超新星爆発
「ええと? さっきから呼吸が荒いようですけど……大丈夫ですか?」
トラウマを刺激され呼吸が荒くなる高山超新星に、天使は心配した声をかけた。しかし彼は天使の顔を見ようとしない。彼からすれば天使の笑顔は作り物で、どんなに綺麗な姿や優しい声で耳障りの良い言葉を紡ごうとも、その奥に潜む裏の顔が見えていたのだろう。
じっと床を見ながら呼吸を整えようとする姿に、天使は呆れたようにため息を吐いた。
「ふぅ……まったく、死人が体調不良とかお笑いにしかなりませんよ」
「!? ……死人?」
この世界をリアルな夢だと思っていた高山超新星。無視できない言葉が耳に飛び込み、思わず顔を上げた。そこで見た天使の顔は、やはりあの笑顔を張りつかせている。
「はい。実はあなたが寝ているときにですね、あなたの家に居眠り運転のタンクローリーが突っ込みました。それが爆発炎上! 憐れあなたは名前のごとく夜空の星に! ちなみに日本人の場合49日の法要が終わってからここに来るので、1ヶ月以上前の話です。……ついでに事故当時の様子はこんな感じですよ」
天使がパンと手を叩くと、何もなかった空間に見慣れた国道沿いの家が映し出される。深夜の国道、タンクローリーが突っ込み、数分で爆発炎上する映像。キャスターが運転手の逃走と住人の死亡を読み上げる。もちろん死亡者の名前も。
胸が締め付けられる痛みに高山超新星が胸を押さえると、天使の口から「ぷふッ」と笑い声が漏れた。
「ちなみに……えふッ……失礼。この事故が報じられると、『【悲報】超新星くん誕生わずか48年で爆発するwww【画像あり】』などとネットは軽いお祭りになりまして。それはもう、まとめサイトを作られたり、とても注目度の高い――――」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
心を抉るような事実を説明する天使に向かって絶叫する高山超新星。天使はさらにまとめサイトのコメント欄を突きつけた。
『すーwぱーwのwばw』
『日本で超新星爆発が観測されるとはたまげたなぁ・・・』
『ベテルギウスを越えた男』
およそ人が死んでいる大事故の記事についたとは思えない、人の心を感じない言葉の数々。強く噛み締めた唇から流れた鮮血が、白い大理石の床に赤い斑点をつける。
「なんなんだよ……! 生きてる時も散々嫌な目に遭って来たってのによ!! なんで死んでもこんなこと言われなきゃならないんだよ!? オレが何をした!? そりゃオレはニートだ。社会からしたら鼻つまみ者だろうよ!! でも、それを望んだのは日本の企業、社会そのものだろうが! ニートになってからも、別に誰かを叩いたりしないで、やってたことと言えば、せいぜいFPSで他のヤツを殺してるくらい!! 社会に関わらずおとなしく部屋に引きこもってただけなのに何だこの仕打ちは! どいつもこいつも人の名前をからかいやがって! オレの名前いじった奴ら全員死ねッッッッ!!!!」
ずっと内に溜めていたものを吐き出すように叫ぶ。社会に出ることを許されず、ただ歳を重ね、精神年齢が大学時代から変わらない中年男の言葉など誰もまともに取り合わないだろう。それでも彼は叫ばずにはいられなかった。
その魂の叫びが響いたのか、天使は泣きじゃくる彼の背中を優しくさする。
「ぷふ……こほん、さぞ辛い人生をお過ごしになられたことでしょうね。溜まってることも多いでしょう。なので本当はこのまま審判の場に案内するのですが、私の権限であなたを異世界に転生させてあげたいと思います。もちろん、転生特典として『あなたが考えた最強のジョブ』に『そのジョブに必要なステータスの最低値』を持った状態で。どうぞ思いっきり無双して来てもらって、全てを吐き出してスッキリした状態で審判へ望めるようにして来て下さい」
笑いを堪えきれず震える天使だが、背中から伝わる優しい温もりと提案は、高山超新星の心を揺さぶった。確かにこの天使は信用できない。しかし、日本の人間たちに比べればはるかにましだと彼は思った。
異世界転生――そういうジャンルの小説や漫画にも触れてきた。転生先で無双できれば確かにスッキリするかもしれない。しかし、だからこそ素直に受け取れない。
「て、天使様――お、オレ、オレは……無双できるなら日本で、日本で暴れたい! どうか、い、異世界ではなく日本にチート能力を持った状態で転生させてください!!」
彼にとって見返したい相手は日本にいる。異世界の何も知らない相手に無双しても気持ちよくなれるとは思えなかった。だから対人恐怖症でありながらも、たどたどしい口調で必死に訴えた。しかし天使の返答は彼を失望させる。
「残念ながら私の権限でそれは出来ません。ですが、あなたが思い描くジョブ次第では、世界の壁を越えて日本に移動する事もできるかもしれませんよ? では、飛ばします。頭の中にあなたが付きたいジョブを思い浮かべるのです」
「待って――――――」
突然足元から床の感覚がなくなり、高山超新星の体は下へ下へと落下していく。物理的な落下に合わせて、彼の意識もまた深い深い闇の中へ沈んでいった。




