第46話 推し活会議、緊急開催
人は、追い詰められると会議を開く。
少なくとも、前世のわたくしはそうだった。
仕事が詰まる。
進捗が遅れる。
上司が「一度整理しよう」と言う。
会議室に集まる。
結局、作業時間が削られる。
あれは何だったのだろう。
しかし今、わたくしは同じことをしている。
恋が分からない。
王太子殿下への答えが分からない。
レオンハルト様の言葉が心臓に悪い。
舞踏会が迫っている。
ならば、一度整理しよう。
つまり。
「推し活会議を開催します」
わたくしが宣言すると、リタは盆を持ったまま一瞬だけ止まった。
セシリア様は、両手を胸の前で合わせて目を輝かせた。
「推し活会議……!」
反応が正反対である。
本日の会議場は、ロゼリア公爵邸の小サロン。
母が「女の子同士でゆっくり話すならここがいいわ」と貸してくれた部屋だ。
淡いクリーム色の壁紙。
丸い小卓。
花柄の茶器。
焼き菓子、果物の砂糖漬け、ふわふわの小さなパン。
完全に女子会である。
そして参加者は、わたくし、セシリア様、リタ。
王太子殿下も、グランツ卿も、レオンハルト様もいない。
いないのに、話題の中心には全員いる。
本人不在の会議。
前世なら、これはかなり盛り上がるやつだ。
ただし今回は、議題がわたくしの人生である。
重い。
「お嬢様」
リタが紅茶を置きながら言った。
「確認いたしますが、本日の会議は推し活会議ではなく、恋愛相談でございますね」
「違うわ」
「違うのですか」
「推し活会議です」
「議題は?」
「わたくしの現在の感情整理および舞踏会に向けた行動方針について」
「恋愛相談です」
「推し活会議です」
「お嬢様」
「はい」
「言葉を変えても現実は変わりません」
「現実禁止令」
「却下でございます」
今日も禁止令は秒で却下された。
セシリア様が、少し不安そうにこちらを見る。
「あの、ミリア様。推し活会議と恋愛相談は、違うものなのですか?」
「違いますわ、セシリア様」
「どう違うのでしょう」
「推し活会議は、尊いものを守り、観測し、今後の供給に備えるための神聖な会議です」
「神聖……!」
「恋愛相談は、自分の心臓をどう扱えばよいか分からない者が助けを求める場です」
「では、今日は両方では?」
セシリア様。
直球。
しかも、かなり正しい。
リタが静かに頷いた。
「セシリア様のおっしゃる通りかと」
「味方がいない」
「おります。お嬢様の味方です」
「味方なら、もう少し逃げ道を」
「逃げ道ではなく帰り道を整えるのが本日の役目です」
リタは淡々とカップを並べた。
セシリア様は真剣な顔で頷く。
「私も、ミリア様の帰り道になります」
「セシリア様……」
「ですから、何でもお話しください。王太子殿下のことでも、グランツ卿のことでも、レオンハルト様のことでも」
優しい。
可愛い。
強い。
ヒロイン様、今日も尊い。
わたくしは胸を押さえた。
リタがすぐに言う。
「お嬢様、今は尊さに倒れる時間ではございません」
「少しだけ」
「議題が進みません」
「厳しい」
仕方なく、わたくしは手帳を開いた。
そこには、ここ最近の記録がぎっしり書かれている。
推しを人間として見るのは難しい。
騎士団長様、解釈一致です。
逃げたい相手は、たぶん私自身です。
冷血公爵様は泣き顔にも優しい。
侍女リタ、最強の壁になる。
母上、動きが早すぎます。
父上、胃薬を飲む。
一ヶ月後の舞踏会、逃げ場なし。
望まれるということ。
改めて並べると、情緒が忙しすぎる。
わたくしは本当に一人の人間なのか。
中に複数人住んでいないか。
「まず、現状整理です」
リタが言った。
「お嬢様は、王太子殿下との婚約について一ヶ月後の舞踏会で答えを出す必要があります」
「はい」
「王太子殿下は、お嬢様を大切に思っておられます。ただし、王太子妃の立場へ閉じ込めたいわけではない」
「はい」
「グランツ卿は、殿下を支えることを自分で選んでおられます。お嬢様はそこを理解し始めました」
「はい」
「セシリア様は、お嬢様を大切に思っておられます」
「私、大切に思っています!」
セシリア様が力強く頷く。
その勢いに心が浄化される。
「そして、ヴァイスベルク公爵様は、お嬢様を望んでおられます」
「リタ!」
「ここが本日の主題かと」
「言い方!」
「事実ですので」
リタは容赦なく紅茶を差し出した。
わたくしはカップを持った。
手が少し熱い。
紅茶のせいだけではない。
セシリア様が、そっと身を乗り出す。
「ミリア様」
「はい」
「レオンハルト様に、何と言われたのですか?」
純粋な目。
好奇心と心配が混ざっている。
この目で聞かれたら、逃げられない。
「……私のどこがいいのか、と聞きました」
「聞いたのですね!」
「はい」
「すごいです、ミリア様!」
「すごいのでしょうか」
「すごいです。私だったら、心臓が口から出てしまいそうです」
「私もかなり出かけました」
「それで、レオンハルト様は?」
セシリア様の目が輝いている。
この顔は、完全に恋バナを聞く少女の顔だ。
ヒロイン様が恋バナを聞く側にいる。
状況が逆では?
「最初は、怪しいと思ったそうです」
「怪しい」
「変だとも言われました」
「変」
「かなり変だとも」
セシリア様が、少し困ったように眉を下げた。
「レオンハルト様、正直すぎます」
「本当に」
リタが横から言う。
「ですが、否定は難しいかと」
「リタ」
「はい」
「そこは否定して」
「お嬢様は、変ではございます」
「味方」
「ですが、そこが魅力でもございます」
「慰めになっているようで、なっていないわ」
セシリア様が真面目に頷く。
「ミリア様は、少し変わっていらっしゃいます」
「セシリア様まで」
「でも、そこが素敵です」
まっすぐ言われた。
わたくしは言葉に詰まった。
「だって、普通の令嬢なら、私にあんなふうに手を伸ばしてくださらなかったかもしれません。私をヒロイン様と呼んで、拝むようなお顔をされるのは少し不思議ですけれど」
「そこは忘れてください」
「忘れられません」
「皆、忘れてほしいことほど覚えますね」
「でも、私は嬉しかったのです」
セシリア様は、そっとカップを両手で包んだ。
「ミリア様は、私をただの聖女候補として見ませんでした。王太子殿下の恋のお相手として敵にすることもありませんでした。変わっているけれど、優しくて、まっすぐで、時々ものすごく難しい言葉をおっしゃって」
「難しい言葉」
「推し活とか、供給とか、解釈一致とか」
「布教が進んでいる」
「でも、そういう言葉を言う時のミリア様は、とても楽しそうです」
セシリア様の声は柔らかかった。
「私は、そのお顔が好きです」
胸が、じんわり熱くなる。
今日の会議は、心臓にも涙腺にも悪い。
「セシリア様……」
「だから、レオンハルト様がミリア様のそういうところを好きだとおっしゃるなら、私はとてもよく分かります」
「待ってくださいませ」
「はい?」
「今、自然にレオンハルト様側に」
「はい」
はい、と言った。
迷いなく。
「セシリア様は、レオンハルト様を推していらっしゃるのですか?」
「はい!」
即答だった。
リタも小さく頷く。
「私も有力候補として見ております」
「二対一」
「お嬢様は、まだ一対一だと思っておられたのですか」
「どういう意味?」
「お嬢様対恋心です」
「恋心を独立勢力にしないで」
「既にかなり勢力を伸ばしております」
「戦況分析みたいに言わないで」
リタは小卓の上に、なぜか白い紙を置いた。
え。
なぜ紙が。
「リタ」
「はい」
「それは?」
「簡単な整理表でございます」
「いつの間に」
「今朝」
「準備が良すぎる」
「会議ですので」
紙には、几帳面な字で項目が並んでいた。
『ミリア様の現在の感情戦況』
一、王太子殿下への敬意と罪悪感。
二、王太子妃という立場への恐怖。
三、レオンハルト様への好意。
四、推し活を失いたくない気持ち。
五、自分が望まれることへの恐怖。
六、逃げ癖。
七、恋の自覚不足。
わたくしはそっと紙を裏返した。
「見なかったことに」
リタがすぐ戻した。
「なりません」
「強い」
「会議ですので」
「会議、怖い」
セシリア様が紙を覗き込み、真剣な顔をする。
「リタさん、三番のレオンハルト様への好意は、もっと大きく書いた方がよいのでは?」
「セシリア様」
「そうですね。現状、三番は上昇傾向です」
「リタまで」
「ここ数日の発言と表情から判断すると、好意はかなり伸びております」
「何を分析しているの」
「恋です」
「そのまま」
リタはさらに続ける。
「王太子殿下への敬意と罪悪感は大きいですが、恋愛感情としてはレオンハルト様が優勢かと」
「優勢」
「いえ」
リタは少し考えた。
「恋は劣勢……いえ、お嬢様の抵抗が劣勢です」
「抵抗?」
「恋そのものは優勢です」
「待って」
「より正確に申し上げるなら、お嬢様は既にかなり負けております」
「負けているの?」
「はい」
セシリア様が小さく手を挙げた。
「私は、完敗に近いと思います」
「セシリア様!」
「すみません。でも、ミリア様、レオンハルト様のお話をされる時、とてもお顔が赤くなりますし、手帳にもたくさん書いていらっしゃいますし、手紙を読む時も、とても大切そうに」
「見られている」
「ミリア様が大切なので、見てしまいます」
そんな可愛い理由で逃げ道を塞がないでほしい。
リタが頷いた。
「セシリア様のご意見に同意いたします。お嬢様の恋は、劣勢というより完敗寸前かと」
「完敗寸前」
「ただし、ご本人がまだ敗北宣言をなさっておりません」
「恋は戦なの?」
「ある意味では」
「母上みたいなことを言う」
わたくしは両手で顔を覆った。
会議とは、こんなに容赦のないものだっただろうか。
前世の会議も厳しかったが、ここまで心臓を直接叩いてくるものではなかった。
「では」
わたくしは顔を上げた。
「仮に、仮によ」
「はい」
リタとセシリア様が同時に返事をした。
息が合っている。
怖い。
「私がレオンハルト様に好意を持っているとして」
「はい」
「はい!」
「元気が良い」
「嬉しくて」
セシリア様が頬を染める。
なぜ本人より嬉しそうなのか。
「それでも、殿下のことがあります」
「はい」
リタの表情が少し真面目になる。
セシリア様も背筋を伸ばした。
「ユリウス殿下は、とても誠実です。嫌な方ではありません。私を悪役にしようとなさらなかった。私に考える時間をくださった。殿下の気持ちも、ちゃんと向き合わなければなりません」
「はい」
「王太子妃という立場は怖いけれど、殿下を傷つけたいわけではありません」
「はい」
「だから、ただレオンハルト様が好きかもしれない、というだけで決めてよいのか分からないのです」
言ってから、胸が重くなった。
セシリア様が、ゆっくり頷く。
「ミリア様は、殿下を大切に思っていらっしゃるのですね」
「はい」
「それは、恋ですか?」
静かな問いだった。
わたくしは、すぐには答えられなかった。
ユリウス殿下。
金色の髪。
優しい笑顔。
時々、少し寂しそうな目。
王太子としての重責。
ダリオ様と木剣を交える時の、少年のような顔。
彼を大切に思う。
それは本当。
でも、レオンハルト様を思い出す時のように、心臓が暴れるだろうか。
彼に望まれることを考えて、怖いのに嬉しいと思うだろうか。
わたくしは、ゆっくり首を横に振った。
「……分かりません。でも、たぶん、違うのだと思います」
言った。
初めて、はっきり言った気がする。
「殿下のことは大切です。尊敬しています。申し訳ない気持ちもあります。でも、レオンハルト様の時のような、怖いのに会いたいとか、困るのに嬉しいとか、そういうぐちゃぐちゃしたものとは少し違う気がします」
「ぐちゃぐちゃ」
リタが静かに復唱する。
「お嬢様にしては、非常に正直なお言葉です」
「もっと綺麗な言い方をしたかったわ」
「恋は綺麗に整列しませんので」
セシリア様が、少しだけ微笑んだ。
「ミリア様」
「はい」
「殿下を大切に思うことと、殿下を選ぶことは、同じではないのかもしれません」
胸に、言葉が落ちた。
「私、殿下のことも、グランツ卿のことも、まだよく分からないことばかりです。でも、ミリア様が殿下を大切に思うからこそ、嘘をつかない方がよいのだと思います」
「嘘」
「はい。殿下のために、と言って、ミリア様がご自分の気持ちを隠して隣に立つのは、きっと殿下も望まないと思います」
セシリア様の言葉は優しい。
でも、芯がある。
わたくしは、少し泣きそうになった。
「セシリア様は、強くなりましたね」
「え?」
「最初にお会いした頃より、ずっと」
セシリア様は少し照れたように笑った。
「ミリア様が、私を何度も助けてくださったからです」
「私はそんな」
「助けてくださいました」
セシリア様は、まっすぐ言った。
「だから今度は、私もミリア様が逃げないように、少しだけお手伝いしたいのです」
「皆様、逃げないようにと言いますね」
「ミリア様、逃げそうですので」
「セシリア様まで」
「はい」
可愛い顔で、容赦がない。
リタが満足そうに頷いた。
「セシリア様、非常に的確です」
「ありがとうございます、リタさん」
「連携しないで」
二人は完全に味方である。
そして味方だからこそ、逃がしてくれない。
わたくしは紅茶を飲んだ。
甘い。
リタが蜂蜜を入れたのだろう。
「では、議題を整理します」
リタが紙を改めて置いた。
「一、王太子殿下には、最後の茶会で誠実に向き合う」
「はい」
「二、レオンハルト様への気持ちは、否定しきれないところまで来ている」
「言い方」
「三、舞踏会では、誰かのために自分を消す選択はしない」
「……はい」
「四、推し活は継続」
「そこも入るの?」
「お嬢様には重要です」
「重要です!」
セシリア様が力強く頷く。
「ミリア様が推し活をやめたら、ミリア様ではありません」
「セシリア様」
「私、まだ推し活の全部は分かりません。でも、ミリア様が何かを大切に見つめて、嬉しそうに語るのは好きです」
レオンハルト様と同じようなことを言う。
胸が熱い。
皆、わたくしの好きなものを笑わない。
むしろ、大切にしてくれる。
それが嬉しくて、怖くて、やっぱり少し泣きそうになる。
「では、五つ目」
リタが言う。
「お嬢様は、幸せになる努力をする」
「リタ」
「最重要項目です」
「……はい」
「返事が小さいです」
「はい」
「よろしいかと」
セシリア様が両手を握る。
「私も応援します。ミリア様がどの道を選んでも、ミリア様がミリア様として笑えるように」
「セシリア様……」
「でも」
「でも?」
セシリア様は、少し頬を赤くした。
「個人的には、レオンハルト様を応援しています」
「また!」
「だって、ミリア様がレオンハルト様のお話をされる時、本当に可愛いのです」
「可愛い?」
「はい。困って、怒って、照れて、でも嬉しそうで」
「私が?」
「はい」
セシリア様はにこにこしている。
「それに、レオンハルト様はミリア様を笑わない方です。そこが、とても素敵だと思います」
言葉が胸に染みる。
君の好きなものを、私は笑わない。
その言葉が、どれほど大きな目印になっているのか。
自分で思っていた以上に。
「……そうですね」
わたくしは小さく言った。
「そこは、とても大事です」
リタが静かに頷いた。
「では、推し活会議としての結論を」
「恋愛相談ではなく?」
「お嬢様がそう言い張るのであれば、推し活会議で」
「言い張る」
「はい」
リタは紙にさらさらと書く。
『結論
ミリア様は、王太子殿下へ誠実に向き合う。
レオンハルト様への好意は、否定ではなく観察対象とする。
ただし、逃げるための観察は禁止。
推し活は継続。
幸せになる努力を怠らない。』
「観察対象」
わたくしは少し笑った。
「恋を観察するの?」
「お嬢様には馴染みやすいかと」
「自分の恋を観測する令嬢」
「ただし、観測だけで終わらせてはいけません」
「厳しい」
「参加者ですので」
参加者。
その言葉にも、もう以前ほど抵抗できない。
壁ではなく。
観測者だけでもなく。
参加者。
ミリア・ロゼリアとして。
「リタ」
「はい」
「セシリア様」
「はい」
「今日、会議を開いてよかったです」
わたくしが言うと、セシリア様はぱっと笑った。
「私もです!」
リタは静かに頷く。
「進展がございました」
「完敗寸前と分析されたことは、まだ納得していません」
「では、完敗手前で」
「ほぼ同じ」
「恋は優勢です」
「リタ」
「はい」
「せめて、恋は接戦で」
「お嬢様」
「何?」
「ご自分でも、無理があると思っておられますね」
「……思っています」
「よろしいかと」
セシリア様が嬉しそうに笑う。
なんだかもう、二人とも容赦がない。
でも、その容赦のなさが温かい。
会議の終わりに、セシリア様が焼き菓子を一つ手に取った。
「あの、ミリア様」
「はい」
「この焼き菓子、半分こしませんか?」
半分。
その言葉に、心臓が跳ねた。
レオンハルト様と東屋で半分にした焼き菓子を思い出したからだ。
セシリア様が、すぐに気づく。
「あっ」
「違います」
「私、今、何か思い出させてしまいましたか?」
「違いますわ」
「お顔が赤いです」
「焼き菓子の熱です」
「焼き菓子は冷めております」
リタが淡々と刺す。
「お嬢様、完敗手前です」
「言わないで!」
結局、焼き菓子は三人で分けた。
セシリア様は楽しそうに笑い、リタは「甘さは控えめでよろしいかと」と実用的に評価し、わたくしは心の中で、半分の焼き菓子の記憶にまた少し悶えた。
夜。
セシリア様が帰った後、わたくしは手帳を開いた。
『推し活会議、緊急開催。
参加者、私、セシリア様、リタ。
議題、私の現在の感情整理および舞踏会に向けた行動方針。
リタいわく恋愛相談。
私は推し活会議だと主張。
結果、両方だった。』
少し笑いながら書く。
『セシリア様は、全力でレオンハルト様推しだった。
リタは、恋は優勢、私の抵抗は劣勢、ほぼ完敗手前と分析した。
味方が容赦ない。
でも、二人とも私を笑わなかった。
私の好きなものも、私の怖さも、私のぐちゃぐちゃした気持ちも、ちゃんと見てくれた。』
さらに書く。
『殿下を大切に思うことと、殿下を選ぶことは同じではない。
セシリア様の言葉が刺さった。
私は殿下に誠実でありたい。
だからこそ、自分の気持ちに嘘をついてはいけない。
レオンハルト様への好意は、否定ではなく観察対象とする。
ただし逃げるための観察は禁止。
参加者として考える。』
最後に、一行。
『推し活は継続。
幸せになる努力も継続。
恋は、たぶん、かなり優勢。
まだ敗北宣言はしない。
でも、旗は少し傾いている。』
書き終えたところで、リタが後ろから言った。
「お嬢様」
「なに?」
「旗は、ほぼ倒れているかと」
「読んだわね」
「顔に出ておりました」
「顔に旗まで出るの?」
「はい」
「万能すぎるわ、私の顔」
リタは小さく笑った。
わたくしも笑った。
会議は終わった。
答えは、まだ出ていない。
でも、何を大切にしなければならないのかは、少し見えてきた。
王太子殿下には誠実に。
レオンハルト様には逃げずに。
セシリア様には感謝を。
リタには……時々、手加減を求めたい。
そして、自分には。
幸せになる努力を。
推し活会議。
名前は少し変だったけれど、開いてよかった。
ただし、次回開催時は、恋の戦況分析表だけは事前に没収したい。




