町へ
川を泳ぐ魚を焼いただけの、朝ごはんを終えると『つよにく』たちは今後について話し合っていた。
「とにかくまずは人の住む町を目指そう。こんなサバイバルを続けていては、栄養が偏ってサトミちゃんの成長にも良くないからね」
「『つよにく』、なんかママみたい」
「はは、小うるさいことを言うかもしれないけど、許してね」
サトミの生前の様子を見てからと言うもの、あの両親の代わりといってはおこがましいが、それでもその健全な成長を見守っていきたいという気持ちは『つよにく』の中で大きくなっている。
転生した遺跡の情報が正しいなら、40㎞離れた場所に町があるとのこと。
世界地図は転生前の世界の者と変わらず、白地図の上に各地の転生の祭壇の場所と、その最寄りの町だけが書かれている。
ブリトルンという名前を頼りに現在地を探ると、イギリスの真ん中あたり、大体マンチェスターの位置。最寄りの町はどうやらここから南東にあるようだ。
「正面に太陽が昇っているのを見ると、闇雲に走ってきた割には方角は合ってたらしいな。この崖を下りる必要があるけど……」
視界の範囲内は全て断崖絶壁、海岸線は元の世界と変わらないものの、地形は大分違うようだ。
知識にあるギアナ高地のテーブルマウンテンのような場所にいるのかと不安になるが、さすがに「40㎞ある(1000m近い断崖絶壁を道具なしで降りる必要もある)」は無理難題にもほどがある。
(オレだけだったら、あのクソ天使の嫌がらせで移動もできない場所に跳ばされた可能性はあるけど、さすがに慈愛の女神に転生させてもらったサトミちゃんもとなるとな。どこかに降りられる場所があるはずだ。そもそも何で恩寵まで与えている慈愛の女神とやらが、こんな場所に転生させてんだよ)
女神がやったこととはいえ、各地で苦戦する人間種の補充という転生である以上、場所はランダムに飛ばされるのは変えられない。
その分、転生先の祭壇入り口に旅のパートナーとして、サトミの大好きなドラゴンを転送されるというインチキをかましたわけだが。
『むぅ我が友サトミよ。さっきから何を話しておるのじゃ? コヤツの言ってることは何も分からぬ』
『えっとね、まずは町を目指そうって話になってるんだけど、この崖をどう降りようってさ』
サトミの言葉を聞いたメギドフレイムは、1度きょとんとした顔をすると、すぐににま~っとした顔で『つよにく』を見た。
『お~? なんじゃなんじゃ? お主飛べんのか? 良いことを聞いたわ、我が友サトミよ、こんなヤツここに置いて、ワシとふたり旅といこうではないか』
『ノジャドラ……ソウスル……死ヌ……$#&%……ゾ』
(おいコラ『のじゃドラ』、そんなことしたら死ぬまで追いかけるぞ)
『ぴえ!?』
『『つよにく』! メギちゃんを虐めちゃダメ!』
「なんかもう、ここまで臆病だとドラゴンじゃなくてウサギみたいな小動物……いや、ノミとかアリみたいな生き物に見えて来るな……って、あ、そうか。今のオレならこれくらい飛び降りれるか。サトミちゃんは不本意ながら『のじゃドラ』に運ばせるとして」
アリはどんな高さから落ちても死なないという豆知識を、昔バラエティ番組でやっているのを見たのを思い出す。
その時の専門家の説明が『アリの質量では終端速度で地面に打ち付けられたところで、死ぬほどの衝撃を受けない』というもの。
「この高さから落ちれば終端速度には達するが、人間のそれなんて200㎞/h程度。昨日、木にぶつかった時は絶対それ以上出てたし、昨日の木と土じゃ木の方が硬いしな。よし、じゃあ直線的に進めばいいか。町は……」
『あ、『つよにく』! あっちに煙が見えるよ!』
サトミが指さす方を見ると、朝ごはんの準備か確かに炊煙が上がっている。
「おー、よく見つけたね。すごいぞサトミちゃん」
『にしし~』
『つよにく』はサトミの頭を恐る恐る撫で終えると、焚き火跡に川の水をかけ、完全に火が消えたことを確認する。特段環境を破壊するものは無し、広げた地図も閉まった、指差しながら全ての作業を終えたと判断した時、町を見ていたサトミが声を上げた。
『あれ~? なんだろ。森から黒い点々がどんどん出てきて……』
『あー、下の森に棲んどったモノたちが、我先にと移動しとるんじゃろ』
『ナニ? 町……襲ウ……#$’%? オデ……$#&”来タ……タイミング』
(何!? まさかあの町を襲うつもりか!? オレたちがやって来た途端これとか、なんてタイミングだよ!!)
『そらそうじゃろ! 朝っぱらからお主のような化け物の叫び声に、叩き起こされたんじゃからな!! パニックにもなるわ!!』
『えー! 大変! ボクたちのせいで、町が襲われそうってこと!?』
『何をいうか我が友サトミよ。悪いのはコヤツだけじゃ。お主は何も悪くないぞー』
「『のじゃドラ』がよぉ……いや、でも本当にオレが原因ならすぐに行かないと。どうせ飛び降りるなら少し助走をつけてみるか。サトミちゃんは『のじゃドラ』にそのまま運んでもらって」
ひしっと抱き合うサトミとメギドフレイムにそう告げると、『つよにく』は崖から跳んだ。
*
(危っぶね~~~~……!! マジで今自分がどれくらい動けるのか、すぐに検証しないとな)
軽く跳んだつもりが、まさにギリのギリ。あと少し力を入れていれば町中への着地になっていたことに、『つよにく』は冷や汗を流していた。そのすぐ後にサトミとメギドフレイムが続いて着地する。
辿り着いた町は、丸太を何本も横に並べた木の壁で覆われているが、所々魔物に破られ大きな穴が空き、立っている木にも生々しい爪の跡が付いている。
ずっと迎撃を続けていたのだろう、壁の上にいる人は疲れ切った顔をしているが、すでに魔物の襲撃が終わったのか、生きている魔物の姿はない。
そんな中、壁に空いた穴から1人の女性――いや、まだ幼さの残る女の子が歩み出た。
着物というには地味な生地だが、見た目は任侠映画に出て来る女のように、片側の袖だけ通して白いさらしを胸に巻いており。そのはだけた肩で抜いた長ドスをトントンと弾ませる。
(英語圏内の国なのに、ずいぶんと和風なのが出てきたな……サトミちゃんの教育に悪そうなのはノーセンキューなんだが、この世界ではこれが普通なのかもしれん)
『おんどれら何もんじゃ。襲撃する気で来たんなら、お帰りいただけんかのぉ?』
『えっと、襲撃ってわけじゃなくて――――』
『ふふ、そうはいかぬわ。この町は今この時より、我が友サトミの拠点じゃ。素直に明け渡せば良し、そうでなければ力づくということになるのう? さて、弱き人間ども、貴様らはどうするつもりじゃ?』
「おいコラ――――」
『さよか、そういうことなら、わっちも退けんのぉ。わっちにはこん町に義理があるき、それを果たさんと逃げるわけにはいかんのじゃ』
「のじゃのじゃ、うるせえな!?」
「『つよにく』、疲れてる?」
助けに来たはずなのに、何故か連れのせいでトラブルに発展しようとしている状況に、『つよにく』は思わず頭を抱えた。




