【1−8】 「学園生活初日、絶体絶命・大ピンチ!?」
ドン……ドン……ドン。
ガン、ガン、バゴン! ガコン! バキ! グシャア!!
「ん? なんか、騒がしいね。どこか工事してるのかな?」
「いえ、私の心臓の音ですね」
数秒前の自分を振り返ってみる。
カッコつけて言ったが、後悔はない。
でもやっぱり、人と話すのは緊張するし、初対面の人と挨拶するという場面を想像しただけでもう無理。帰りたい。今すぐ帰りたい。閃光の如く帰りたい。帰宅部はね、下校時の足の早さだけは世界並なんだから。
……って考えても仕方ない!! 自分のためなんでしょ、さくら!! じゃあ、精一杯頑張るしかないじゃん!
よぉし!! 陽キャどもに絡まれたら即帰ろう!!
……と、考えたのも束の間。というより、そんなやましい思いも吹き飛ぶぐらいの衝撃風景が、私の視界に広がった。
「ここが、俺が通ってる学校だよ」
「……え?」という単語すら出てこなくなった。
さっきまでいた王宮とはなんら変わりない外観。白亜の巨塔が青空に向かってそびえ立ち、壁につけられたステンドグラスは、日光を反射し色鮮やかに光っている。アーチ状の回廊と緻密に掘られた彫像が私たちを迎え入れ、中央に置かれた噴水にそれらが映し出される。
……本当にアニメの世界だ。
そう、驚くことはこれだけではない。
周りにいる、殿方と姫君。そして貴族。
清潔感溢れる容姿、見栄え良く伸ばした背筋、靭やかに動く手先すらも美しい。
なんて言ったって……。
「か、顔が良いぃぃ……」
感動で吐息しかでない。
あっちを見たらイケメン、こっちをみたら美女。
あっちを見て、こっちを見て。あっちを見て、こっちを見て。
こんな見飽きない画が実在するなんて……。
両手に花ならぬ、両手足に美男美女。
「どうだ?」
答える余裕なんてない。
こっちは今、目を動かすのに忙しいんだよ。
だってこんな光景が目の前にあって見るなというのは、腹すかせた猛獣が肉を差し出されたのに食べるなってぐらい無理あるよ。
「あ! セドじゃん!!」
この広い中庭(広すぎて玄関かも庭かもわからん)から、声量のあるとても良い声が聞こえた。
そして、それを待っていたかのようにその声を筆頭にして。
「え、セドリック様がいらしてるの?」
「うわあ! じゃあ、病が治ったって噂は本当だったんだ!」
「めっちゃ久しぶりだねぇ」
「いつ見ても美しいですわ」
……これが黄色い歓声というのか。
周りにどんどん人が集まってくる。
みんな私のことなど存在していないかのようにスルーして、隣のセドリックの方に寄っていく。
まあ、こんなもんだよね。前世と同じ。わかってたこと。
私みたいな根暗陰キャに、光の中で生きてる陽キャなんかが話しかけてくれるわけなんてないんだ。
そう、要はオタクに優しいギャルはいないってことだ。この人たちはギャルじゃないけど。
でも……なんだろう。
────ちょっと寂しい……なんて、今更なはずなのに。
「ごめんね、みんな! また後で話そう! これから俺は彼女に案内をしようと思ってるんだ!!」
と、ジッと地面を見て「あ、蟻だ」と、味も華もない真っ白な感想を心で綴っている私に、セドリックがガッと腕を掴んだ。そして、彼の腕が私の腕に絡んでくる。
衣擦れの音が直接響き、腕組みなんてしたことないからか、ゾワゾワとした感覚が背中を駆ける。
「ええっと……そちらの方は……?」
セドリックの一番近くに居た女性がそう言ったと同時に、人混みの中からそれは聞こえた。
「あ! 見たことある!! この前の王宮でのパーティーで! 君、魔法使いなんだろ?」
シンっと陰キャには毒な喧騒が一気に静まり返った。
そして「えええー!!!」と、台本通りかってぐらいのナイスリアクションが響く。
「え、え? 本当に魔法使い!? 絶滅したんじゃないの?」
「すごい! 初めて見た!」
「あ、握手してください!!」
まるで有名人にでもなったかのように、握手を求められる。
目線もセドリックからこっちに移される。
ワーワーという歓声が、私にはもはや雑音にしか聞こえない。
耳を塞ぎたいのに、塞げない。
断りたいのに、断れない。
逃げたいのに、逃げられない。
や、やばい……無理……頭がヒートしそう……。
熱気と声で頭がグルグルする……気持ち悪い。
目線が……怖い。
「でも、セドリックとはどういう関係なんだ?」
その人は、私とセドリックが一緒に来た所を見たのだろう。
無理もない。理由もなしに王家が見知らぬ人間、それも魔法使いと第一王子が行動を共にするわけがないのだから。
ここは、うまく彼が誤魔化してくれれば……。
「サクラはね、俺の未来の花嫁さ!!」
庭にエコーがかかり、同じ言葉が反芻して聞こえる。特に「花嫁さ」の部分が。
考えが甘すぎた。
そうだ。
彼は、こんな奴だった。
「「ええええええー!!!!?????」」




