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メギドフレイム

 まばゆい光が徐々に収まり、森が再び暗さを取り戻したとき、サトミの前には伸ばした手を握る少女の姿があった。


 真紅のおかっぱ髪の両サイドから、髪より濃い光沢のある赤い角を生やした少女。背丈はサトミよりわずかに高い122〜123cmほど。どこから現れたのか分からないが、素っ裸の尾てい骨から太い爬虫類のような尻尾が生えていた。


「え、え、え? もしかして、さっきのドラゴン?」


『おお、人と友誼を結び契約を交わすとこうなるのか。じゃが、元の姿に戻ることも自在なようじゃ』


『おっと、いけないいけない……英語で話さないとだね。あなたはさっきのドラゴンでいいのよね?』


『ああ。お主とは色々話したいことがあるが、何より今は―――……』


 そこまで言ったところで、人の姿になった竜は握っていた友の手を引いた。


『逃ぃげるのじゃああああああああああ!!!!』


「おいコラ!? オレを置いていくなって、速ええな、クソ!!」


 サトミと契約したおかげなのか、さっきまで恐怖に震えていた手足が自由になったとみるや、竜は『つよにく』の抗議を無視してぴゅーっと走り出す。『つよにく』も虫を殴り飛ばしながら後を追った。



 逃走劇の果て、森を抜けた崖の上で竜とサトミは走るのを止めた。


『ふう……ここまで来れば一安心かの。戯れに命を奪い続けていたヤツだからこそ、わざわざワシらを追ってくることはあるまいて』


『はぁ……急に全力疾走されたら……って、あれ? 息が苦しくない? この世界だと疲れないのかな?』


 わずか数十秒の全力疾走であり、腕を引っ張ってもらっていたとはいえ、全く疲れていないことにサトミは驚く。素っ裸の竜はサトミを強く抱きしめた。


『……本ッ当にお互い無事で済んでよかったのじゃ。あんな災厄の権化のような怪物と出会って、命があったのは僥倖と呼ぶしかない。こうして共に窮地を乗り越えた者と友になれたこと、これ以上の喜びはないぞ』


『うん、ボクもそう思うけど。でも、それよりまず何か着ないと! 女の子なのにはしたないよ!』


『ん? そんなこと気にする必要はないぞ。何しろ普段から何も着やせんからの!』


 腰に手を当て胸を逸らし、ふふんとドヤる姿は確かに恥じらいゼロ。


『あわわ……いいから何か着ようよ! それかドラゴンの姿に戻るとかさ!』


『ふむ、別に他の誰がいるわけでもあるまいに。せっかく友と似た姿で語り合えるのを、元の姿に戻るのもなんか寂しいのう』


 サトミだけが慌てる中、竜の尻尾を覆う赤い鱗が広がり、ワンピース水着のように体を隠したことで、ようやくサトミは胸を撫で下ろした。


『それよりも友よ! ワシの名はメギドフレイムじゃ! お主には特別にその名を呼ぶことを許そう!』


『メギドフレイム……カッコいい名前だね! ボクは新堂仁深だよ! サトミって呼んでね、メギドフレイム!』


『サトミか! 其方の名も、ワシには及ばずとも、とても心地よいものじゃな』


 互いの両手を絡ませ、きゃいきゃいとはしゃぐ2人。そこへ影が近づいた。


「メギドフレイムって……ずいぶんとまあ、カッコいい名前を付けたものだね」


 メギドフレイムが自分で名乗ったところを見ていなかったのか、『つよにく』は誤解していた。サトミが訂正する。


「あ、お帰り『つよにく』ー。ボクが付けたんじゃないよ、もともとそういう名前なんだって! あと、日本語じゃなくて英語なら、この娘とお話しできるよ!」


「ああ、それで……。確かに祭壇にも、この地域は英語が公用語って書いてあったね。しっかし、サトミちゃんが付けたわけじゃないとなると、メギドフレイムってどういうことだ……?」


 サトミはちっちっと指を振りながら得意げに答えた。


「もー、『つよにく』は何も知らないんだね! 旧約聖書にソドムとゴモラっていう退廃した都市があって、怒った天が炎と硫黄を降らせて滅ぼしたんだ! その炎がメギドフレイム! ちなみにメギドっていうのは古代イスラエルの都市で――――」


「サトミちゃん?」


 ゲームや小説に詳しい『つよにく』が舌を巻くほどの知識を得意げに語る小学生に気圧されつつ、疑問を尋ねた。


「えっと……凄いねサトミちゃん。良く知ってる。でもオレが疑問に思ったのは、メギドって地名で、メギドフレイムは宗教的な意味を持つ言葉だろ? 言語体系がオレたちの世界と同じだってのは祭壇で知ったけど、そういうところまで一緒なのは何故だろうって思ったんだ」


「おお!」


 右手で左手の平をポンと叩くサトミ。その仕草がいちいち可愛くて、『つよにく』はほんわかする。


『ねえ、メギドフレイム。あなたのお名前って、パパとママがどんな意味を込めてつけてくれたの?』


『ぎ……』


『ぎ?』


『ぎやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』


「うるせえ!?」


 完全に魂が抜けていたメギドフレイムは、我に返ると気が狂ったように絶叫した。サトミはすぐに抱きしめ、ぽんぽん背中を叩いて落ち着かせる。


『大丈夫だよ、怖くない、怖くない。ほら、『つよにく』も優しく話しかけてあげて!』


「オレもか!? てか英語でだよな……英語……英語か……それにしてもサトミちゃん凄いな……」


 祭壇で英語が公用語と知って発狂したが、サトミの英語は全部理解できる。リスニングは問題ない。あとは話せるかどうか。


(まぁ……現地の人と話す前に、サトミちゃんたちと練習できるならしておいた方が良いか)


 意を決した『つよにく』は咳ばらいをし、メギドフレイムの方を向いた。


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