「鏡」「境界線」「眠り」
BLです。
きっとひとつになりたかった。
春休みの午後。外はすっかり穏やかで、桜も咲いている。高校へ入ってもうすぐ1年が経つというのに、俺は未だに弟が居ないことに慣れないでいた。
あれは中学3年の秋ごろだったか。シンメトリーなこの部屋で、俺は背後に座る弟へ声を掛けた。高校へ行ったら何部に入るかとか、他愛もないことだ。
「兄さんは○○高でしょ。僕は××高へ行くから同じ部活には入らないよ」
同じ顔をした片割れは、笑ってそう答えた。双子だからって同じところ行く必要もないでしょ。そう続けられて愕然とする。弟がそんなふうに考えていたのも、俺に何も話さず進路を決めていたのも信じられなかった。俺は○○高が良いと思うって話していたのに。
ただ、そんな動揺を表に出すのはなんだか気が引けた。そうだな、とだけ返す。お互い背を向けていて顔が見えなくてよかった。そうして俺たちは別の高校へ進学し、あっという間に1年が過ぎてしまった。弟は夏休みも冬休みも帰ってこなかったから、産まれて初めて1年近くも会っていない。別にあいつは俺に会わなくても平気なんだなと思うと、なんだか無性に腹が立った。苛立ちながら、ベッドに寝転がっていた俺は机へ手を伸ばした。
あいつに会わなくなってこの1年、すっかり鏡を見るのが習慣になってしまった。前髪を弄って記憶の中の姿に寄せれば、そこには弟がいた。口角を上げれば俺に笑いかける姿が映った。俺を置いて行った姿を今日もまた眺める。あの日、一緒の高校へ行こうと言っていたら、俺たちは今も同じで居られたのだろうか。
今日は小さな鏡を見ても気分は晴れなかった。体を起こしてベッドを降り、姿見に掛かる布を除ける。小さな窓ではなく、全身の弟がいた。床に腰を下ろして寄り掛かれば、背中合わせに寄り掛かるようで少しだけ安心する。体温は感じずとも、そこにいるのは自分ではない気がした。
俺は目を閉じる。このまま眠ってしまえば、鏡越しに向こうと溶け合えないだろうか。そうしたらひとつになれるのに。
別人だなんて境界線など無ければよかった。離れてしまうくらいなら、ふたりになんてなりたくなかった。
「……なにしてんの、そんな床座り込んで」
部屋のドアがノックもなしに開いた。弟がいた。鏡に映るのは、当然俺だった。
「なんでいるんだ」
「春休みだからだよ。夏も冬も帰らなかったら、今度は帰ってきなさいって母さんがうるさかったし」
「……そうか」
1年ぶりの姿を見て、思わず笑ってしまった。弟の顔は弟の顔で、そっくりではあるけど俺の顔では無かった。当然だ。弟は弟なのだから。
急に笑った俺を、弟は訝しげに眺めていた。その表情さえもなんだか面白かった。なんでもないと言いながら、今晩にでも全部白状してしまおうと俺は決めた。きっと、今なら俺と違う答えを出す弟を、受け入れられる。そんな気がした。




