【1−2】 「初! 第一王子とご対面!」
さて、ここがお城だとしよう。
さっきのを見る限り、お城に間違いないのだが。
なぜ今、私は有無を言わさず連行されているのか。それも初対面の人に。
「ちょっと待て!! 私は一年も引きこもりだった女だぞ!! そんな初対面のやつと気軽に話せるほどのコミュニケーション能力は持ち合わせていない!!」
……なーんて言えたら、この意味不明な状況から抜け出せたか?
そもそも、そんなこと言えるなら、学校でわざわざきったないトイレに入ってまでぼっち飯食べてないし、引きこもりにもなっていないわけで。今や口も満足に動かすこともできず、自分がどんな顔をしているのかもわからん。
廊下ですれ違う鏡に自分の姿が映る。
うっわ……我ながらキモすぎ。思わず殴りたくなる。
それに、顔は前世と比べて整っている感じではあるものの、そこまで変わらないのね。
せめて爆美女に転生させてくれればいいのに……なんてサービス精神のない神様だ。(転生させたのが神かは知らないが)
よし、こういうときは妄想するんだ。私とルイ様(推し)の夢小説を。
何十個とサイトに書いた夢小説。一人で書いては一人で鼻の下を伸ばしたもの。それが、オタクという儚い生き物さ。
ほら、もう一瞬で結婚まで持っていけた。これぞまさにフォーリンラブ、フォーエバーラブ。
ここから始まる彼と私のソウ・スウィートライフ。
頭の中で延々と妄想劇を繰り広げている私に、目の前を歩いていた国王が私の方を振り返る。
「そういえば、そなたの名を聞いていなかったな」
思考がピタリとやみ、場に応じて口が動かず慌てて答える。
「も、桃原さくらでしゅ!!」
あ、噛んだ。
これがアニメや夢小説なら、かっこよく決める場面なのに。
恥ずかしくて、思わず俯く。
「サクラ……不思議な名前だな。私の名はハーベル。そして今から会う、そなたが側近になる主の名は、セドリック。私の息子であり、フェリア王国の第一王子である」
ほうほう。さっきの貴族っぽい人たちが言っていたことと総合して考えると、私は絶滅したはずの魔法使いで、病にかかった国の第一王子を魔法で助けると。
ん? それってとどのつまり……。
「なに、身構える必要など無い。そなたには、いずれこの国を治める王子の病を治してもらうだけだ」
だからさ、当たり前みたいに言ってるけど、私に今後の国がかかっているってことでしょ? そんな大役、無理に決まってんじゃん!!
いやいや、ここは落ち着くべきよ、さくら。
この人は国王、そして息子の病を治してくれと私に頼んでいる。
いや、ここは命令しているといったほうがわかりやすい。
そう、もし断った場合は……折角異世界転生したというのに一瞬でおじゃんだ。
「はい。わかりました」
潔く受けるしか、選択肢はない。
❀ ❀ ❀
というか、展開が早すぎて頭と身体があらぬ方向に行きそうだ。
これが三十分アニメなら、半分もいってないんじゃない?
もし私の身体がどうにかなった時は繋ぎ止めてね、と心のなかに飼ってるイマジナリーさくらが国王の背中に向けてウィンクする。
「ここだよ」
人が横三列並んでも入れそうなぐらい大きな両開き扉。
私の後ろにいた使いの人が扉を開ける。
ギーッと音をたてる。
「ご機嫌麗しゅう。ハーベル国王陛下」
部屋の中央に置かれた、アニメでよく見るテスターベッド。豪華な装飾とカーテンが施されてるやつ。
その脇に置かれた椅子に腰掛けていたいかにも医者って感じの人が床に跪いている。
異世界の医者も白衣って着るんだなぁ。
「セドリックの容態は?」
「脈拍も正常、平熱、今は安静に寝ておられるのですが……」
「……またか?」
「はい」
またとは? 何か問題でも発生したか?
「サクラよ、ちょっとこっちに来てくれないか?」
ちょいちょいと私に手招きをする。
国王の方へ歩くと、テスターベッドのカーテンが開けられる。
……え、二次元? いや、現実。
でも、「二次元から出てきたみたい」っていう表現、この人にピッタリすぎて自分と同じ星に住んでるとは思えない。
スッと筆で書いたような横長の目、絡まることを知らなさそうなサラッサラの黒髪。
私がいくらストレートパーマかけてもこうはならないんだが。
てか、まつ毛長っ!!
もう顔の造形に関しては、黄金比を作った人もびっくり案件よ?
こんな爆イケな王子がいるなら、もう何も驚くことなんてないし、おかげで今、冷静でいられる。
「サクラ」
「あ、はい」
マジマジと観察するように見ていた目を、国王の方に戻す。
「セドリックとここにいてくれないか?」
……はい?
「見てわかる通り、セドリックは寝つきが大変悪くてだな」
確かに、顔を少し顰めている。うなされてもいるし、顔の作りに重視していたせいか、全く気づかなかった。
「で、でも、私じゃなくてもいいのでは?」
「そなたは、今日からセドリックの側近。これもその役目なのだ。よろしく頼むよ」
まあ、一緒にいるだけならいいかな。
もし添い寝してくれとかだったら、口で断る前にこの部屋から飛び出してたところだ。
「あと、セドリックに話しかけてくれないだろうか」
「え? で、でも寝ているん……ですよね?」
「セドリックの場合、話しかけるとよく眠れるのだ。内容等はなんでもいい。話しかけるだけでいいのだ」
そんな、子供をあやすんじゃないんだから。
私の目の前にいるのは、大の大人。そんな事で、寝れるとは到底思えない。
それはいくらなんでも……。
「セドリックは早くに母を亡くしたもので、国王の私もこいつに構える暇などなくてな。いつも寂しい思いをさせてた。だから……」
俯いているからわからないけど、すごく悲しそうな顔しているのはわかる。
もう、そんなこと言われて断れるほど私は非道な人間じゃないのよ!!
「わかりました」
「お願いするよ。あと、そうだな、セドリックの病は治せそうか?」
ああそうか。私の本来の目的はセドリック王子の病を治すことだ。
「わ、私じゃないと治せないのですか?」
嫌と言っているわけじゃない。
転生した私は、いくは魔法使いだと言われても魔法なんてどう使うかわからないし、病を治す方法も知らない。
「彼、ジュナード先生も他の先生方も原因不明の病と仰っててね。余生はもう長くないと……でも魔法使いであるそなたが来てくれたおかげで、希望が持てたのだ」
重大責任。
うーん、それでも魔法を使うなら呪文とか、方法を知らないと何も始まらないよね?
あ、そうだ!
「あ、あの!」
「何かな?」
「本とか……たくさん置いてある部屋ってありませんか? 図書館? みたいな……」
「ああ、あるにはあるが、何をするのだ?」
「魔法使いと言っても、新米なもので……勉強してからにしたいな……と」
こういう設定でいけばなんとかなるでしょ。
「そうか。なら、彼らに案内を頼むから、ついていってくれるか? これから私は、只今開かれているパーティーに出席しなければならないのでな」
「わかりました」
異世界転生したての私。早々に国が関わる大仕事を課せられる。
長年あこがれた異世界生活、大変なことになりそうな予感……?




