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【1−10】 「これから頑張らせていただきます」

「ハア……容姿端麗、才色兼備。美しい者が歩いてこそ、そこが花道。まさに目の保養、残り香はまるで甘いカラメルソース。そう、ここが私の理想郷(ユートピア)」

「何言ってるかわかんないけど、早く教室に行こうよー」



陽キャどもを撒いて、先生方との面談? みたいなのも終わった私。今は、行き交う神顔たちを眺めながら歩いている。

そして、この後教室に行くのだが……。



「すごいね、サクラ。震えすぎてサクラの分身が見えるよ!」

「これが普通の反応ですが何か?」

「普通はならないよ?」



教室……それは、陽キャどもが集う悪魔の巣窟。私はそう呼んでいる。

セドリックと同じ教室にしてもらったけど、やっぱり止めたほうが良かったかな?

でも先生方も、「顔見知りの彼と一緒なら過ごしやすいのではないか」という善意でしてもらったわけだし。

恩を仇で返すようなことはしたくない。うぅぅ……。




ええい!! どうにでもなれ!!




ガラガラガラ!!




私が通っていた学校と同じスライド式のドア。

ローラーと床が擦れる音。目を瞑っているから音しか聞こえない。


ドア、開けたのに妙に静かだ。


恐る恐る目を開ける。

教室にいた数十名の生徒たち。

その視線が、一斉にこちらへ向けられた。




あ……やっぱり無理かも……。




どこに行っても結局は一緒。

今でこそ魔法使いだから、好奇な視線を向けられるのは仕方ないと思う。

でも前世は特に変哲もない普通の人間だったのに、大勢の人間に見られているような気がしてた。

気のせいだって何度も思った。でもその度に、私が変なのかなって、私がおかしいのかなって思って。



────私は、誰かに見られるのが怖い。



その時肩にポンッと手が置かれた。

暖かくて、安心できる。


「大丈夫」


セドリックがそう言ったと同時に、教室から、




「「キャアアアアアァァァァァ!!!」」




と、絶叫とは違う歓喜の声が響いた。




「お、お久しゅうございます、セドリック様!」

「お身体の方はもう大丈夫ですの?」

「あ、隣りにいる子、さっき外で会った子だ!」

「魔法使いで、セドリックが惚れた女って噂の?」

「え! この男をどうやったら惚れさせられるの?」

「す、すごいすごい!!」




一瞬で、私たちの周りに人が群がってくる。

さっきも外のやつはびっくりした。けど、今は、なんでだろう。

さっきまで、人に見られるのが怖いって思ってたのに。いや、今も怖いけど……。



嫌……じゃない。



セドリックは私の方を見て口パクで何かを伝えている。喋ってるのかもしれないけど、周りが騒がしくて聞こえない。

でも、私にはわかる。




『ほら、大丈夫って言ったろ?』




ニッと口角を上げ、白い歯を見せて笑った姿は年相応の「男の子」のようで。




心臓がドクドクと脈を打つ。




ち、違う、これは大衆を目の前にして緊張してるだけ。そんなんじゃあ……。

ハッ!! これがいわゆる吊り橋効果ってやつなのね!?

あれ、違う?



「じゃあ、荷物置いて学校、回ろっか」



あ、今のははっきり聞こえたから、さっきのやつは口パクだったんだね。



❀     ❀     ❀




学校の中を一通り一周し終えた。

……特にそうだね。教室は前世の学校とあまり変わらなかったかな。

てことは、受ける授業もだいたい一緒なんだ。もっと他にあるかと……。

と思ったけど、あるね。


男子は剣の稽古や物理的戦闘術に励む一方、女子は淑女の嗜みであるダンスやらマナーに励むという、アニメではお馴染みの設定。

セドリックからこれらの説明は特になかったけど、外で男子たちが剣を振ってるの見ちゃった。

やっぱり異世界はそうでなくちゃね!!

でも私も一応女だし、あんな麗しい姫君たちみたいに器用なことできるかなぁ……。



「じゃあ、一通り見たし教室に戻ろう」



❀     ❀     ❀



「私、ソフィアって言うの! あなたは?」

「さ、さくらです」

「サクラ……ここらでは聞かない名前ね。この国出身ではないの?」

「え、は、はい。その……東の国から来まして……」

異世界転生ではもう定番と言って良い、「東の国から来た」という台詞。

なんと使い勝手の良い言葉なんだろう。

「あら、そんなにかしこまらくて大丈夫よ。それじゃあ、よろしくね。サクラ」

スラっと伸び、私とは比べ物にならないほどの綺麗な手が差し出される。

なるほど。美人は手先まで手入れしているのね。

それにしても……柔らかそうだなぁ。



教室での自己紹介を終えた私。

三十人ほどの観衆の前で喋らすとか、なんの拷問?


その数秒の間の記憶がまるでない。怖い。

気づいたら拍手喝采だし、セドリックはフフッと笑ってるだけだし。

セドリックの笑顔はイケメンはもちろんだけど、ちょっとだけ怖い部分もあるというか。

ほ、ほら、美しさは怖さを引き立たせるって言うしね。



それでその後は、前の席の女子生徒「ソフィア」に話しかけられ、今これ。



さっきから冷や汗が止まらない。手汗もバンバン出てるし。

でも今思えば、セドリックとかと初めて話した時、こんなに緊張はしなかったな。

したはしたけど、美形過ぎてそれどころじゃなかったというか、急に「許嫁になってくれ!!」(精一杯のイケボ)とか言うもんだから、緊張どころの騒ぎじゃなかったんだよね。



「は、はいい……よろ、よろしくおね、お願いします」



て、手汗大丈夫だったかな? 会話は成り立ってるかな? 変なこと言ってないよね? 

で、でも彼女の表情からは大丈夫そうに思える。



もうすぐ授業だし、今は朝みたいに群がってはこないものの、休憩時間とか大変だ。

あの人数をうまく捌くのが今日の重大ミッション。

「コミュ障」&「引きこもり」だった私。果たして、ミッションクリアなるか!?



異世界の学校という箱の中。

私、桃原さくら、これから頑張らせていただきます。



ところで……。



(セドリックのこと大人の人だと思ってたけど、普通に同級生だったんかい!!)


これで第1章は終わりです。

次回から第2章に入ります。

どうか、さくらの成長とセドリックの戦いを気長に見守ってあげてください。


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