必殺技
夕食が終わり、明日からの家族旅行に備えて早く寝なさいと母親に言われる中、『つよにく』は弟にせがまれて超超究極宇宙闘士の細部設定に勤しんでいた。
「なあなあ、兄ちゃん。必殺技もっと考えようよー。1つじゃやだー。それにもっとどういう技か知りたいー。こんなひと言じゃヤダー」
「馬っ鹿だな、何を言ってるんだ。必殺技ってのはこういうのでいいんだよ」
「なんでなんでー? ラスファンでも魔法が効かなかったり回復されたりするじゃんなー。なのにひとつしかないって、効かなかったらどうすんのー」
不満タラタラの弟を鼻で笑いながら、『つよにく』は紙にスラスラと「必殺技」と書く。
「まだ1年生のお前じゃ漢字の意味が分からないだろうけどなー、必殺ってのは必ず殺すって意味なんだ。だったらこれ以上の説明は無粋ってもんだ」
「ぶすいー? それってなにー?」
なあなあとへばりついてくる弟との設定作りは、母の落とした雷でお開きになったが、最後に『つよにく』は紙に書いた大爆発拳の5文字の説明を丸で囲んだ。
大爆発拳――(相手は死ぬ)
*
ズンッ! 硬く、そして弾力性にも優れた芋虫の外皮に、光り輝く『つよにく』の右拳が沈む。傷がつくでも、拳が突き破るでもない。物理打撃への強耐性という言葉通り、ステータス差は歴然なのに拳は通らない――ように見えた。
だが次の瞬間、拳の直線上の芋虫の背中がボコボコと変形し、そして弾ける。
ドパッ! 体内から飛び散った体液が雨のように降り注ぐその中心で、『つよにく』は死んだ目をしていた。
「うっへぇ……気持ちわりい……」
物語では人型の魔物を倒す葛藤が描かれるが、普段殺す生き物といえば蚊かハエかゴキブリ程度。アゲハ蝶の幼虫を握り潰すことはできても、気持ち悪くてやりたくはない。だからこそ今、『つよにく』の精神はゴリゴリ削られていた。
「ぎゅぱ……! ぎゅぱ……!」
そんな『つよにく』の気持ちなどお構いなしに、同族がやられたことでパニックを起こした芋虫たちが臭角を出して必死に威嚇する。
「うぅ……」
「だからそれを止めろって言ってんだ、ゴラァッ!!」
再び胸を押さえて苦しむサトミの姿を見て、逆上した『つよにく』が芋虫を殴りつけた。体液を浴びるのを嫌がり、大爆発拳を使わず通常攻撃で吹き飛ばした芋虫が大樹を揺らすと、再び数匹の芋虫が樹上から落ちてくる。
「だああああ! もう! 確実に潰したらぁッ!」
近くの芋虫を爆散させ、臭角の効果範囲からサトミが外れると、次第に彼女の顔色が戻る。それに合わせて、彼女が覆いかぶさっていたドラゴンも体の自由を取り戻した。
「ぐわー! ぐわー!」
「大丈夫だよ。つよにくも私も、あなたの味方だから。だから怖がらないで」
首をもたげ『つよにく』に威嚇するドラゴン。その首に両手を回し、首の裏を撫でながら優しく諭すサトミ。相当『つよにく』が怖いのか震えていたドラゴンも、サトミの行動に安心したのか落ち着きを見せた。
それでも瞳は丸々太った怪物――『つよにく』を捉え続ける。自分よりずっと大きく、今までヒエラルキーの頂点にいた自分が全力で噛みついてもどうにもできなかった芋虫が、その怪物の手によって次々と爆散していく。その光景が再び恐怖を呼び起こそうとするのを、母のような慈愛の声が抑え込んでいく。
「サトミちゃん、悪いけどこいつらは諦めてくれ」
「分かったよ! 今はこの子の事が心配だから、やっちゃえ、つよにく!!」
その言葉に『つよにく』は心から安堵した。SAN値を削られる戦いで主人の理解が得られなければ、気持ちが折れるところだった。
だが子供ゆえの残酷さなのか、サトミは『つよにく』が目の前で虫を殺して回るのを忌避する素振りは全くない。普通なら「さっさと殺してくれ」と言うところだが、ポケクリマスターを気取り、ついさっき「かわいい」と評したのにだ。
ちゃんとサトミが物事を考えられることに安心した『つよにく』は、地面に落ちてきた芋虫たちを一掃すべく、近くの芋虫から順に駆け寄っていった。




