そして日常の日々 2
魔王は私をチラリと見て苦く笑った。
「そもそも天上の神族ではヒューマン族からの転生があった時にも大騒ぎになったそうだ」
ん? 考えればそうね。私もそう言う意味では魔族を混乱させたと思うけれど。
「お父さまは私の素性は直ぐに分かったと思うんですけど……魔界は騒ぎにはならなかったのですか?」
「魔族は基本個人主義だ。生まれ落ちたものの前が何だろうとその実はそれほど問題にしない。ただ、確かに驚きはしたがな。神族の場合は神族の誇りとやらがあるらしいからな。それに今回はその神族力の源泉であり誇りでもある翼の受け渡しがあったからきっと今頃もっと大騒ぎになっているだろう」
私は羽を広げた。
「私がエリスからもらった羽ですね。返した方がいいかしら」
魔王は笑った。
「受け取らんだろう。羽を渡すということはそれを必要しないと心に決めたことだ。お前にその羽を渡したモノはきっと羽を失っても神族の中で強く生きていく決意が出来ているに違いない。どんな言葉を浴びせられてもきっとその翼の代わりの強さで乗り越える。だからこそお前にその羽を託したんだろう。願いと希望と祈りを込めてな」
私は目を見開き微笑んだ。
「そうね、そうであってほしいわ」
魔王は私の頭を撫でた。
「ただ一つ気にかかることがあるとすれば……本来魔族は魔族に転生。神族は神族に転生。ヒューマン族はヒューマン族だ。だがお前と神族のそのものは違う種族に生まれ変わった。本来ならあり得ないことだ。神族も驚いて当たり前と言えば当たり前だった」
私は父である魔王を見た。
魔王は少し考えるように息を吐き出した。
「俺はお前と言う娘を得て図らずも良いモノだと思ったが、その裏には何か得体のしれない力が働いているのではないかと危惧はしている」
「得体のしれない力」
「神王もそれは考えているだろう。その上でお前は神族の羽も受け入れることが出来てしまった。こういえばわかるかもしれんが、俺は神族の羽を渡すと言われても羽を受け入れることはできん」
「それは羽が既にあるからではないんですか?」
「いや、俺の身体か羽かに拒絶反応が出て羽が消えてしまうだろう」
「!! も、もしかして私の羽も」
「いや、もうお前の一部とかしているのが分かる。つまりお前は神族の力の源泉も手にできてしまったということだ」
「本来なら魔族はこれを受け取れなかったってことなのだとすれば私は」
「そうだ。そこだ。お前の中にはヒューマン族と魔族と神族の力があるということだ」
私は魔王を見つめた。
魔王は笑むと腕を組んだ。
「まあ、そこは俺と神王が考えることだ。お前はとにかく回復魔法と防御魔法を学べ。その神族に生まれ変わったヒューマン族についても今回は神王が保護するだろう。羽がないということは神族と言えど大きなデメリットを受けるということだからな。神族である以上神王は見捨てたりはしない」
「良かった」
「お前はこれからに備えておけ」
「はい」
私はそう頷くと王の間を後にした。
廊下を渡り自室へと向かった。
これまで色々バタバタしていたし、今日はゆっくり休んで明日から頑張らないとね!
ん? あれ?? どうして私の部屋の前にカイルがいるの??
何か準備とか用事とかがあるって言っていたような気がするんだけど??
私は部屋の前に来て腕を組んで立っているカイルを見た。
どうやら私を待っていたみたいだけど、どうして?
「カイル、どうしたの?」
カイルは笑みを浮かべた。
「もちろん、回復魔法と防御魔法の勉強です」
嘘!! と言うか、目がらんらんとこれまでになく輝いているけど準備ってそういうことだったの?
私は顔を顰めて一歩二歩と後退りかけた。
カイルは綺麗な微笑を讃えて一歩二歩と近付いてきた。
なんか、怖いわ。
「そ、そうね。明日から頑張るわ」
「ダメです! やろうと思っている時がやる時です!」
……。
……。
「カイル、凄くやる気ね」
「やる気満々ですよ」
「ほら、地上で色々バタバタしていたし……疲れていないの?」
「リリア様が回復魔法と防御魔法を覚えようと思われていると分かった瞬間から全く疲れていません! さあ参りましょう!!」
「いやーん」
カイルは私の手を掴んで城の中庭へと向かった。
いつになる強い力で手を引かれて私は大きくため息を零した。
カイルは中庭に着くと綺麗に微笑んだ。
中庭には怯えながら従者が数名立っていた。
なるほど、準備って私の魔法練習に立ち会ってくれる従者たちね。
「ごめんなさい、私頑張るわ」
小さく頷く従者たち私はぺこぺこと頭を下げた。
反対にカイルは酷くご機嫌に見える。
「さあ、しごきますよ~、リリア様」
っていうか、カイル。お目付けからスパルタ教師に変わってるわ! そんなに私に回復魔法と防御魔法を覚えさせたかったの??
「……わかりました、よろしくお願いします」
私は頭を下げた。
そして、ふと見上げた頭上には地表が今日も穏やかに砂の雨を降らせていた。




