そして日常の日々 1
頭上には地上の表地。
土色の空。
そこにマグマの輝きが地下の世界に明かりを与える。
私は黒流湖を前にカイルを見た。
「ありがとう、カイル。私……本当にエリスのように復讐の鬼になり切らなくて良かったと思ってる」
カイルは私を見て微笑んだ。
「そうですねぇ、けれど溜め続けるのは良くないと魔王様は思っておられました。ただ魔王様はリリア様を信じておられたと思いますよ。まあ……運もありますけどね」
でも、あの時にマラン王たちを助けたので俺は確信できましたけど、とカイルは笑った。
ん? ってことは私はそれまでカイルに本当に地上征服すると思われていたのかしら?
チラリと見た私にカイルは軽く肩を竦めた。
「まあ、いいわ。行きましょ、カイル。魔王が待っているわ」
「はい、リリア様」
黒流湖から魔王城へと戻ると今の父である魔王が待っていた。
カイルは魔王の部屋の前に来ると笑みを浮かべて頭を下げた。
「では、リリア様。俺はここで」
「挨拶をしないの?」
「まあ魔王様はリリア様の今のお顔を見ればわかると思います。それに俺は準備がありますから」
「準備?」
首をかしげる私にカイルは笑みを浮かべて立ち去った。
まあいいわ。ここのところ私に付きっ切りだったんですもの。
きっと何か仕事があるんだわ。
私はフゥと息を吐きだして帰還の報告をするために魔王の部屋の扉をゆっくりと開けて中へと入った。
父である魔王はゆったりと椅子に座り笑みを見せてくれた。
「ただいま帰りました、お父様」
「終わったようだな、リリア」
「はい」
魔王は何時も言葉が多いわけではない。どちらかと言うと寡黙なほうだ。けれど、何故か私にはちゃんと魔王が私を思っていることが分かる。
それは私の遠い記憶の両親や兄にも言えたことだけれど、一人でも誰かが私を思ってくれているという安心感と幸福感。エリスはその空間すら失っていたのだと分かる。
私は地上に戻った時にエスターがあって良かったと思っている。もしエスターが無かったら、その恨みはやはり大きかっただろうと思う。
カイルはそれでも私ならきっとギリギリで踏み止まっただろうと言ってくれたけれど……憎しみや恨みは今の数千倍だったに違いない。
私は魔王に笑みを見せた。
「明日からカイルに回復魔法と防御魔法を学ぼうと思ってます。地上で動き回っている間に成長したみたいで魔法を覚える空間が空いたので」
「そうか、お前は生まれてから破壊魔法一辺倒だったからな。それは良いことだ。地上も暫くは落ち着いているだろうと思う。だが、天上の親族はな」
魔王は少し小さく息を吐き出した。
確かにそうね。
エリスのことは心配だわ。




