド田舎じゃけぇ。都会に行きたいんなら、南のほうへ進んだらええよ。舗装はされとらんけど、道みたいになっとるけぇ、それに沿うて行きゃ着く」
「開拓……。それでこんなログハウスばかりなんですね。ちなみに都会と言うのは文明のレベルとしてどれくらい?」
「ほうじゃのう、建物は石造り、武器というたら剣や槍や弓で銃はない。ま、中世って感じかのぉ」
「ふむ」
『つよにく』からしたら、サトミには何の不自由もなく暮らして欲しい。魔物との戦闘ならともかく、回復系のスキルがないことを考えれば、医療の面も考えなければならない。
「大きな病院があるほうが……いや、前の世界の常識は捨てないとダメか。開拓っていうのは具体的に何を意図したもので? どれくらいのレベルが選ばれるものなんです?」
「ほう。この世界は人間より上位の種族がぎょうさんおるんじゃ。でかい壁で街を囲んで、みんなでそこに籠ったほうがええ思うかもしれんが、援軍もおらん籠城戦なんぞ、いずれ滅びるんじゃ。取れる素材も限られとるし、どうしても人間の生存圏を広げるために開拓は必要なんよ。そりゃあ当然、それに選ばれる人間は命がけじゃし、精鋭言うてええレベルじゃ」
「なるほど。それじゃ医療なんかはどうなんです? 都会とここでの差はどれくらい?」
「なんじゃ、初めて見たときは話も通じん化け物か思うたけど、賢いのう肉団子のおっさん。知識や薬を使うて治療する病院もあるにはあるんじゃが、この世界じゃ回復スキルのほうが重宝されとるんよ。住んどる人間に対して、回復スキル持ちが何人おるかが、そのままその都市の医療レベル言うてええ。ヒーラーでどうにもならん人間が、病院で時間かけて治療する感じじゃな」
愉快そうにばんばんと『つよにく』の背中を叩き、マカロンが続ける。
「そういう意味じゃ、この町の医療レベルは都会以上なんよ。人口が500くらいで、そのうち戦士が300、ほかが200。その中で回復スキル持ちが10人を超えとるけぇな」
なるほど、と小さく呟き『つよにく』は顎に手をやって考え込んだ。
前世でのサトミの最期を見て、病気になった時の対応を真っ先に心配したものの、下手に大都市に向かうよりも、この地に留まる方が利点は多そうだ。
実際、あの白い部屋にいれられていたせいか、サトミは外への執心はすごい。思えば転生してきた魔方陣のあった部屋からもすぐに出たがっていたし、土や木しかない辺境でも、外で遊べるのは楽しくて仕方がないのだろう。
先程の件があって、実力では絶対に敵わない相手と分かっているのに、周りは奇異と警戒の視線を浴びせてくる。
これが大都市となれば、その数が増えるかもしれないと思うとげんなりするし、何より角と尻尾の生えた『のじゃドラ』までいるのだからなおさらだ。
「どこかに拠点を置きたいというのは確かですが、それを決めるのはサトミちゃんですからね。オレはそれに従うだけです」
「そういやそのサトミはどこ行ったんじゃ? てっきり一緒におるんか思うとったんじゃが」
「日本を話してたのが気になって、オレはキミが起きるのを待っていたんです。怪我もさせましたし。その間退屈だろうからと、金髪のイケメンに任せました。不本意ながら……本当に不本意ながら、サトミちゃんに危機が訪れたところで『のじゃドラ』が何とかしますよ」
サトミへの貢献度という、従魔どうしのヒエラルキー争いで一歩リードしかねない状況に、『つよにく』はギリッと歯を噛み締めるのを、マカロンは呆れた様子で見守った。
「……まあええわ。それで肉団子のおっさんは、どこか行きたい場所があるんか? こっちはこっちで案内してやるけぇ」
「そう……ですね。こっちの世界の事が何も分かってないのでアレなんですけど、回復スキルの重要性が分かった以上、ぜひ覚えておきたいのですが、どなたかに教えてもらうことはできますか?」
「スキルを覚える……か。スキルはジョブに紐づいとって、ジョブレベルが上がりゃ授かるもんじゃけぇ無理言いたいんじゃが……肉団子のおっさんは超スーパーなんたらとか言う、聞いたこともないジョブなんじゃろ? 知っとるかどうかは分からんけど、斡旋所の受付にでも聞いてみるしかないかの」
「斡旋所……! あれですか? ファンタジー作品で冒険者が仕事を受ける、あの!」
「ああ、もちろんわしらは開拓に来とるわけじゃけぇ、仕事言うたら近隣の調査になるんよ。まわりの地形、素材の分布、生息しとる魔物、そういうもんを新しく地図に書き加えていくわけじゃ。ほいで、能力の測定をやるんも斡旋所なんよ。ジョブの種類と、ジョブレベルが上がる条件、条件達成でどんなスキルを覚えるかいう知識が集まっとるけぇな」
ついて来いとジェスチャーをするマカロンに続き、町の正門の近くにやって来ると、正門のすぐ脇の大きめの小屋に近づいてく。
「さっきも見たな。ここがそうだったんですね」
「そりゃこの町の目的は開拓じゃけぇな。だんだん大きゅうなった後ならともかく、調査の報告がすぐ済ませられるように、一番便利な場所にあるんは当然じゃろ――!?」
そう言ってマカロンが中に入ろうと、小屋の前に設置された2段の階段に足をかけた時、入口のスイングドアから、男がひとり飛び出してきて地面に転がった。
黒いローブに全身を包んだ、陰気な年配の男。直前まで握っていたのか、きれいに磨かれたサーベルが横に転がる。その目は完全に白目をむいて、完全に気を失っていた。
「どうしたんじゃアルフレッドの爺! まさかまだ町ん中に魔物が残っとったんか!」
小屋から離れ、男に駆け寄ったマカロンとは逆に、小屋に飛び込んだ『つよにく』は思わず頭を抱える。
そこにはサトミをかばうような態勢で、鼻息を荒くしたメギドフレイムが立っていた。
『のじゃドラ……#”(!=~……何……してる……’()##……乗っ取る』
「のじゃドラよぉ、お前一体何してくれてんの? 町を乗っ取ろうとかしてねえよな?」
『ぴ!?』
『違うんだよ『つよにく』! メギちゃんは何もしてなくて!』
「そうだったのかい? それじゃ先に仕掛けてきたのはあの爺か? よし、殺すか」
『違う! それも違くて!』
メギドフレイムがやらかしわけではないとなると、サトミのための貢献ポイントを稼がれてしまう。それはそれで気に入らない『つよにく』は、せめて止めだけでも刺して挽回しようとするのを、必死に止められた。
それは、『つよにく』はかつてボランティアをしていた時によく見た、子供が怒られることをした時の仕草そのもの。言いづらい事がありそうなサトミの前にしゃがみ、視線を合わせて優しい声で尋ねた。
「ふむ、そうなると一体何があったんだい? 教えてもらえないかな、サトミちゃん。例え何があってもオレはキミの味方だから、なんでも話してごらん」
『違うの……ちょっと押しただけなの。そうしたらあのお爺さんが、ものすごい勢いで、びゅーんって飛んで行っちゃって……』
『うむ! さすがは我が友サトミじゃ!』
誇らしげに胸を張るメギドフレイムはともかく、斡旋所にいた人間も、かくかくと小刻みに首を縦に動かして肯定する。
「あー……」
従魔を除いた、サトミを含むすべての人間が意味が分からないという表情を浮かべる中で、理解した『つよにく』は思わず声を漏らした。




