5話 アラハバキの戦い 外交編(3)
江刺(現奥州市)の伊佐西古
和賀(現北上市)の諸絞
気仙(現気仙沼市)の八十嶋
稗貫(現花巻市)の乙代
志和(現紫波郡)の阿奴志己
これらの族長達を説得するのが今回のミッションだ
なんだかんだでたった一日で胆沢までついてしまった。
もう日が暮れているが一目見ただけで伊治の街よりも栄えているのがはっきりとわかる。
かなり田舎だけど都会っぽい。人が多そうだ。
「今日は私の屋敷に泊まるとよい。親父どもにも会わせたい」
アテルイの親父と言ったらガクト、いやアクトだった。
アクトは岩手県内の蝦夷の中でもかなり勢力の大きい方らしい。
族長たちの中でも発言権は大きいようだ。
「アザマロ殿から話はもう聞いたぞ」
帰ってくるなりアクトらしき男がアテルイに話しかけた。
「そうでしたか、それなら話が早い。馬をつかわせたのですね」
どうやらおれたちが船で二日かかって帰っている間にアザマロが早馬を出していたらしい。
さすが抜け目ない男
「それなら話が早い、こちらが今回の作戦を立案したミズキ殿です」
なんと、作戦の中心人物に添えられてしまったでござる!
こまったでござる!
「はじめまして、牡鹿の水木と申します。生まれは蝦夷、心はアラハバキの神々と共にあり」
・・・勢いでかっこよく挨拶しました。
「早馬が来たから昨日のうちに族長達には召集をかけておいた。ここに来るのも明日か明後日には揃うだろう」
「伊佐西古は問題ないとして諸絞が何というかじゃな。それによって八十嶋も乙代も考えるじゃろう」
なるほど、モロシマってのがちょっと厄介なやつらしい。
モレちゃんみたく女の子だったりはしないよな…
「光仁天皇の次の代の天皇が決まれば朝廷の東征政策は激しくなる事間違いなし。今は伊治で満足しているが金を求めて必ずや胆沢、志和まで東征は及びます」
モレちゃんが言う。おれも言いたかった事だけど…。
「その前に何としても先手を打って独立国家として朝廷に認めてもらわなければならないのです」
おれがその流れにのってもっともらしい事を言う。
「果たして今の我々の力でそのような事ができるのかのう」
「戦わねば私たちは一生朝廷の奴隷として作物や金を貢献し続けなければならぬ運命。特に牡鹿の涌谷の現状を見ると朝廷の金への執着心はとてもじゃないがすさまじい物がありまする」
アテルイはしっかりと涌谷の現状まで知っているようだった。
これから先、仏教が大いに広まるにつれて金銀銅、需要がものすごく増えてくる。
当然この東北以外からも後に採掘されるようになるがそれはもっとずっと後の話。
今はこの地の砂金に全てがかかっているのだ。
その話をすれば誰も戦わないとは言わないとここにいる誰もが思った。
そう思ったのか皆の口数が減ったところで夕飯の用意が出てきた。
あいかわらず何で作っているのかわからない謎酒も出てきた(たぶん米稗粟等の雑穀だと思う)
ドブロクにも似ているがあんまりアルコール度数が高くないような気がする。
気がするだけでやっぱり良いは回ってくる。
もっと喉越しの良い酒、ビールが飲みたい…
「こちらのお酒は口に合いませんか?」
モレちゃんがお酌をしにやってきた。
と、おもったら似ているけど若い。
あ、これが前言ってたカナちゃんだな。
「モレの妹のカナと申します。先日こちらへ帰ってくると聞いたので姉を迎えに来ました」
ふーん、本当はアテルイに会いに来たんじゃないのかね。
現実世界(現代)で女性とあまり会話した事のないおれは常に捻くれた正確でしか女性を見れなかった。
しかし今までと何かが違う。
そうか、おれはこの時代じゃそれなりの立場であり客人的な人だからすごく歓迎されている。
今まで無職ニートだったおれには無いこの感覚。
きっと社会人としてサラリーマンになりそれなりの役職についたら経験するであろうこの感覚。
入社したてのかわいい新人社員からお酌されるこの感覚。
おれはなんだか社会人として認められたような気がしてうれしくて泣きながら酒を飲んでいた。




