迎撃に出た少女
なんでこうなったのか。
ただ、これからこの世界で暮らしていくために、人間の町を目指そうとして、そこがたまたま魔物の襲撃を受けていたから助けに来たというのに。
「『のじゃドラ』がよぉ……何でこの町を目指してたのか、分かってなかったのか」
『な、なんじゃその目は! 言いたいことがあるなら分かる言葉で話すとよいわ!』
ぶつぶつと小声で文句をたれる『つよにく』にメギドフレイムは、慌てた様子で抗議する。それを宥めるように優しくサトミが質問した。
『ねえねえ、メギちゃん。ボクたちが何でこの町に急いだか分かってた?』
『当然じゃ! ここに住む人間を追い出し、屋根のある建物を手に入れようとしたのじゃろ? それがくだらぬ魔物風情に踏み荒らされたらたまらぬからな!』
「これがドラゴン的常識か……誤解を解かないとな。ちょっと話をしてくるよ」
『あ、でもでも『つよにく』の英語じゃ多分通じないよ? ボクが話してくる!』
『オデ……&#%”$……下手……?』
(おっさんの英語ってそんなに下手かい?)
『うん。部分部分しか分からないよー』
「そうか、でも1人で迎え撃ってきた辺り、相当腕があるのかもしれない。ちょっと待ってね、宇宙眼!」
メギドフレイムと友情契約を結んだことで、今のサトミは恐らくこの世界でも最強クラスの人間。それは『つよにく』も理解しているが、防衛戦には老若男女問わず全員参加する義務があるはずなのに、こんな少女がたった1人で向かってきてる意味とは?
考えるなら、こちらの戦力に対抗し得るのが彼女だけと判断した、というのが妥当だろう。そう考えた『つよにく』はスキルを使ってステータスを見た。
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名 前:烏丸前科六犯
年 齢:13
ジョブ:侠客 Lv:5
生命力:9120 攻撃力:8015 防御力:1126 速 度:3400
魔力量:0 魔攻力:0 魔防力:481 技 巧:6622
所有Pスキル:覚悟の鉄砲玉、状態異常無効(恐怖、混乱)、威圧・弱
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(これ、相当強いよな……つーか………………これ履歴書だっけ? 賞罰欄がないからって名前のところに前科書くのはどうなんだ? てか13歳で前科持ちなのもどうかと思うが……6犯かよ……)
素直にドン引きする『つよにく』だが、少女は一切の油断なく『つよにく』の一挙手一投足をにらみ続けていた。そんな少女の後ろから男の声が飛んだ。
『マカロン!! 皆はもうすぐ避難できる! キミもあまり無理をするな!!』
『はッ! ええから、わりゃもさっさと逃げんかい、クレス』
「マカロン……まかろん……前 科 六 犯!? 全く可愛くない字面に、めちゃくちゃ可愛い名前が来たな!?」
「なんじゃわりゃ、筋者の名前にゃ似合わんと言いたいんか――のぉ!!」
「……ッ! 日本語!?」
つい先ほどまで英語で話していた少女が、日本語で叫んだ『つよにく』に反応したことに驚くが、一瞬の隙を突いた少女は既に懐まで近づいてきている。
「待て……!」
右手を広げて制止しようとする『つよにく』だが、すでにマカロンの抜いた長ドスは眼前にある。『つよにく』の速度なら避けきれないこともないかもしれないが、慌てて本気で動いたら、どこまで吹っ飛んでいくかは分からない。
メギドフレイムがいるとはいえ、そうなってはサトミを危険に晒すことになる。
(ちッ! だが、こんなもの)
すでに防御力と攻撃力の検証はいくらか進んでいる。向かってくる刃物を手で防ぐことに、恐怖とためらいがあるが、ステータスの差を考えれば、ダメージが通ることなどない……はずだった。
長ドスの刃を正面から受け止めた瞬間、その手のひらから鮮血が飛び、『つよにく』の血が地面を濡らした。
「痛ってええええええええ!?」
「!? うわああああああああああ!!」
予想だにしていなかった痛みに、長ドスを受けた右手を引っ込めながら、反対の左手を払う様にマカロン目掛けて振りぬくと、直撃こそしなかったものの、風圧によって飛ばされた少女が、勢いよく町の壁に叩きつけられた。
「マジか、痛って……調べられるのって装備の効果が乗ってない数値ってことか? くそったれ、攻撃力10万の武器とかを、そこらの一般人が持ってる世界ってことか? ……そういや木にはスキル使えたな」
気を失っているのか、壁に叩きつけられてピクリとも動かないマカロンの横、転がる長ドスに宇宙眼を使うと、表示された攻撃力は1000程度。
ならばと、再びマカロンにスキルを使い、侠客というジョブとしては何の違和感もないスキルの詳細を開いた。
・覚悟の鉄砲玉――どんな強敵だろうと一矢報いんと覚悟した者。その気迫が乗った攻撃はどんな堅固な相手にも、一定の傷をつける。また、覚悟の決まった眼光は相手に恐怖を刻みつける。
「ああ……防御無視攻撃……もしくは一部のSRPGにある最低保証ダメージってやつか。そんなのもあるのかよ。おい、大丈夫か嬢ちゃん」
未だ微動だにしないマカロンの姿に、さすがに不安を覚えた『つよにく』がゆっくり近づくと、うつ伏せになった背中が上下していることに気づき、気絶しているだけと胸を撫で下ろした。
しこたま背中を打ったように見えたが、目立った外傷もなく、素人判断には命に別状なさそうだ。
『何やってんだよ『つよにく』ー! 壁の上のお兄さん! お姉さんを助けてあげてよ!』
『! あんた……人間、なのか? そっちの2体の化け物は……』
『なに『つよにく』? ふむふむ……えっと、ボクは旅の従魔使いのサトミだよ! それで後ろのふたりはボクの従魔。攻撃されてちょっとびっくりしちゃったけど、本当は危害を加えるつもりはなかったの! ごめんなさい!』
耳打ちされたことをつらつらと述べた後、必死に頭を下げるサトミ。その言葉に合わせて『つよにく』も自分の首にかけられた金属の首輪を指で指し示す。
『昨日は野宿したから、今日は町で泊まりたいなって思ってただけなんだ。戦うつもりはないから安心して!』
『本当、なのか……?』
『オデ……’$%)##……騙し討ち……必要ない……&$%#&’+*』
(オレたちの実力なら、わざわざ騙し討ちする必要すらないのは分かっただろ?)
『……分かった、ここで疑い、戦ったところで勝てる相手でもなし。その言葉を信じよう。こちらも確認不足のまま攻撃して済まなかった。皆、マカロンを家に運んでくれ。キミたちは私の後について来てくれるかな……?』
『うん、いいよー』
敵でないという言葉を信じようとは言っても、やはり恐怖を感じているのか、言葉も体も震えるクレスに続きサトミが町へ入る。
『やれやれ……我が友サトミに迷惑をかけるなど、どうかしとるのじゃ』
『鏡……見る……のじゃドラ。%+*?#$……ヤヤコシイ……』
(鏡見ろや『のじゃドラ』。ややこしくしたのはテメエだろうが)
『な、なんじゃ! まさか、ワシを鏡に閉じ込めるつもりか!?』
なるほど、鏡という単語以外、全く伝わっていない。サトミの言う通り、自分の英語は相当ヤバいらしいのだと『つよにく』は理解した。
昨日からのメギドフレイムの反応も、自分の英語の拙さからの誤解もあるのかと、ようやく気付いた『つよにく』は、腰を落ち着けることができたならスピーキング能力を高めることを決意したのだった。




