慈愛神のお節介
そもそも、恩寵なんていうスキルを授けられていること自体に違和感はあった。だが従魔使い《テイマー》という職業が従魔ありきなら、全員に与えられる可能性もある。とはいえ、そもそも職業が与えられるとは何なのか?
ろくに説明もされず魔方陣に放り込まれたせいで考える暇もなかった『つよにく』は、LF5と似たようなものだと考えていた。しかし職業とは戦闘に関するものばかりではない。むしろ関係しないものの方が多いだろう。それなのに従魔使いだけ特権のようなスキルが与えられるだろうか? 仮に真実だとしても、非戦闘職を選んだ者には何が与えられるのか? 慈愛神という名からして可能性はゼロではないが、別ルートの転生者と比べて差がありすぎる。
「いや、サトミちゃんに肩入れしたくなる気持ちは分かる。ものすごーく分かる。それでもだ。強制エンカウントにドラゴンを配置までするのはやりすぎだろ!」
すっかり主バカになっている頭を必死に働かせる。少し話しただけだが、サトミが慈愛神から「初めに会った相手に強制契約を使え」と指示されていたことは分かっている。つまり初めに会う魔物は、アニメポケクリの代名詞・水滴猫ポジのはずだった。
そこに気を利かせて、サトミが一番好きなドラゴンを配置した――つまりそういうことだ。本来魔物が入り込めない遺跡の中で出会う可能性があるのは人間か、必要かどうかは分からないが機械のメンテナンスに来る天使か神くらい。その相手には無効処理を付けていたのだから、何も考えていなかったわけではない。『つよにく』こそがイレギュラー中のイレギュラーなのだ。
尋常じゃない慈愛神の入れ込み具合に呆れと共感を覚えながら『つよにく』は頭を掻いた。
「しかし参った。要するにこれは勝ち確のイベントバトルだったもの。……恩寵さえ使っていなければ、の話だけどな」
もし想像が当たっているなら、ここは実力で乗り切るか逃げるかの2択。幸い相手はヘソ天+鼻提灯の爆睡モード。起こさないように脇をこっそり抜けるのが最善手だと『つよにく』は結論づけた。
まず優先すべきは、人の住む場所まで行き生活基盤を整えること。その後で『つよにく』のステータスの検証。それさえできれば、あとはサトミにくっついて魔物をテイムしていけばいい。
「ダメだ、サトミちゃん。あのドラゴンは危険すぎる。ここに生息してるってことだけ覚えておいて、後でまた来よう。ね?」
「えー!? やだやだやだやだ! だって翼生えてるんだよ? 次来たときはもういないかもしれないのにー!!」
「え……本当だ、背中が地面にくっついてるから見えてなかった。……くそ、さすがは我が主、よく見てるな」
全力で駄々をこねられると「任せて!」と言ってしまいそうになるのを必死にこらえる。ゲームなら「ガンガン行こうぜ」だが、現状選べるのは「命、大事に」しかない。
「ダメだよ。とにかくここから逃げるから!!」
「やだー!」
嫌われても仕方ない。血涙を流しながらサトミを抱きしめ、『つよにく』は静かに、それでいて素早くドラゴンの脇を抜けようと足に力を込めた――。
「う――――――おげぇええッ!!」
「きゃあッ!!」
刹那、カタパルトで射出されたかのように『つよにく』の体がドラゴンの後ろの大木に肩から叩きつけられた。
ずり落ちた『つよにく』の横で、ジャイアント・セコイアのような大木の皮が剝がれ、グラグラ揺れている。
「! サトミちゃん、大丈夫かい!?」
「あー、びっくりしたー……。もー、なにがあったんだよー!」
「無事か……良かった……痛ッ!!」
これが速度999900の速さと、その反動ダメージかと『つよにく』は学んだ。少なくとも速さのステータスは嘘ではないらしい。
しかし体重180kgの高速タックルだ。普通なら木をなぎ倒すはずなのに止められたことに不思議に思い、木にも宇宙眼を使う。
「はいはい面白い面白い」
生命力200万、物理防御110万。インフレした数値に笑うしかない。
悔やむべきは、圧倒的強者として設定したため回復スキルを保有していないこと。そんなもの必要ないと思ったからだ。全身に走る痛みに耐えながら、カンストの100倍設定がなければスタート地点にすら立てなかったと背筋が冷えた。
(何にせよ、少なくとも速度の値が正常なら……他も正常と考えてドラゴンと契約するムーブかましても大丈夫……か?)
少し前までは嫌われる覚悟があったが、嫌われたくない気持ちも強かった。むしろ大木の数値を見て「ドラゴン大したことなくね?」という気持ちが強くなってきたところに、サトミが声をかけた。
「ねえねえ、つよにくー、何か上から音が聞こえない?」
「上?」
泣き出すかと思いきや「びっくりした」で済ませるサトミの剛胆さに驚きつつ、言われた『つよにく』は上を見る。巨大な木々の葉に日光が遮られる深い森。その上から黒い影が大きくなっていくのが見えた。
数は3つ。地面にぶつかると大きな音とともに地面が揺れ、土煙が周囲を閉ざす。その衝撃は『つよにく』の体が一瞬浮くほどだった。




