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覚醒のオーバーロード  作者: Haru
第二章 時の支配者(クロック・ルーラー)編
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25/29

CHAPTERⅡ.見えざる悪意-6

おひさしぶりの更新です。年明け一回目は白彌視点で始まります。

更新頻度は遅めですが、覚醒のオーバーロードは第二章の中編に入りこれから盛り上がる予定ですので、これからもよろしくお願いいたします!

6.


古畑矢翔────・・・・・・水泳部所属の二年。

今回の事件の被害者の一人だ。

「あっ、あの、わっわたし、み、みみ見たんです・・・・・・っ!」

俺の眉間に思わず力が入る。

「わたし、更衣室で・・・・・・・・・・・・」

そこまで言って古畑矢翔は両腕を抱き震えながら言葉を詰まらせた。

「何を、見たんですか?落ち着いてください」

大地が気遣いつつも話を聞き出そうとする。

見た、と言ったなこの女・・・・・・。ただの怪現象か、それとも・・・・・・。

「顔が・・・・・・見えたんです。怪物の大きな顔が」

「!!」

やはり、オーバーロードか。

オーバーロードとの過剰な接触はその存在の認識に繋がることがある。それは宿主である者にしても同じだ。だからこそ、相川昊もモノケロースの存在を認知し、その力を収めることに成功した。

それは逆に言えば、宿主であればオーバーロードを認知出来る、ということでもあった。

「お願いです、助けてください!」

古畑矢翔が大地に縋り付く。後輩であるはずの大地にこうもへりくだるのは彼女の性格なのだろう。

第三理科室での面談の時もそうだった。決して自分からは何もせずただ事態を傍観するだけ。そしていざ自分にその火の粉が振りかかれば誰かに助力を請う。

古畑矢翔の本質はまさに他力本願なのだろう。

だがそれでも大地は・・・・・・。

「分かりました。絶対に古畑先輩を助けます」

そう言ってのけるんだ、お前は。

「い、いえ、違うんです・・・・・・」

俺と大地は互いに顔を見合せた。

「助けて欲しいのは・・・・・・その、私じゃなくて・・・・・・ち、知都里ちゃんを!・・・・・・助けて・・・・・・欲しいん、です」

「え?」大地が困惑した声を出す。

どうやら俺も彼女の評価を少し改めなくてはならないらしい。

「知都里ちゃん、更衣室で私を咄嗟にかばってくれて・・・・・・それであんな大怪我を・・・・・・私。どうしたらいいのか・・・・・・っ」古畑矢翔はついに泣き崩れた。

「白彌くん・・・・・・」大地が目配せをしてくる。どうしていいのか、大地も分からないのだろう。

何せ、相手は見えない怪物だ。その目的もまだわかっていない。

「・・・・・・あんたから見て、最近怪しい動きをしてる奴は知らないのか」

「怪しい動き・・・・・・?えっと、た、例えば・・・・・・こう、うね〜〜って変な踊りを踊ってる人を商店街で見かけた、とか?」

恥ずかしがりながらも何とか再現しようと古畑矢翔がそのうね〜〜っとした動きをして見せた。

「いやそういうのじゃない。確かにそれもよく分からなくて怪しいが、この学校で、だ!」

つい口調が荒っぽくなる。古畑矢翔が涙目ながらに短く悲鳴をあげ後退る。その表情にはやらなくてもいいことやっちゃった、恥ずかしいよぅとでもかいてるように真っ赤に染っていた。

「あんたの知り合いでもいい。なにか変わったことは無いのか」

軽く苛立ちを覚えつつも、大地のまあまあ、という声で何とか冷静さを保つ。

「え、えぇっと・・・・・・その、気の所為、かもだけど、ね?その・・・・・・最近、水三沢くんがよくこっちを見てる気がしたの・・・・・・」

「水三沢が?」

「白彌くん、一応先輩だよ」

「・・・・・・今更だろ」

大地は以外とどうでもいいことにこだわる。この会話中俺が先輩と敬称をつけて呼んだことは無い。もしかしてずっと突っ込むタイミングを伺っていたのか。一応、とつけてるあたり大地も大概失礼ではないかと思ったが、思うだけにした。

しかし、ここに来てようやくと言うべきか。ここまで関連のなかった水三沢の名前がついにあがった。

初めてその姿を見た時から何か自分に近しいものを感じていた。だがその考えはすぐに打消した。そんなはずは無いのだから。もし水三沢があいつだとすれば・・・・・・そう考えてやめた。自分の都合のいい期待に、俺はどれだけ裏切られてきたか忘れたのか?と、自嘲した。

「で、その水三沢があんたを見てたってのはどういうことなんだ?」

古畑矢翔は少し考える素振りを見せながら少しづつ言葉を発していった。

「えっ・・・・・・と、本当に最近のことなんだけど、ね?知都里ちゃんたちと一緒に話をしてる時とか、何となく振り向くと、水三沢くんがこっちを見てたり、遠くにいてもなんだかずっと視線を感じて・・・・・・」

「それは・・・・・・あんたに気があるんじゃないのか?」

「ちょ、ちょっと白彌くん!?あまりにも直球すぎるよ!」

大地が慌てて制止してくる。

しかしどう考えてもそれは思春期男子の特徴的なあれじゃないのか。自分は感じたことは無いが、大抵の高校生であれば気になる女子くらいいるだろう。つい目線で追ってしまうのも無理は無いことだと思うが。

「え、ええ、えええ!?そ、そんなわけないよ!私なんかが、水三沢くんなんて・・・・・・お、恐れ多いよ!」

古畑矢翔も慌てふためいている。

ならばやはり違うのか。

「・・・・・・それに、私はいつも誰かに守られてばかりだから・・・・・・」

「ちょっと、まだいたの。この変態」

いつの間にかプールの更衣室から出てきたのか部長の女が数人の部員を引連れて仁王立ちしていた。

「ぶ、部長・・・・・・」

余計に縮こまる古畑矢翔を尻目に、部長がフンと鼻を鳴らす。

「変態のあなたたちも大変ね。こんな臆病で卑怯者に付きまとわれて。さっきのもどうやったかは知らないけど、どうせあなたがやったんでしょ?古畑さん」

古畑矢翔の身体がビクッと震えた。ち、ちが・・・・・・と声にならない声を出して否定しようにも凍りついたように体を震わせるばかりだった。

「あんた、部長さんだっけ。それに関しては俺たちで調べるんで、あんまりこの人怖がらせないで貰えますか」

俺の態度に苛立ちを覚えたのか目元を釣りあげて鋭い眼差しを向ける。

「・・・・・・そう、今度はあなたがこの子を守るのね。どうなっても知らないけど、せいぜい気をつけることね」

「・・・・・・どういう意味だ?」

「古畑さんはね、寄生虫なの。依存先を次々替えて他人に縋るだけの寄生虫」

そう語る部長の視線は冷たく突き刺すように古畑矢翔を捉えていた。ただの威嚇では無いことは確かだった。

「・・・・・・ごめん、なさい・・・・・・っ」

古畑矢翔が身を屈めて走り去る。その小さな体が切った風に乗って涙が見えた。

憂さを晴らせて満足したのか部長もさっさとこの場を立ち去ってしまった。

「白彌くん・・・・・・どうしよう・・・・・・」

大地が目に見えてうろたえている。

考えることは多い。だが、漠然とこの件に関わる人の関係性が見えてきた気がした。

「・・・・・・一旦戻ろう。話はそれからだ」

「・・・・・・うん・・・・・・そうだね」



古畑矢翔、木守嵐、上郷知都里は友人関係にあると見ていいだろう。古畑矢翔の性格上、あまり親密な関わりがあるとは思えないが、いつも共に行動をとるあたりそれなりに付き合いがあるはずだ。

そして、その彼女に対し明確な敵意を持つ水泳部部長とそのシンパ。さらに、好意をチラつかせ不穏な動きを見せる水三沢・・・・・・。

「おおよそ古畑矢翔を中心とした関係図が組み上がるな・・・・・・」

部室である第三理科室へと戻った俺と大地は、再び立木律を加えた三人で現在の状況の整理を行っていた。

その上で見えてきたのは古畑矢翔という今回の被害者である彼女が全ての鍵を握る重要人物だという事実だった。

「今回の事件を解決するには古畑矢翔を多角的に捉える必要があるな。例えばほかの友人関係、評判、クラスでの立ち位置・・・・・・ま、たぶん典型的ないじめられっ子と言った雰囲気だが、憶測だしな。部活が絡む以上これまでの成績も気になる。そこでまずは・・・・・・」部室のドアが開く音がした。どうやら来てくれたようだ。

「あんなことの後で悪いな、木守嵐・・・・・・先輩」

「とって付けたような先輩呼びいらんし・・・・・・・・・。で?何聞きたいわけ?・・・・・・どうせ矢翔のことだろうけどさ」

木守嵐。あの三人の中では比較的良識的な方だろう。髪を遊ばせていはいるが制服はきちんと着こなすあたり真面目さが垣間見える。

部活と普段の友人関係の両方を知る彼女から古畑矢翔の印象を探ろうと騒動の後呼び出しておいたのだった。

「はたから見たらどーか知んねーけどさ、うちらこれでも友達なんだよ。友達売る気なんてねーから」

「違うさ、ただ古畑矢翔の普段の様子が知りたいだけだ。なぜ部のほとんどの面子に嫌われているんだ?」

木守嵐は苦虫を潰したような顔を浮かべると顔を背けながらボソボソと語り出した。

「・・・・・・矢翔は一年の時からレギュラーをとれるようなすごい子だったんだよ。でもあの子あんな性格でしょ?すっごい反感買われて・・・・・・なにか弁明しようにもいちいち誤解を与えちゃって・・・・・・・・・・・・とうとう部活に顔出さなくなった時があった」

「・・・・・・あんたも同じ時期に部にいたのか?」

「まあね、こう見えても水泳歴長いんだよあたし。あの時はまだ部長ちゃん・・・・・・白鷺先輩も矢翔を庇ってくれてた。・・・・・・けど、矢翔を取り巻く環境はどんどん酷くなってった。たぶん、白鷺先輩が庇っちゃったのがエスカレートの原因なのかも」

白鷺・・・・・・。あの態度を見るに古畑矢翔を庇うような人物には見えないが、取り巻きが多いところを考えると確かに皆に好かれる人物なのだろう。

「それで・・・・・・何があったんだ、その時に」


『・・・・・・ねぇ矢翔ちゃん?部活来ない?・・・・・・あなたの才能はとても素晴らしいわ。みんな僻んでいるだけよ。大丈夫、絶対私があなたを守るから』

白鷺まことは優しく声をかける。古畑矢翔は自室にこもり、ただ平穏が訪れるのを待ち続けていた。

『・・・・・・才能なんて、いらない。こんなことなら水泳なんてやらなきゃ良かった・・・・・・!』

『そんなこと言わないで、あなたがいなきゃ私、寂しい。やっと会えたライバルなんだもの、私は』

『もうやめて!やめて、ください・・・・・・』


「それからも、ずっと白鷺先輩は矢翔のもとに通い続けた。最初は拒み続けた矢翔もついに折れ、部活にも出るようになった。今考えると歪だった。あんなのいつ破綻してもおかしくなかった」


古畑矢翔は傷心を、欠けた何かを補うように白鷺まことに寄りかかり続けた。


───先輩!

────先輩?

──────せーんぱいっ!


『ねぇ、矢翔ちゃん?他にもお友達とか作らないの?私ばかりといても・・・・・・・・・・・・』

『・・・・・・私には、先輩がいればいいんです。先輩は、いや、ですか?』

『・・・・・・・・・・・・ううん、そんなことない。でもね』

『やめて、ください!私を見捨てないで・・・・・・先輩言ったじゃないですか。私を守るって、絶対、守ってくれるって!!』

『・・・・・・そうだ、ね。うん。私が守るよ。ずっと、ずーっと、ね』


「先輩は頼られ救いとなれることに欲求を刺激され、矢翔はそれに依存して世界を小さくしていった。」

そう語る木守嵐は静かにこちらを見据え、その先を紡いでいった。

「でも、それじゃだめだって私と知都里が矢翔を連れ出したんよ。あの時の矢翔ってばすっごい警戒してて小動物みたいだった」

思い出し笑いか、思いの外儚げな顔が美しく見えた。

「そこであんたらと関わるわけか」

「そ、クラスも同じだったし気にはかけてたんだよねー。でも、だんだん矢翔も他の人とも話せるようになってきた頃、先輩が壊れた」

「壊れた?」


『・・・・・・・・・・・・矢翔ちゃん・・・・・・。お友達、できたんだ?良かったじゃない。私は、もう要らないんだね』

『先輩、あの、私感謝してるんです。だって先輩のおかげで』

白鷺まことは言葉を遮るように古畑矢翔をプールに突き落とした。

不意をつかれた古畑矢翔は水を大量に飲み込み溺れてしまった。その時すかさず助けに入ったのは木守嵐と上郷知都里だった。

『・・・・・・あんたなんて、大っ嫌い』

白鷺まことはそう言い残した。

そして、彼女を中心としたいじめが始まった。


「どうして、こうなっちゃったんだろ・・・・・・あたしらがいけなかったのかな・・・・・・矢翔を、連れ出したりしなきゃ・・・・・・」

語り終え、木守嵐が大粒の涙をこぼす。

「そんなことないです。あなたたちは古畑先輩を助けようとしたんじゃないですか。それだけは間違いなんかじゃないんです。絶対に」

大地は強く、そう言葉にした。

「でもさあ、よくわかんなくねぇか?友達作れって言ってたのはその部長なんだろ?なんで友達出来たら急に攻撃的になんだよ?」

立木律が会話に立ち入ってくる。いたことをすっかり忘れるところだった。

だが、その疑問は確かにある。依存してしまったが故の固執か嫉妬か・・・・・・、いずれにせよ古畑矢翔を狙ったものだとしたらオーバーロードの宿主としての可能性は高くなる。だが、実際に目の当たりにした時の反応・・・・・・あれは見えていない人間の反応だった。演技だったとしてもまだ五分と言ったところか。

「私の知らないとこで二人に何かあったのかも・・・・・・」

木守嵐も疑問に感じていたようだ。

直接話を聞きたいところだがあの様子だと難しいだろう。

部室を静寂が包む。

遠くから救急車のサイレンが聞こえる。次第にその音は大きくなり、校舎中に鳴り響いた。


「救急車!?」

「何かあったのかな」

騒然とする学校に救急隊員が慌ただしくストレッチャーを運ぶ。


「え?あれって・・・・・・」

大地が運ばれる生徒を見てぼやく。俺もつられるようにして目を向けると、つい今しがた話題に上っていた人物の顔が見えた。


「・・・・・・白鷺・・・まこと・・・・・・・・・・・・!」


顔面蒼白の水泳部部長が救急車に運ばれていた。

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