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覚醒のオーバーロード  作者: Haru
第二章 時の支配者(クロック・ルーラー)編
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24/29

CHAPTERⅡ.見えざる悪意-5

部活動の大会出場条件煩雑すぎて割と適当です。ごめんよ。

5.


☆☆☆☆☆


星乃海学園には水泳部のための専用施設などはなく、当然のように授業でも使われる通常のプールが部活動に当てられている。

プールサイドを夏日が照らし、足をつけて歩くのにも熱が足裏を焼くようで一苦労する。

部員は総勢24名。規模は小さいながらも、地区予選を勝ち抜き、迫る七月末には関東大会が控えている。そこを通過出来ればいよいよ全国だ。

水泳部の全員が全国に向けて一丸となって練習に励んでいる。だと言うのに、このタイミングで妙な噂が部に蔓延していた。

例の下着泥棒騒動だ。部長である白鷺(しらさぎ)まことは現状の部の雰囲気に苛立っていた。それに付け加えてその騒動の中心となっている二年の締まりのない態度がそれを更に苛烈にさせる。

「部長、あいつらまだ来てないですよ」

「来たくない奴らは来なくていい!ほら早くアップ済ませて!練習始めるよ!」手を打ち鳴らしプールサイドに響き渡る澄み切った声で白鷺が喝を入れる。

その裏で、プールの入口の鉄格子の扉が開かれる音がした。ようやく来たか、と白鷺はどう見せしめにするか、そればかりを考えていた。


きゃあああああああっっ!!


更衣室からプールサイドにまで悲鳴が轟く。

「どうしたのっ!?」白鷺は先ほどまで考えていた悪どいことなど忘れて一目散に更衣室へ向かう。

そこには傷ついて倒れる上郷知都里と彼女を揺するように声をかけ続ける木守嵐、そして脱ぎ掛けの衣服を掴むようにしてもたれ込み、なにか脅えている様子の古畑矢翔の姿があった。

白鷺は更衣室の隅に差しかかる影に浮かぶ誰かの下着を見た。そしてそれは一瞬にしてどこかへと消えてしまった。


☆☆☆☆☆


天井を見上げじんじんと熱く痛む頬をさする。宮嶋先輩が笹木先輩に詰め寄り怒号をあげている声の他に隣りの教室から弦楽器の音色が聞こえてくる。

先ほど来ていた男子たちだろうか。水三沢、と言っていたけれどあの派手な見た目からは想像出来ないほど穏やかな音色だった。もちろん弾いているのが彼かどうかは分からない。まったく違う人物かもしれなかったが、なぜかふと水三沢という男のことを思い浮かべてしまっていた。

きれいだな・・・・・・この音。うつらうつらになりながらも聴き入っていた。と、ふっと音が止んだ。

するとバンッと激しい音と共に廊下をかける音がした。僕は慌てて上体を起こすと教室の扉越しに廊下を走り抜ける水三沢の姿を見た。


きゃあああああああっっ!!


今度は遠くから悲鳴が聞こえた。

白彌くんがすぐさまベランダから外を見渡す。「プールか!」と言い残すとあっという間に手すりに足をかけそのまま飛び降りてしまった。

「白彌くん!」すぐさま僕も追いかけようとベランダに出るもここが三階であることを思い出し旋回してダッシュで教室を出た。


「・・・・・・え、何?てかここ三階だよね?白彌くん飛び降りなかった?」

「もういない・・・・・・みたいです」

あまりの突然の出来事に呆然とする笹木先輩と立木くんの姿が教室にあった。

「・・・・・・あれ?ミヤコは?」


☆☆☆☆☆


早速仕掛けてきたか。

白彌瑞月は現状を把握しつつこれまで集めた情報をもとにあらゆるパターンを考えていた。

その上でこの事は後で大地にも相談しよう、そう考えていた。まだ敵の正体も掴めないうちの接触は出来れば避けたいところだったが、動いてしまった以上は仕方がない。

あの部室での会話で、敵が次にどう出るか複数の想定を立てていた白彌だったがこれはあまりにも想定外、いや想定内ではあったが可能性はほとんどないと考えていた状況だ。

事件の概要を知り警戒心が最も高い依頼相談直後に行動するなどリスクしかないはずだった。

「見つかるはずがないとたかを括っているのか?」

「白彌くんーーー!」背後から大地の声がする。そういえば特に何も考えず飛び降りてしまったが大地が同じことをできるはずもない。おそらく普通に廊下を走ってきたのだろう。既に息が切れかけている。

「悪い、無理をさせた」大地のスピードに合わせて並んだ。

だが大地はいいよ大丈夫と汗ばんだ顔で笑ってみせた。

「ねぇ、もし今回の事件が本当に下着を盗みたいなんて言う欲望から来たものだとして・・・・・・それでオーバーロードが生まれるものなの?」

「いや、性欲、支配欲、あるいは食欲でもなんでもいいが・・・・・・欲望とは願い、すなわち願望の別の形に過ぎない。オーバーロードは強い願望のもとに顕現する存在だからな。仮に卑猥なことを目的にしたってその想いが強ければオーバーロードがいてもおかしくは無い」

大地はそうか、願望も欲望も同じ・・・・・・と呟きながらも走り続けた。

成長したな、こいつも。そうふと思った。

以前までは何をするにもおどおどしていたはずなのに、今ではその表情は微塵も見せない。

オーバーロード、そして自分の都合に関わらせ、その人生を狂わせてしまった責任を白彌はずっと心の奥深くに感じ続けていた。まだ、大地にも伝えきれていない、自分の心奥深くにくすぶる怨嗟の炎が今までの自分の原動力だった。

だがどうだろう。今はそれほどその感情に振り回されていないように思う。これが、自分にとって正しい変化なのかそれとも・・・・・・。

「白彌くん!」大地の声でハッと我に返る。

プールの入口にある鉄格子は奇妙な形に歪み、また周りの壁には濡れたような手形があちこちに付いていた。

それは異様に大きく、それでいておおよそ人の手と呼べるものではなかった。

「動物・・・・・・の手形か?変な形だ」

その手形は大きく二股に割れ、それぞれに三本指と二本指のようなものがありその先端には爪で引っ掻いたような跡が無数にあった。

「これ、どこかで見た気がする・・・・・・」大地がぽつりと呟く。その時、再び奥の方から叫び声がした。先程とは別の人の声だった。白彌と大地は急ぎ声の方へと向かった。


☆☆☆☆☆


声がしたのはまさかの女子更衣室だった。さすがに入るのはまずい、直感的に危機を感じたが白彌くんは気にする間もなくひょいっと更衣室へと飛び込んでいった。

僕は知らないぞ・・・・・・と思いながらも恐る恐る扉越しに中を覗いた。

そこには傷つき倒れる上郷先輩と彼女をを揺すりながら嗚咽を漏らす木守先輩、そして俯きがちに震える古畑先輩の姿があった。

「大丈夫ですか!?」勢いよく僕も乗り込んだ。また狙われたのか。しかし今度は状況がさらに悪化しているように見える。何せ怪我をおった人が現れてしまったのだ。ただの私欲の犯行にしては度が過ぎている。

「あんたたち状況はわかるか?」

白彌くんが周囲の人たちに聞き込みをする。だが、周りの人達は困惑しただ首を横に振るだけだった。「部長!」背後にあるベンチに人影が見えた。項垂れてなにかおぞましいものを見たかのような顔を見せる女子生徒をおそらく後輩の女子が宥めていた。項垂れている人が部長なのだろう。

「あの、どうしたんですか?なにがあったんですか」僕はそっと部長である女子生徒に尋ねた。なにか状況が分かるかもしれない。その女子生徒は僕に気づき、はっと口を開ける。「・・・・・・。・・・・・・っ!・・・・・・!?だ、男子?なんでこんなとこに男子がいるのよっ!?」

しまった。あまりのことに当然の事実を忘れてしまっていた。

ここは女子更衣室なのだ。それも水泳部の。こんな場所に男子がいていいはずがない。

「えっ男子?」「ホントだ」「な、なんで??」「いやぁぁぁっ!」「出てけっ!ヘンタイ!!」

僕と白彌くんは揃ってつまみ出された。


仕方なく僕たちはプールを外から眺める形で状況の整理に当たった。

「今回はただの覗き魔の窃盗行為だって思ってたんだけどなあ。思っていたよりも複雑なのかも」

「あぁ、そうだな。今のところ現場にいあわせていたのはおそらくあの三人。上郷、木守、古畑だ。その後あの部長さんも何かを目撃した。おおかた宙に浮く下着かなんかだろうが」

「白彌くん一応あの人たち先輩だからね。呼び捨てにするのはちょっと・・・・・・」「お前だってちょいちょい呼び捨てているぞ。というか今はそんな細かいことはいいだろ」

それもそうか、と今は納得する。まずはオーバーロードの正体、そして能力の詳細を探る。そして宿主の願望と目的も・・・・・・。

「やはり能力を鑑みるに透明化が妥当だと思う。自身の透明化、あるいは光学迷彩による錯覚か。いずれにせよ、一瞬にして消えるというのは不可解だ」

白彌くんがプールの壁面に背をつけ思考を言語化していく。

「どうして?透明化なら一瞬で消えたように錯覚しても不思議じゃなさそうだけど」そもそもオーバーロードは普通の人には見ることは叶わない。直接被害にあっていた人たちでさえ、見えない何かに脅かされる恐怖を感じていた。

ならば透明になる意味があまりないように思うが触れたものさえも透明にできるのなら話は別だ。その力をもって盗難を働くにはもってこいだろう。

「いや、オーバーロードの能力もそこまで便利なものじゃない。前回戦ったコーマが弱かったように、オーバーロードにも力の序列が存在する。次元の差と言い替えてもいい」

「次元?」

「そう。魂のステージが違うってやつさ。オーバーロードが普通の人に見えないのも、人間とオーバーロードが存在する次元が違うからだ。人が三次元に位置する物質的存在だとすればオーバーロードはその上、四次元に存在する精神的存在だ。端的に言えば幽霊みたいなもんだ。ただし質量を持つ幽霊だがな」

「幽霊・・・・・・」

「さらにオーバーロードには覚醒段階というものがある。第一覚醒では能力の知覚、第二覚醒でオーバーロードの顕現。俺たちが戦ってきた奴らもほとんどがその段階だ。ここまでが4次元存在。」

「じゃあルナティクスも第二覚醒ってことか」

「いや違う」白彌くんが即座に否定する。

「ルナティクス、俺とお前のオーバーロードはさらにその上、超過次元存在にあたる。段階で言えば第四・・・・・・いやそれも違うな。俺たちのは特殊すぎるんだ」

「特殊?」白彌くんでさえも正確には把握しきれていないということだろうか。

「俺のアークが壊れていなければ、本来俺は一人でオーバーロードになれる。ルナティクスは俺の持つ元々の力にお前の力を混ぜ合わせたようなものだ。普通じゃない。」

言われてみればその通りだ。共に戦う機会が増えたからか勘違いしそうになるが、ルナティクスはもとより白彌くんの力だ。僕の介入は本来必要のないもののはずだった。

「だが、その結果俺は以前よりも安定した、より強力な力を得たと感じている。なぜかは分からないが・・・・・・大地にもひょっとしたら何か超次元的な力があるのかもしれないな」

そうなのだろうか。僕はじっと手のひらを見つめぐっと拳を握りしめた。考えないようにしていた何か核心に迫るような・・・・・・そんな恐怖が僕の心で揺らぐのがわかった。

僕は何かを恐怖している・・・・・・?何を・・・・・・?

一瞬、脳裏にある日の光景が浮かぶ。爆炎を上げ赤く照らされる夜空に浮かぶ太陽と、そして・・・・・・

「大地」白彌くんの声ではっと我に返る。

「ごめん、考え事してた」「いやいい。変なこと言って悪かったな。・・・・・・話を戻すが、オーバーロードには明確に力の格差がある。第二覚醒では能力に限界があるんだ。獲得した能力がたとえどれだけ強力でも、自信に影響させる効果と周囲に影響を与える効果は同時には行使できない」

「どういうこと?」

「つまり、透明化に限って言えば自分を透明にできてもそれ以外は同時に透明にできないってことだ。自分以外を透明化されるためには自分は姿を現す必要がある」

なるほど。影響とはそういうことか。しかし僕の疑問は解消されていなかった。

「でも、白彌くん。やっぱりそれでも可能なんじゃないの?だって普通の人には見えないんだから手に持った下着だけを透明にすれば誰も気づかない」

「俺たちは違うだろ」白彌くんの言葉にはっとする。そうか、僕たちはオーバーロードを知覚できる。コーマのような小型ならともかく、あの大きな手形を持つような怪物だ。下着だけを透明にしていたならば、悲鳴を聞いてすぐに駆けつけた僕たちがどこかで目撃している。それがないということは透明になっていたのはオーバーロード本体だけだ。

となれば確かに不可解だ。瞬時に触れているものを消すことが出来るのか。だが能力は同時には使えない。

頭を捻るもやはり情報が今ひとつ足りなかった。

「あ、あの・・・・・・」

不意に声をかけられ、思わず身構えた。こういう小心者なところは相変わらずだ。

僕のとっさの行動に相手も気圧されたのかひっ、と体を強ばらせる。僕はようやくその相手が誰なのかを知った。

「古畑先輩・・・・・・?」

声をかけてきたのは制服に着替えた古畑矢翔先輩だった。


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