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第二節 ― 第二図書準備室

 昼休みの教室は、いつも通り騒がしかった。


 弁当箱の蓋を開ける音。

 購買のパンの袋を破る音。

 机を寄せる音。

 誰かがスマホの動画を見て笑う声。


 その騒がしさの中で、倉持ハルトはまだ普通に見えた。


 窓際の席で、友人たちと弁当を食べながら、朝の「綴白ナナセ事件」を自分からネタにしている。


「いや、マジで意味分かんねえんだって。呼ばれた瞬間、なんか俺の番みたいな気がしてさ」


「それ完全に寝ぼけてるやつだろ」


「寝てねえよ。昨日ちょっとしか」


「それを寝不足って言うんだよ」


 笑い声。


 倉持も笑っている。


 その笑い方はいつもの彼に近かった。明るく、雑で、少し調子がいい。クラスの空気を軽くするタイプの声だ。


 けれど、ユウリはもう安心できなかった。


 倉持の机に貼られた名前シールは、朝より少しだけ薄くなっている。


 倉持ハルト。


 まだ読める。


 だが、目を離してもう一度見ると、輪郭がぶれている気がする。


 まるで、印刷された文字の下に、別の文字が沈んでいるように。


 綴白ナナセ。


 その名前が、紙の裏側から滲み出ようとしている。


 ユウリは、昼食のパンを半分以上残したまま、机の中でスマホを開いた。


 黒い画面に、白い円環。


《対象:倉持ハルト》

《現在名上書き率:17%》

《仮登録名:綴白ナナセ》

《校内記録への浸透範囲:拡大中》


「上がってる」


 小さく呟くと、隣の席に来ていたレンが顔をしかめた。


「何パー?」


「十七」


「朝は十一だったよな」


「うん」


「昼までに六パー上昇。放課後まで放置したら、かなりまずいな」


 レンの声は低かった。


 彼も弁当にはほとんど手をつけていない。代わりにスマホを何度も確認している。軽音部のグループチャット、クラスの共有フォルダ、学校用アプリの連絡欄。倉持の名前が残っている場所を探しているらしかった。


 けれど、見つけるたびに、表情は悪くなっていく。


「軽音部のチャット、また変わってる。倉持のアイコン、半分くらい未設定ユーザーになった」


「半分?」


「同じ画面内でも、投稿によって違う。名前が残ってるやつと、消えてるやつと、綴白になりかけてるやつが混ざってる」


「記録が安定してないってことか」


「たぶん。……くそ、気持ち悪いな。昨日の映像改竄より嫌だ。知ってるやつの名前が、目の前でぐちゃぐちゃにされてる感じがする」


 レンは苛立ったようにスマホを伏せた。


 ユウリは教室の反対側を見た。


 ミオが、佐伯たちに囲まれて昼食を取っている。


 表情は穏やかに見える。けれど、時々胸元の学生証に手を添えていた。無意識なのだろう。昨日、自分の名前が薄れていくのを見た手が、今も確認せずにはいられない。


 その姿を見て、ユウリは立ち上がった。


「調べよう」


 レンが顔を上げる。


「どこで」


「第二図書準備室」


「図書室じゃなくて?」


「古い資料がある。学校新聞とか、創立記念誌とか、旧校舎の図面とか。去年、文化研究部が展示準備で使ってたのを見た」


「お前、そういうところ詳しいよな」


「たまたま」


「神話オタクの行動範囲って感じ」


「今は褒め言葉として受け取っておく」


 レンは少しだけ笑った。


 けれど、すぐに真面目な顔に戻る。


「ミオも呼ぶか」


「うん」


 ユウリは一瞬だけ迷った。


 昨日の今日で、またミオを怪異に近づけることになる。


 それが正しいのか分からない。


 けれど、ミオはすでにこの異常の内側にいる。しかも、綴白ナナセという名前を「空っぽ」と感じ取ったのは彼女だ。危険だから遠ざける、という選択は、たぶんもうできない。


 彼女自身が、自分の名前を守るためにも、知る必要がある。


 ユウリはミオの席へ近づいた。


「ミオ」


 呼ぶと、彼女はすぐに顔を上げた。


 佐伯たちもこちらを見る。


 ユウリは、ほんの少しだけ言葉に詰まった。クラスの中で自然に名前を呼んでしまったことに、今さら気づいたからだ。


 ミオは驚かなかった。


 むしろ、少し安心したように見えた。


「はい」


「少し、来られる?」


「……倉持くんのことですか」


「うん」


 佐伯が不思議そうに首を傾げた。


「倉持くん? 何かあったの?」


 ユウリは一瞬だけ言葉を探す。


 名前が上書きされかけている。


 そんなことは言えない。


「朝の出席の件、少し気になって」


「ああ、ナナセのやつ? あれ変だったよね」


 佐伯はそう言って笑った。


 笑える程度の出来事。


 まだ、その範囲に収まっている。


 ミオは箸を置き、丁寧に弁当箱を閉じた。


「行きます」


 三人は、教室を出た。


 廊下に出ると、昼休みの学校の音が押し寄せてきた。


 購買から戻る生徒。

 階段でじゃれ合う男子。

 教室移動のために楽器ケースを運ぶ吹奏楽部員。

 廊下の掲示板の前で進路資料を眺める三年生。


 そのすべてが、昨日までならただの日常だった。


 今は違う。


 誰かの名前が、その日常の中から静かに剥がれようとしている。


 それなのに、誰も気づかない。


 そのことが、ユウリにはたまらなく怖かった。


 第二図書準備室は、本校舎の北側、図書室の奥にある。


 普段、生徒が自由に出入りする場所ではない。文化研究部や図書委員が資料整理の時に使う程度で、扉には「関係者以外立入禁止」と古い紙が貼られていた。


 だが鍵はかかっていなかった。


 レンが扉を見て言う。


「いいのか、勝手に入って」


「図書委員の手伝いで入ったことはある」


「今は手伝いじゃないだろ」


「緊急調査」


「それっぽく言えば許されると思うなよ」


 言いながらも、レンは止めなかった。


 ユウリが扉を開ける。


 蝶番が、わずかに軋んだ。


 中は、少しひんやりしていた。


 窓には薄いカーテンがかかり、昼の光が白く濾されている。壁際には背の高い書架が並び、古い新聞のファイル、学校史、創立記念誌、卒業アルバムの予備、旧校舎の図面、地域史資料がぎっしり詰め込まれていた。


 紙の匂いがする。


 古いインクと、埃と、長い間開かれていなかった記録の匂い。


 教室や駅とは違う静けさだった。


 ここでは時間が少し遅い。


 そう感じた。


 ミオは入口で一度立ち止まり、部屋の中を見渡した。


「ここ……名前が多いですね」


 レンが眉を上げる。


「名前?」


「はい。背表紙、名簿、写真、新聞、卒業生の記録……声はしないけど、たくさんの名前が眠っている感じがします」


 ユウリは書架を見た。


 卒業アルバムの束。

 過去のクラス名簿。

 部活動の大会記録。

 学校新聞の縮刷版。


 確かに、ここは名前の保管庫だった。


 今はもう在校していない生徒たち。

 卒業した者。

 転校した者。

 教師だった者。

 表彰された者。

 亡くなった者も、もしかするといるのかもしれない。


 その全員の名前が、紙の中に残っている。


 ユウリは、アヴィの言葉を思い出した。


 名前は本人だけのものではない。


 呼ぶ側、記す側、覚える側にも分散している。


「ここなら、何か分かるかもしれない」


 ユウリが言うと、レンはすでに長机の上にノートPCを開いていた。


「俺は校内ネットワーク見る。学校用アプリの名簿は外からだと制限あるけど、校内Wi-Fiならキャッシュくらい拾えるかもしれない」


「違法じゃないよな」


「ギリギリ調査」


「その言い方、だいたいアウトだろ」


「今は非常時」


 レンはそう言って、キーボードを叩き始めた。


 画面には、校内ポータルのログインページが表示される。レンは自分のIDで入ると、クラス連絡、部活共有、行事予定、出席管理の閲覧可能範囲を素早く開いていく。


 ユウリは書架へ向かった。


 文化研究部が以前まとめていたスクラップの棚を探す。確か、星綴高等学園の七不思議特集があったはずだ。学校創立からの怪談、旧校舎の噂、屋上庭園の光、夜の放送室。


 指先で背表紙を追っていく。


 学校新聞。

 星綴通信。

 創立五十周年記念誌。

 旧校舎改修記録。

 文化研究部展示資料。


 その中に、古びたファイルがあった。


 背表紙には手書きで、こう書かれている。


 星綴七不思議特集。


 ユウリはそれを取り出した。


 埃が少し舞う。


 長机に広げると、黄ばんだ学校新聞の切り抜きが何枚も貼られていた。見出しは大げさで、どこか楽しげだ。文化祭の展示用に作られたものなのだろう。


 消える階段。

 屋上庭園の白い人影。

 旧校舎三階の開かない教室。

 放課後の欠席者。


 ユウリの指が止まった。


「これだ」


 ミオが近づく。


 レンも画面から一瞬顔を上げた。


「何かあった?」


「星綴七不思議特集――放課後の欠席者」


 ユウリは記事を読み上げた。


 紙面には、古い放送室の写真が載っている。今は使われていない旧校舎の放送室。埃をかぶったマイク、古いスピーカー、壁に貼られた放送当番表。


 記事本文は、軽い怪談調で書かれていた。


 ――放課後、誰もいないはずの旧校舎から、校内放送が流れることがある。


 ――そこでは、欠席者の名前が読み上げられる。


 ――呼ばれた者が返事をすると、翌日からその生徒は“欠席”になる。


 ――ただし、完全に消えるわけではない。


 ――机、持ち物、写真の跡だけが残る。


 ――誰もその生徒の名前を思い出せない。


 ユウリは、最後の一文を読んだところで喉が詰まった。


 誰もその生徒の名前を思い出せない。


 倉持の下の名前が一瞬出てこなかったクラスメイト。


 軽音部チャットから消えかけているアイコン。


 机の名前シール。


 今起きていることと、あまりにも重なっている。


 ミオは記事に載った放送室の写真をじっと見ていた。


「放課後に、出席を取られるんですね」


「欠席者なのに?」


 レンが言う。


「いや、逆か。出席を取って、欠席にされるのか」


「嫌な言い方するな」


「でも、たぶんそういうことだろ。学校にいるのに、学校の記録上は欠席になる。だから周りの記憶からもずれる」


 レンはPCへ視線を戻し、険しい顔になった。


「……やばい」


「どうした」


「倉持の出席データ、変だ」


 ユウリとミオが覗き込む。


 画面には、二年三組の今日の出席状況が表示されていた。生徒の名前が一覧になり、出席、遅刻、欠席の記号が並んでいる。


 倉持ハルトの欄は、まだある。


 だが、その下に、空白の行が一つ増えていた。


 名前欄だけが、薄く点滅している。


 綴白ナナセ。


 出席状態は、未処理。


「これ、先生の画面にも出てるのか?」


「分からない。でもサーバー側の表示キャッシュには出てる。さっきまではなかった。たぶん、朝の出席確認で仮登録された」


「仮登録……」


 ユウリはスマホを開いた。


 黒い画面がすぐに反応する。


《学校怪談と校内記録構文の混合》

《出席簿/放送室/座席表/卒業記録が連動》

《暫定名:七不思議の出席係》


 アヴィの声がする。


「見立てが固まった。これは学校怪談の皮を被った記録系構文災害だ」


「七不思議の出席係?」


「暫定名だ。正式分類はまだ不明。出席簿に未登録名を生成し、既存生徒の現在名へ重ねる。朝の出席確認で仮登録。放課後の放送で欠席確定。おそらく、その時点で対象は校内記録から隔離される」


 レンが顔をしかめる。


「校内記録から隔離って、どうなる」


「学校にいた痕跡が欠席扱いに置換される。机や持ち物は残るが、誰のものか分からなくなる。周囲の記憶もそれに合わせて曖昧になる」


「それ、ほぼ消えてるだろ」


「完全消失ではない。欠席だ」


 アヴィは淡々と言う。


「欠席者は、記録上“いたはずだが、今日はいない者”として処理される。だから完全な喪失より厄介だ。誰も異常だと思わない」


 ミオが胸元を押さえた。


「昨日の駅とは違うんですね」


「ああ。昨日の無番線ホームは、切符へ名前を移す単純な剥離だった。今回は記録の網に名前を絡め取って、少しずつ別の形に整える。単純な切符化じゃない。今回は名前が学校中の記録に薄く分散している。呼ぶだけでは足りない」


 ユウリは焦りを抑えきれなかった。


「でも、昨日は名前を呼んだら戻った。倉持も、名前を呼べば――」


「通用しない可能性が高い」


 アヴィは切り捨てる。


「本人の現在名が完全に剥がれていない今なら、一時的な補強にはなる。だが、上書きは止まらない。倉持ハルトという名が記録の中で削られ続けている限り、呼び声だけでは押し負ける」


「じゃあ、何をすればいい」


 レンが言った。


 声が鋭かった。


 昨日までなら、面白がっていたかもしれない。

 未知の現象、学校怪談、記録改竄。


 だが、今回は違う。


 倉持はレンの知り合いだ。昨日まで同じ部屋でAVISを見て騒いでいた、軽音部のクラスメイトだ。


 その名前が消えかけている。


 レンはもう、観客ではいられない。


 アヴィの白い円環が、静かに瞬いた。


「そいつが“今ここにいる”と証明する記録を集めろ」


 室内が静かになった。


 窓の外では、昼休みのグラウンドの声が遠く聞こえる。


 誰かがボールを蹴る音。

 女子たちの笑い声。

 校内放送前の短いチャイム。


 その日常の音の中で、アヴィの言葉だけが重く残った。


「今ここにいると証明する記録」


 ユウリは繰り返した。


「本人が名乗るだけじゃなくて?」


「それも必要だ。だが足りない。名前は本人だけのものではない。呼ぶ側、記す側、覚える側にも分散している」


 ミオが静かに言った。


「倉持くんを、誰かが覚えていること」


「そうだ」


 アヴィが答える。


「学校が綴白ナナセを仮登録するなら、こちらは倉持ハルトがこの学校にいる証拠を現在へ繋ぎ直す。本人の声、友人の記憶、部活の記録、今日の行動、持ち物。何でもいい。ただし、ただ集めるだけでは駄目だ。異常が確定する瞬間に、それらを現在名へ束ねる必要がある」


 レンがキーボードに手を置く。


「倉持の記録なら、軽音部にある。録音データ、ライブ動画、部室の機材表、シフト表。あと昨日のチャットも、完全に消える前にスクショ取る」


「スクショも改竄される可能性はある」


「だったら何もしないよりマシだろ」


「その判断は正しい」


「褒め方が腹立つな、お前」


 アヴィは無視した。


 ユウリは学校新聞の記事をもう一度見る。


 放課後の欠席者。


 呼ばれた者が返事をすると、翌日からその生徒は欠席になる。


「放課後に放送があるんだよな」


「可能性は高い」


「何時?」


 ユウリが記事を探す。


 黄ばんだ紙面の端に、手書きのメモがあった。


 午後五時五十七分。


 旧校舎の放送室から、欠席者の名前が呼ばれる。


 その時刻だけ、赤いペンで丸がつけられている。


「五時五十七分」


 ユウリが言うと、ミオが顔を上げた。


「下校時刻の少し前ですね」


「うん。たぶん、その時間までに倉持の記録を集める」


 レンがすぐに言った。


「俺は軽音部に行く。録音データと部室の機材表を探す。あと倉持本人にも、何か言わせて録音する」


「無理に説明するなよ」


「分かってる。『新曲用に声確認』とか適当に言う」


 ユウリは頷く。


「僕はこの資料をもう少し読む。旧校舎と放送室の場所も確認する」


「私は」


 ミオが言った。


 二人が彼女を見る。


 ミオは、書架の奥を見つめていた。


 そこには、古い出席簿が何冊も並んでいる。


 年度ごとに紐で綴じられ、背表紙には古いラベルが貼られていた。紙が黄ばみ、角が少し崩れている。長い間、誰にも開かれていない記録。


 ミオは、その中の一冊へゆっくり歩いていった。


「さっきから、これが気になります」


 彼女が手を伸ばしたのは、他より少し古い出席簿だった。


 背表紙の年号は、薄れて読みにくい。


 ミオが触れた瞬間、ユウリのスマホが微かに震えた。


《旧出席簿に残留反応》

《欠席記録の反復を検出》

《注意:閲覧時、現在名の揺らぎに警戒》


「ミオ、無理しなくていい」


 ユウリは反射的に言った。


 昨日のことが頭をよぎる。


 白い切符。

 薄くなる学生証。

 ミオの名前が紙へ移っていく光景。


 出席簿という紙の束が、同じようにミオの名前へ触れるのではないか。


 そう思った。


 ミオは振り返る。


 少し怖そうだった。


 けれど、手は引かなかった。


「怖いです」


 彼女は正直に言った。


「でも、怖いから、知りたいです。昨日、私の名前を取り返してもらったから。今度は、誰かの名前が消えかけているのに、見ないふりはしたくありません」


 ユウリは、何も言えなくなった。


 ミオは弱いわけではない。


 怖がっている。

 震えている。

 まだ自分の名前も安定していない。


 それでも、彼女はここにいる。


 レンが、小さく息を吐いた。


「じゃあ、決まりだな」


「何が」


「俺たち、もうただ巻き込まれてるだけじゃないってこと」


 レンはノートPCの画面を閉じ、代わりにスマホを握り直した。


「調べて、集めて、止める。少なくとも倉持が綴白ナナセになるのは止める」


 ユウリは、長机の上に広げられた学校新聞を見た。


 古い怪談。


 古い出席簿。


 現在の校内ネットワーク。


 消えかけているクラスメイトの名前。


 全部が、一本の線で繋がり始めている。


 昨日は、ただ目の前でミオを呼ぶことしかできなかった。


 今日は違う。


 何が起きているのかを知ろうとしている。


 どうすれば戻せるのかを考えようとしている。


 それは小さな違いだった。


 けれど、確かな違いだった。


「調査チームみたいだな」


 レンが冗談めかして言う。


「名前つけるなよ」


 ユウリは即座に言った。


「まだ何も言ってないだろ」


「言いそうだった」


「神話災害対策部とか」


「絶対に嫌だ」


 ミオが小さく笑った。


 その笑い声で、張り詰めていた空気が少しだけ緩む。


 だが、すぐに第二図書準備室のスピーカーから、短いノイズが鳴った。


 ざ、という音。


 昼休みの予鈴にはまだ早い。


 三人は同時に顔を上げた。


 天井近くの古い校内スピーカーが、かすかに震えている。


 ノイズの奥から、ほんの一瞬だけ、声が聞こえた。


『――欠席者、確認中』


 それだけだった。


 すぐに音は消えた。


 窓の外では、昼休みの賑わいが続いている。


 何も知らない学校の声。


 だが、ユウリたちはもう聞いてしまった。


 放課後を待たずに、何かが動き始めている。


 スマホの画面に、白い文字が浮かぶ。


《七不思議の出席係:予備動作開始》

《対象:倉持ハルト》

《現在名上書き率:24%》

《放課後五時五十七分までに、現在名保持記録を確保してください》


 数字が、また上がった。


 ユウリは学校新聞を閉じ、ミオは古い出席簿を胸に抱え、レンはスマホを握りしめた。


 もう、昼休みの終わりを待っている余裕はなかった。

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