【2−2】 「いつも通りが一番……!?」
お、お────。
大人気なぁ〜……!
私は幼稚園児かっての。
これは「コミュ障」とか会話の仕方以前で、人間としての常識として最低だった。
セドリック、怒ってるかな。
まあ普通は怒るよね。私だったら怒るもの。
うん、謝ろう。今すぐに。
あ、で、でも! このままだと、許嫁の件が白紙になるかも!
あー……でも、謝らないと人道的にやばいよね。
ど、どうしよう〜……。
と、うだうだ考えていたらもう次の日。
一日経ったら余計に謝りにくくなってしまった。
あーもう!! なんであそこで踏みとどまったかなぁ!
私ったら本当に馬鹿過ぎる!!
いい? さくら。
自分で変わるって決めたんだから、ここは腹括ってセドリックの自室へ突撃するのよ!!
覚悟は決めた。よし、今よ!!
「セ、セドリック様!! お、おお、おはようございます!!」
また、くしゃみがかかったらどうしようとか、半分思いながらドアを開けた。
あ、あれ? 返事がない?
パッと見、彼の姿はなくどこかに行ったのかもしれないと、部屋を回っていると。
ベッドの横に差し掛かった瞬間、布団の中へと引きずり込まれたのだ。
あまりにも一瞬の出来事すぎて、理解するのに数分かかった。
ほら、早送りされている動画って台詞を理解するのが難しいでしょ? そんな感じ。
現代っ子(私含め)って、動画を早送りする傾向があるらしいよねー。
なんて、呑気にモノローグを語ってるけど、なぜ私はベッドに転がされ、上には半裸の王子がいるんだろう?
朝の日差しでより一層輝く黒髪がなんとも、いとおかし。
寝癖で乱れていても、それもまた一興。
すっぴんでここまで綺麗な顔は、もはや天然記念物だよ。
「どうしたの? 夜這いでもしに来た?」
「それならこんな堂々と来ませんよ。それに今は朝です」
朝っぱから私たちは何の会話をしているんだ……。
こんな意味不明な状況でうまく躱せた私を褒めてほしい。
セドリックはというとそのまま固まったので、私はそこから抜け出しベッドから降りる。
うぅ〜となぜかメソメソ泣いている彼を見ていると、昨日のことは気にしてないのかなと少し安堵した。
でも、自分の非についてはちゃんと謝罪をしないと。
「昨日は、その……す、すみませんでした!」
ガバっと頭を下げ、精一杯の謝罪の意を示す。
親にすらこんなふうに謝ったこと無いよ。
相手がセドリックだからだろう。
「わ、私が言い出したことなのに……あんな態度を取ってしまって……本当にすみません」
彼の許嫁になんて本当になりたくない。いや、どっちかというとなるわけにはいかないというか。
私は彼に私よりもっと良い人がいると、そう教えたい。
たとえ、それでも。
私は彼に嫌われたくないんだ。
頭を下げて数秒。返ってきたのは。
「え? なんのこと?」
それだけだった。
「な、なんのことって……友達の作り方について聞いた時ですよ」
「うん。それは覚えてるよ」
「そ、それで、セドリック様が折角私に助言をしてくださったというのに、私が無理やり会話を中断させたみたいになって……第一王子に対してもですが、その……人としてあるまじき行為だったので……」
私がそう言うと、彼はやっと思い出したかのように「あー!!」と声を上げ、手を叩いた。
「あれね、別に謝らなくていいよ。むしろ謝るのはこっちだよ」
「どうしてですか?」
「ほら、俺がアドバイスした時、サクラ、なんかすごい嫌そうな顔をしていたっていうかさ」
そう言いながら今思いついたかのように、クローゼットから服を取り出し袖を通していく。
私は一回、布一枚の彼を見ているからか、初見の時よりは冷静だ。
そう。だからいい加減よだれを止めなさい。
「サクラにとって、あんまり聞かれたくなかった内容なんじゃないかって思って。人それぞれ聞かれたくないことあるし。だから、気に障るようなことを言った俺が謝るべきだよ。ごめん」
「い、いえ! そんな……!」
セドリックも気にしていたのか。
私こそ気にしていないというのに。
でも、これで一件落着。
心のわだかまりも解けてまたいつもの日常に戻れる。
そうだよ。いつも通りが一番なんだよ。
「それを謝るんだったらさ、さっきのこと謝ってほしいなぁ」
プクッと頬を膨らませる。
さっき……?
さっきとは一体いつのことだ?
私が部屋に入った時? それとも今の会話の中?
全く心当たりがなく、まずいと冷や汗が出てくる。
「心当たりは?」
「な……ない、です」
ヤバいヤバいヤバいよ。
どうする? この状況。逃げたら、なんて考えたけど、それこそ人間の恥だ。ここは正直に、穏便に……とはいかな……、
「俺のこと、セドリックじゃなくて『セド』って呼んでって言ったの、忘れたの?」
「……へ?」
そんな腑抜けた声が出てしまうほど、彼の言葉によって硬直していた体の緊張が一気に解れた。
その会話はした。した、けど……。
「そ、そんなことで怒ってるんですか?」
「そんなことじゃないの! 俺、すごい悲しかったんだけど!」
「す、すみません……?」
今度こそ私は何に謝ってるのか本気でわからなくなってきた。
もはや、馬鹿馬鹿しいと思うぐらいには。
「じゃあ、はい」
何が「じゃあ、はい」なんだ?
と、まあ思ったけど、耳に手を当てあからさまに、私に何かを言ってほしい仕草。
顔はよくても行動に可愛げがない。
ここは諦めて彼に従うか。
「セド様」
ほら、どうだ? 言ってやったぞ。
でも彼の表情はまだ不満気で、物足りなさそう。
なんで? ちゃんと言ったじゃない!!
「セド様じゃなくて?」
セド様じゃない? じゃ、じゃあなんと呼べと?
ま、まさか……!
一つの仮定にたどり着いたが、「いやいや、待て待て」という二単語を頭の中で数十回繰り返す。
も、もしそうだとしても! 私には無理!!
同世代の男の子を愛称で呼ぶことすら初めてなのに……そ、そんな……。
でも、目を爛々とさせ「早く!」と期待の眼差しを向けられたら、もう抵抗するすべもなく……。
「セ、セ……セド」
カアっと顔が熱くなるのがわかる。
冷やそうと手を当てるも、手も熱い。
彼はというと、やっと満足したような顔をしている。
そして、顔をどうにか冷やそうとしている私にトドメの一言。
「じゃあ、一回呼べたんだから。二回でも三回でも十回でも同じだよね?」
そう、グイグイ迫ってくるものだから、ついに私はこの部屋から抜け出した。
「え? ちょっと、サクラぁ〜」
「そう易々と第一王子の名前を敬称略で呼べません! 勘弁して下さい!!」
これは逃げて正解、逃げて正解……と自分に言い聞かせる。
いつも通りが一番って思ったけどさぁ……!!
いつも通りって一体なんなのー!!??




