【1−5】 「その場の勢いって、怖いものですね」
絶滅したとされる魔法使いに転生したこの私、桃原さくら。
つい先ほど、このフェリア王国を統べるハーベル国王陛下から、第一王子であるセドリックの病を治してくれと頼まれ、難なく成功させた。
そして、その第一王子からわけもわからず求婚され、その時はもちろん断った。
だが諦めない彼は、半年後の誕生日までに必ず私を堕とすという挑戦状を叩きつけ、私はそれから逃げ切るという意味不明な戦いが始まった。
というのが、今までの話の流れだ。
ここまで、1日経っていないのがこれはまた不思議。
その場の勢いって、怖いものですね。
と、開始早々タイトル回収させて悪いのだが、マジでどうしよう。
こんな主人公とヒロインの戦いから始まるラブコメなんて見たこと……いや、あるかもしれん。
ラブコメなんて腐るほど見たから、その中に一つぐらいあるだろう。
さて、まずはどう逃げるかが問題だ。
セドリックは、私が好きだと言ったんだから逆に「嫌われるよう仕向ける」のはどうだ?
こう……彼の苦手な人になる、とか。
いや、といっても私も人間だ。嫌われるのは流石に傷つくからこれはナシだ。
じゃあ、嫌がらせをするのはどうだろうか?
うう……これもなんか、良心が痛む。それにあんな顔がいい男に嫌がらせする奴もどうかと思うから、これもナシ。
あ、そうだ!! 彼からの好意を断り続ければいいんだ!!
そうすれば、どんなにしつこい相手でも勝手に諦めるだろう。
なーんだ、簡単なことじゃん。
あまり、私を舐めないでいただきたい。
私にはルイ様という心に決めた相手がいるのだから。
それ以外の男に靡くわけがない。(彼氏いない歴=年齢)
どんな愛の言葉も颯爽と断ってやろうじゃないの!!
……と決めたはいいものの。
「どう? このケーキ、美味しくない? 俺の一番好きな種類なんだけど……」
城外の庭に机と椅子を用意され、私とセドリックはそこでアフタヌーンティーを嗜んでいた。
いや────。
めっちゃ策士じゃん!!
なに、このイケメン&お茶という非の打ち所のない舞台設定は。いくら大金積んでもできることじゃないよ!?
それに、甘いものは私の好物だ。
クソォ、悔しいけどここは潔く流されるフリをしておくか。
「どう? お味は」
「とっても美味しいですぅ!!」
いやいや、違うでしょ!! 理性を失っちゃダメよ、さくら!!
そんなんじゃあ、彼の思う壺。手のひらで踊らされるだけ。
好物で相手の心を奪おうとするなんて、そんな姑息な真似をするやつの思う通りになんて、なってやんないんだから!!
❀ ❀ ❀
「思ったより食べたね。まあ、たくさん食べて幸せそうなサクラを見るのも楽しかったよ」
フフと笑った顔は、もはや凶器。
眩しすぎて直視できない。
お腹いっぱいで、もう夜ご飯いらないや……じゃないよ!!
かんっぜんに流されてしまった……。
どうして、私ってこうも欲に弱いの!?
いや、もうそれは前世でも同じだったか。
小遣いを全部グッズに使って、お金を稼ぐためにバイトをしようにも面倒くさくて、学校にも行かなくなって……。
全部自分の欲で。
嫌なことから逃げた結果があれだ。
そりゃあ、親に見放されても文句は言えんわな。
異世界に転生して、前世みたいな失態は犯さないよう、精進したいのは山々だが。
「どうだ? 少しは好感が持てたか?」
こればっかりは、どうしても譲れない!!
白々しい台詞をなんの恥ずかしげもなく吐くこのイケメンは、私のことが好きらしいがなぜ好きかはわからない。
「ケーキは美味しかったですが、好感は持てません。そもそも餌で釣ろうとするところに卑しさが滲み出ていると思いますが」
間違ったことは言っていない。
海老で鯛を釣る……と言ったら私自身、鯛ほどの価値があるのかは問題だが、私の「心」はそんなに安くないのよ。
「そう……そうか! じゃあ、次回までにたくさん勉強するから!! 次は絶対に成功させる!」
「は、はあ」
勉強……王子ならもっと他に勉強することがあるだろう。
「あ、あとね」
急に椅子から立ち上がったと思ったら、右手で私の顎を軽く持ち、自分の顔へと向かせる。
うわ、これってもしかして……もしかしてじゃなくても、顎クイってやつ?
ルイ様によく似た顔のレベチイケメンに顎クイとか、全世界のおなご達に刺されそうで怖いのだが。
頭の中で幾億回と妄想していたことが実現し、頭の整理が追いつかないと人間ってマジで「ふえぇ」みたいなキモい声が出るんだと、今自分がそれを声に出して気づいた。
「これから俺のことは、『セド』と呼んでくれないか?」
いや、もう反射的に「うん」と言ってしまった。けどね……。
頼み事なら顎クイじゃなくて、普通に頼めよ!!
というツッコミを心の中でしたのを最後に、異世界転生してやっと、怒涛の1日目を終えることが出来た。




