エスター王国へ 2
「きっと私のせいね」
小さく呟いた私にカイルは静かな声で告げた。
「ですがリリア様が悪いというわけではありません」
カイルは私の前世の事を魔王から聞いている。その上でのお目付け役なのだ。
私はカイルの言葉に小さく笑みを浮かべた。
王同士が話をする特別な応接室へと案内された。
王城の中は昔と変わらない雰囲気で長い廊下にローマアーナほどではないが所々に落ち着いた調度品が置かれている。そして壁には緑の自然を描いた絵画が飾られていた。
ただエスター王国は小国なのでローマアーナやエルドスやマランのような豪華で華美でもないがその分だけ落ち着いた雰囲気はあった。
私は懐かしい前世の父を前に書状を出した。
マラン王から託された『エルドスと対峙するための助力』の願いである。
「お願いいたします」
エスター王はそれを読み唇を開いた。
「わしは過ちを犯した」
ローマアーナ王はエスター王を見つめていた。
「それはどういう?」
「リリアを……エルドスのアレックスになど嫁にやるのではなかった。リリアはあの男に嵌められて殺されたに違いない」
そうよ、そうなの。
私は潤みそうになる視界を堪えた。家族だけでも信じてくれていたことが嬉しい。
泣きそうになる私の隣で静かにカイルが微笑んでいるのに私は少しだけ小さく微笑み返した。魔族って地上を支配するために生まれた悪の権化って思っていたけど、本当は違っていた。
まあ、私は悪の権化になろうと思って地上に来たんだけど……でも今は。
ローマアーナ王も今は理解してくれている。
「私も同じ過ちを犯すところだった。エルドスは友好を結ぼうと手を出しながら我が娘、いや、我が王族に呪を掛けようとしてた。この旅の者たちに救われたのだ。この者たちがいなければ娘は生きてはいなかっただろう。そして、我が王族もきっと窮地に陥っていたに違いない」
エスター王は頷いて私を見た。
「マラン王からの書状も同じようなことが書かれている。この黒き聖女に救われたと……この聖女もエルドスの悪心を察知して崩壊の為に動いていたというはなしだ」
……エスターも立ち上がろう……
「娘の無念を晴らさねば」
ありがとう、お父様。でも、でも、無念は自分で晴らすわ。
その為に地上へ私は来たんだから。
お父さまのそのお気持ちだけで私は少し救われた気がするわ。
「エスター王にローマアーナ王。それよりもエルドスが今後他国を陥れて支配しないようにすることこそ本来の目的にした方が良いと思います。そもそも、その……リリア姫にしてもマリナ姫にしても国同士の愛のない結婚が問題だったのではないでしょうか?」
そう、国同士の駆け引きの婚姻をエルドスは利用したのよ。
そして私はその犠牲になった。
マリナ姫も、恐らく、マラン国の姫も……安否は分からないけれど幸せではないかも知れない。
「これを機会に和平条約の在り方を考えた方が良いかと思います」
カイルが小さく肩を竦めた。
そうよねー、本来の目的はマラン、ローマアーナ、エルドスを滅ぼしてあの二人をぎったんぎったんにして地上征服だったんですものね。
でも今はこれでいい気がする。
かつてのお父さま、わかって。
あの結婚は最初から幸せじゃなかったわ。
エスター王が静かに笑んだ。
「確かに。今回、ローマアーナ、マラン、そして、我が国と力を合わせるのだ。セダや他の国にも呼び掛けて新しい和平条約を結ぶというのは良いかもしれない」
「確かにどの国にも他国を乗っ取らない。そうしようとした時には和平条約に調印した国は連合して乗っ取ろうとした国に攻め入るという形で互いに牽制出来る形が良いかもしれないな」
私は二人の話に大きく頷いた。
エスター王は返信の書状を私に差し出してくれた。
「ここに私の返事を書いて置いた。ぜひ、マラン王へ渡していただきたい。エルドスのアレックス王を討つためにエスターも立ち上がると書いている」
私は受け取り頷いた。
「はい、必ず」
ローマアーナ王も同じように書状を託してくれた。
「こちらは私の書状だ。マランとエスターと共にエルドスに攻め込むことにしたと。娘への仕打ち。また、ローマアーナ王族を陥れようとした策略を許すわけにはいかないと書いている」
「必ずマラン王にお渡しします」
私はその二つの書状をを持って、エスターの王城の上からカイルと共に羽を広げて飛び立った。
青い空にふわりと舞い上がり眼下を見つめた。
カイルは少し止まって私を見た。
「恐らく、見納めになると思いますよ、リリアさま」
かつての私の故郷。
そうね、きっと見納めになるわね。
私はカイルと同じ様に上空で止まってエスターの王城を見つめた。懐かしい、でも少し悲しい気持ちが胸を過っていく。
緑深い美しい王城都市。
「……行きましょう」
私はカイルに呼びかけて西の王国マランへと向かった。
決戦の時は迫っていたのだ。




