古代火焔竜
(おいおいおい、いくら最も過酷な場所にあるっていってもさすがに飛ばし過ぎだろ。最初のエンカウントがドラゴンとか、どうなってんだよ)
警戒心が振り切れた『つよにく』とは裏腹に、握る手の力を少しでも緩めれば今にも走り出しそうなサトミ。そんな主の行動を少しでも抑えようと慌てて声をかける。
「ちょっと待て。とにかくアレがどれほどのものか調べるから。宇宙眼!!」
なんとか宥めつつスキルを使うと、目の前に現れた数値に『つよにく』は喉を鳴らした。
===================================
名 前:メギドフレイム
種 族:古代火焔竜
生命力:277874 攻撃力:109591 防御力:104864 速 度:20404
魔力量:106413 魔攻力:101282 魔防力:126766 技 巧:27606
所有Aスキル:火焔球、煉獄劫火、竜吼砲
所有Pスキル:属性耐性・強(火)
===================================
「馬ッッッッッッッッッ鹿じゃねえの!? 完ストの値は9999じゃねえのかよ!? いや、もしかして人間の限界が9999ってことか!?」
万どころか十万単位の数値に、誰へともなく抗議の声を上げる『つよにく』。
一方サトミはそんなことお構いなしにドラゴンを指さし、『つよにく』を引っ張った。
「凄い凄い! もしかして、あれドラゴン!? ドラゴンのポケクリだよね!? これは絶対ゲットしないと! 可愛いのもいいけど、やっぱり1番はドラゴンだよね!!」
「サトミちゃん!?」
気持ちは痛いほど分かる。だが今回ばかりは女の子らしく可愛いのを望んでくれと心から願う。しかし興奮具合を見て、喜ばせたい気持ちが勝った『つよにく』は、仕方ないと言わんばかりにため息をついて一歩前へ出た。
「分かったよサトミちゃん。オレが弱らせてみるから、それまでは絶対ここから出ないでね」
遺跡内部が絶対安全とは限らないが、自分が入り口に立てば安全は確保できる。予想外の数値に動揺したが、自分の10分の1に過ぎないとドラゴンへ近づいたところで、本能が足を止めた。
(いやいや、ちょっと待て!? どうかしてるぞオレ!?)
その本能とともに浮かんだのは先ほどの天使の顔。絶対信じちゃいけないタイプの笑顔。膨れ上がった警戒心が主を喜ばせたい気持ちをわずかに上回り、冷静さを呼び戻した。
「……このステータス、本当に信用していいのか?」
子供の悪ふざけでつけたステータスに疑問を持つ。宇宙眼で確認はしたが、宇宙眼はあくまで戦闘中のスキル。『数値の偽装を看破する』効果は付けてないはずだ。
目の前のドラゴンは現地の生物だから偽装はないだろう。しかし自分の能力は? 表示されているのは天使から「好きに考えていい」と言われた数値。浮かれて強敵に挑んで死に戻り、「チートで無双だとかその気になってたお前の姿はお笑いだったぜ」と煽られる姿が目に浮かぶ。
そもそも日本の一流企業でさえ粉飾決算やデータ改ざんはお手の物。あんな天使の言葉を信じられるわけがない。
「くそ……! ステータスが本当だっていう検証さえ出来てれば……!」
幸い……と言っていいのか、目の前のドラゴンは『古代火焔竜』という大層な名前の割に尻尾含めてせいぜい3m――コモドドラゴン程度だ。
ファンタジーのイメージからすれば大分小さいのが救いだけど……それでも人間が素手で挑んでいい相手ではない。
「もー、つよにくってば、めちゃくちゃ強いのに、何でそんなに怖がってるんだよー! 全部のステータスが9999なんだから怖がる必要ないじゃんか! もういいよ、ボクが話しかけてみるから!」
「ちょーっと待った」
再び首根っこを掴んで持ち上げると、気持ちを前に出しているサトミは両手足をばたつかせる。
なんでこんなにも死にたがるんだこの娘は、と『つよにく』は心の中で髪を掻きむしった。
「今の若者は……なんて老害みたいなこと言いたいわけじゃないが、学童ボランティアやってた時はこんな……こんな……」
大学時代の記憶が流れ込む。全力で漕ぐブランコから急に手を放す児童、罰ゲームでもないのに床を舐め始める児童。そんな児童たちに振り回され、仲間と酒を飲みながら苦労を分かち合ったものだ。
いや、それ以前に自分自身も星好きな家庭で育ったためか、高いところが好きだった。ジャングルジムの一番上から飛び降りたり、雲梯の上を全力で走ったり、思い返せば背筋が寒くなるようなことをしたものだ。ちなみにどちらも救急車の世話になった。
「あ~……人間、都合が悪いことって忘れるよね」
痛い目を見ることで成長する、それが人間だ。ならばサトミの大人から見れば自殺行為とも言える行動も、子供の特権なのだ。
大きな動物を見て「怖い」「危険」と判断するのは、襲われた経験や事件の情報を知っているから。経験の少ない子供が理解できないのは仕方ない。
(……くそ、よりにもよって、なんで初めのエンカウントが、1番好きとまで言わせるドラゴンなんだよ。そうじゃなきゃ、こんなにも無茶な行動を取らないで逃げる選択肢もあったのに。運がいいのか悪いのか、分かりゃしない……)
左手でサトミを抑えながら、右の親指を噛み締めると、ふと疑問が浮かんだ。
「……待て。サトミちゃん、もしかして転生させてくれたっていう女神様に、ポケクリの中でドラゴンが1番好きって話をしたかい?」
「うん、したよ! すごいよね、いきなり会えるなんて本当に運がいい!」
「やりやがったな、慈愛神!!」
突然叫んだ『つよにく』に、サトミはパチクリと目を丸くした。




