説教
とっぷりと日の暮れた夜の森。その崖の際に3つの影が火を囲んでいた。
辺りから聞こえるのは焚き火の爆ぜる音と川のせせらぎだけ。巨大な芋虫をはじめ色々な生物が生息しているはずなのに、気味が悪いほど生命の気配がない。
焚き火の周りには食べ終えた川魚の骨が散らばり、食後のまったりした空気の中、サトミの楽しげな鼻歌が響く。『つよにく』もよく知る、アニメポケットクリーチャー初代OPだ。
「色々あったってのにご機嫌だね。そっちの『のじゃドラ』も、サトミちゃんくらい可愛げがあればいいのに」
『シャーッ! フシャーッ!!』
『何言ってんだよ『つよにく』ー。メギちゃんはこういうところが可愛いんじゃん』
「すっかり愛称までつけちゃって……」
焚き火に枝を投げ込みながら『つよにく』はため息を吐く。強制契約され名前を付けられた時より、サトミのことが愛しくてたまらない『つよにく』だが、従魔同士ではそうはならないらしい。
サトミを盾に威嚇を続ける竜に若干の苛立ちを覚えつつ、食後の片づけを続ける。
(まぁ、サトミちゃんには言えないけど、『のじゃドラ』には『のじゃドラ』の価値があるからな)
幼少期から毎年、両親に連れられてガチのキャンプをしてきた『つよにく』。父親から叩き込まれた注意点は多い。
今囲んでいる焚き火も、サトミが枝で火を起こしたがったのを止めて竜にやらせた。それが『つよにく』の考える竜の価値だが、ライター代わりに使えるという意味ではない。
(こっちの世界の植物、見たことないモノばかりでリスキーなんだよな……漆みたいに煙吸ったらヤバいのもあるし。見た目幼女にやらせるのは罪悪感すごいけど)
『つよにく』が自分でやらず竜にやらせるのは、自分が危険だからではなく、その逆だ。
設定上強すぎる『超超究極宇宙闘士』は状態異常耐性が高すぎて毒見役に不適格。その点、従魔使い《テイマー》以下のガバガバ耐性の『のじゃドラ』はうってつけだった。
明日中に最寄りの町に辿り着くつもりだが、今後野宿する時はサトミの願いを叶えたい。そのため今は竜をライター兼カナリア代わりに使っている。
決して押し付けているわけではなく、むしろ主のために体を張る名誉を奪われている嫉妬心がふつふつと湧くのを『つよにく』は感じていた。
「……だけど、そうだな。ちゃんと話しておかなきゃダメだよなぁ。ちょっといいかいサトミちゃん」
「んー?」
体の向きを変え、サトミと正面から向き合った『つよにく』は言葉を詰まらせながら話し始める。
「えーと……ね。今日はたまたまうまく行ったからいいけどさ……もっと自分のことを大事にしないと……普通だったら死んでたよ?」
「むう。でもあの時、ああしなかったらメギちゃんやられちゃってたし」
「……最悪そうなっても良かった。まずは自分の安全、それから他の子だろ? こう言うのもどうかと思うけど……この世界をゲームみたいな仮想世界と思ってるか……それとも、日本で1回死んだから自分の命を軽く考えてるか、違うかい?」
「……軽くなんて考えてないもん。前と一緒で一生懸命生きてるもん」
「一生懸命生きてるって……日本じゃ両親に甘えながら、ポケクリやってただけじゃないの?」
「………………一生懸命………………生きたもん」
『何を話し合っておるのか分からぬが、イジメられておるのか? よしよし、大丈夫じゃ。今度はワシが守ってあげるからの』
『~~~~~~~……メギちゃん~~~』
泣き出しそうなサトミが竜を抱きしめる姿に、『つよにく』は胸に刺すような痛みを覚えた。サトミを愛おしそうに抱き返し、一緒に睨みつける竜に舌打ちしそうになるのを必死に耐える。
(こっちはサトミちゃんのためを思って嫌われる覚悟で注意してるのに、この『のじゃドラ』は……! っと……いかんいかん)
ひとり悪者になっている状況に理不尽さを感じつつ、『つよにく』は息を整えた。
「とにかく、今後は命を粗末にしないこと。サトミちゃんはオレはもちろん、『のじゃドラ』と比べてもずっと弱いんだから、前に出ないで後ろにいること。いいかい?」
「むー……でも、なんか調子いいんだよ? そりゃ『つよにく』と初めて会った時は動きに慣れてなかったかもしれないけど、今は体が軽いし、力が漲ってる気がするし」
「慣れたら体が軽くなるとか……って、待てよ? 宇宙眼!」
自分もステータスを自認してからは恐る恐るだったこと、そして思い当たる節があったことで『つよにく』はスキルを使う。
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名 前:新堂・ポケクリマスター・仁深
年 齢:14
ジョブ:従魔使い《テイマー》 Lv:1
生命力:28095 攻撃力:11015 防御力:10533 速 度:2165
魔力量:10791 魔攻力:10228 魔防力:12745 技 巧:2960
所有Aスキル:強制契約、友情契約
所有Pスキル:慈愛神の恩寵(使用済)、状態異常耐性・強(毒、マヒ、熱病)
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(そうか、友情契約。互いのステータスの1割を加算するってあったし、『のじゃドラ』と契約した結果か。超超究極宇宙闘士のステータスはカンストの100倍。つまりこの世界の人間の限界値は9999。速度と技巧以外は限界超えてんのかサトミちゃん)
もはや超人。ここにいる中ではダントツに弱いが、行く先々の人間と比べれば圧倒的。それでもこれまでに出会った化け物は、人間で勝てる存在ではない。
このまま姫プレイを強要するにはステータスが強すぎて、『つよにく』は言葉に詰まった。
(これだけのステータスでも、まだジョブレベルは1のままなのか。ここら辺を鍛えて行けば……って、え?)
ステータスを見ながら今後を考えていた『つよにく』の目に、気にしていなかった項目が飛び込んできた。
14歳。弟と同じくらいだと思っていた少女は、中学2〜3年生だ。
「――虐た……ゴホンゴホン」
口に出せばサトミを傷つける言葉を慌てて飲み込む。中学生にしては低すぎる身長、細すぎる腕や足。イヤな現実を突きつけられた。
(虐待――か。そうなるとさっきの……一生懸命生きてきたって言葉も……慈愛神が肩入れするのも……)
自分を睨む視線に居心地が悪くなった『つよにく』は呼吸を整え、優しい声で呼びかけた。
「とにかく、無防備な行動は心配でこっちの身が持たないって覚えておいて。きっと『のじゃドラ』も同じ気持ちだから。ごめんね、嫌なこと言っちゃったけど、それだけは心に止めておいて欲しい」
『メギちゃんも……私が心配?』
『……もちろんじゃ。サトミは危機感が無さ過ぎるのじゃ』
『……オデ……$%&’()……敵……#$#$』
(何でオレを見ながら言うのかね。敵認定は止めてくれ)
『シャーッ! フシャーッ!!』
『……あはは、やっぱり下手くそー』
『つよにく』の言葉が心配から来ていること、ふたりのやり取りを見たことで、サトミはぎこちなく笑った。
わだかまりを残しつつも夜が更け、3人は横になった。
サトミを中心に川の字。少女ふたりはすぐに寝息を立てたが、『つよにく』は星空を眺めていた。
しばらく見ていなかったとはいえ、子供のころの記憶と重なる星々。
(世界は違うにしても、地球であることは変わらないってことか。星の位置を見る限り北半球。それも日本より緯度が高い場所だな)
学童ボランティア時代にも、児相案件の子供を相手にしたことはある。
サトミとうまく接するにはどうすればいいか考えているうちに、『つよにく』も眠りに落ちた。




