マカロン
「うん……ここは?」
マカロンが目を覚ますとそこは良く見知った天井。
朝から魔物たちの大襲撃が始まり、それが終わったと思えば、とてつもない化け物に襲われた。そんな気がしたが、こうして自分のベッドで寝ていたことに、それが夢だったのかと、ほっと胸を撫で下ろした。
「気が付いたか、お嬢ちゃん」
「!?」
ひとり暮らしの寝室だというのに、急に声をかけられたマカロンが跳ね起きると、枕元に置いてあった長ドスに手を伸ばして膝立ちで構えた。
「待った待った。オレたちには初めから戦う気がなかった。それをあの『のじゃドラ』が勝手な解釈をして……いや、違うな。ともかくまず怪我をさせてしまったことを謝るよ」
目を覚ますまでこうして椅子に座って待っていたのか、さきほど争った丸々太った中年が頭を下げる。その男の膝に乗せた右手が、包帯で治療されてるのを見て、マカロンもまた頭を下げた。
「……いや、怪我をさせたんはお互い様じゃけぇ。むしろこちらから手ぇ出したんじゃ。わっちの方こそ、すまんかったの」
膝立ちだの態勢から正座になおすと、握った長ドスを置いく
しばらくお互いに頭を下げ合い、やがて顔を上げると、『つよにく』の方から話を切りだした。
「やっぱり日本語が通じるのか。いや、それに準じる言語なのかもしれないけれど」
「日本、か。久方ぶりに聞いたのぉ。こっちの世界じゃジパン語じゃ。おどれも転生者か。こっちに来て日が浅そうじゃのぉ」
「やっぱりお嬢ちゃんもか。オレは、昨日転生してきたばかりだよ。一緒にいたサトミちゃんも同じタイミングで、もう1匹のドラゴンはまあ、来る途中にサトミちゃんが強制契約……いや友情契約したおまけだ」
マカロンは布団の上で正座したまま大きく息を吐いた。とりあえずはこの町をどうこうしようとはしていないことと、同郷の転生者と分かったことで、ひと安心したというところだろう。
しかしそれでもマカロンは鋭い目で『つよにく』を睨んだ。その眼力に『つよにく』の背筋が伸びる。
「互いに謝罪は済んだ。あのチビッ子は従魔使いで、従魔と一緒にいることも分かった。まぁ、それはええ」
ゆっくりと確かめるように、マカロンは言葉を続ける。ずっと年下の少女でありながらも、任侠から発せられる迫力に、能力を与えられただけの一般人の顔から滝のような汗が流れた。
「われは何もんじゃ。昨日転生したばかりの日本人ちゅうなら、日本でもそんくらいの強さじゃったわけか? なおのこと訳が分からんぞ」
「あ、あ、あの……オレ……その違く手……その、私は『つよつよにくだんご』って言って……ジョブは『超超究極宇宙闘士』です」
「………………は? なんて?」
「私は『つよつよにくだんご』って言って……ジョブは『超超究極宇宙闘士』ですッ!!」
何故か急に以前の対人恐怖症を再発させながら、『つよにく』がこちらに来てからに留まらず、生前の事から天使に転生させられるまでの経緯を説明する。
それを腕組みをしながら聞くマカロンは、時に宥め、時に励ましながら根気強く聞いた。
「……そりゃぁ大変じゃぁ、人間をテイム出来るなんぞ聞いたことないんじゃがのぉ。まぁなんじゃ、ここじゃ名前で馬鹿にするような奴ぁひとりもおらんが、名前を馬鹿に専用には言うとくき。大切にしとる娘につけてもらった名前馬鹿にして、町丸ごと消されたらことじゃからのぉ」
「ははは……、『前科六犯』と書いてマカロンとか、何の冗談かとなるのを受け入れてる人たちですからね。そこは信頼してます」
「あ゛?」
「ひぃ!?」
ステータスで見れば本来逆であって然るべきなのだが、マカロンの持つ相手に恐怖を与えるスキル『威圧』により、恐怖に震える『つよにく』。
その姿を見てマカロンは頭を掻きむしると、手をひらひらと振った。
「悪かったのぉ。カタギのもんをビビらせるつもりはなかったんじゃ。こっちの世界のスキルっちゅうもんは、普段は便利なんじゃが、時々不便でのぉ。ただ、こげな漢字をつけたんが、わっちの親じゃと思われるんは、さすがに許せんでな」
「ど、どういうことですか? オレ……私で良ければ話聞きますけど」
「つまらん話じゃ。おとんは前科四犯の筋者じゃったんじゃが、ある日他ん組の奴に殺されたらしくてのぉ、組長の娘じゃったおかんが、その仇を殺した。そん時、わっちを身籠っとってな、獄中で生まれると看守が届け出を出しよったらしい。おとんの四犯におかんの一犯を合わせた上で、看守に迷惑をかけたことも罪じゃちゅうことで合わせて六犯じゃと」
(平成生まれの日本人じゃないのか? 人権とかどうなってんだ?)
理解できずに目を白黒させる『つよにく』の様子を見て、マカロンは愉快そうに笑った。
「かかか! なんちゅう顔しとるんじゃ。ま、刑務官中にも、色んな思想を持った奴がおるっちゅうことじゃ。大半の刑務官はまともじゃが、中には悪は許さんと張り切りすぎて、異常な行動に出る者もおるきに。逆に筋者の中にも、少しはまともな者がおると思ってくれたら、嬉しいんじゃがの」
「……一流企業の人事にも、面接で罵詈雑言浴びせて来るのもいましたので、よく分かります。まともな人間はまとも、ヤバい奴はヤバい。どこの国にも、どんな身分にも、必ず両方の属性持ったのはいると思ってます」
その答えを聞いたマカロンは愉快そうにカカカと笑う。
「そん通りじゃ。実際わっちのおかんは良く出来た人でな。カタギんとこでやるらしい、生まれた子供ん通帳ば、記念に作っちゃりするんが、筋者じゃそれができんくてな。そん代わり、役所にせめて響きだけでも女の子らしゅう『まかろん』に変えろて、別の刑務官に向かって組長に速達で送らせたらしいわ」
「ああ、読み方だけを変えるのは割と簡単らしいですからね」
「カカカ。しかし、われもそれを知っちょったんか。なら忘れたちゅう名前がどげなもんか知らんが、他人からとやかく言われる苦労より、家族の絆を選んだっちゅうことじゃろ。わっちも盃交わした家族の絆を大切にしとったきに、そういうんを大切にする奴ぁ信頼できる」
「思い出したのは、走馬灯の中でですがね。母親にも親不孝をしたと後悔してます。ただ……今はサトミちゃんがこの世界で元気にやっていくのを、見守っていきたい」
「よし、ほいじゃ、わっちにつきっきりにさせて悪かったのぉ。これからおどれらがどうするか、しばらくは町に滞在して考えればええ。案内しちゃるからついて来いや」
マカロンはそう言った後、体の感覚を確かめると、振り向かずに部屋を出て、『つよにく』はすぐにその後を追った。




