19 歩み
耀は一言呟くと、瞬き一つせずに凪を見つめていた。
息を吐くと、凪は口を開く。
「うん。月島君も同じかな?」
「そうかも……しれない」
表情を変えない耀だが、耳たぶは赤く染め上げられていた。
凪は、唇を噛んだ。
――ずるいよ。
そうやって想いは誤魔化して。なのに、両想いって。いくら頑張っても、僕の想いは報われないんだから。
赤沢さんは、振られても嬉しそうだった。なら、振られても僕だって笑顔になれるのだろうか。救われるのだろうか。
……救われるって、なんだろう。僕は片里さんに救われたから、好きになったんじゃないのか。
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気が付いた時には、水菜ことが好きだった。
きっかけは、中学校に入学した頃。
周りは、小学校からの持ち上がり。教室では、既に仲の良い人同士で固まっていた。
凪は、一人だった。誰も知り合いがいなかった。
その日の放課後、忘れ物をして玄関から教室に戻っていた。すると、扉の開く音がした。
女の子だった。少女は、鞄の中から体操服を取り出していた。
「君もジャージを取りに来たの?」
「……ううん。違うよ」
「そっか。私は陸上部に体験入部するんだ。よかったら来る?」
「いや、僕は走るのが苦手なんだ」
体操服を手にした少女は、教室の扉に手をかける。去り際に、一言こちらに振り向いた。
長いまつ毛が、ぱちりと上下に動いた。夕陽に彩られた少女の瞳が向けられる。
「これから三年間よろしくね」
少女が去った後も、凪は扉から目を離さないでいた。
――そのたった一言で、心細かった僕の心は救われたんだ。
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「片里さんに告白するって言ったら、月島君はどうするの?」
「それは……」
耀は、焼けた腕の肌をさすりながら、言葉を詰まらせた。口を開くも、何かを発することなく閉じられる。
――あの日に僕は、救われていたんだ。この感情も、君が話しかけてきてくれたから知れた。
唇を噛んだ耀は、そっと呟いた。
「怖くないのか……振られた時が」
その瞳に目を合わせた凪は、視線を逸らさない。
「怖いよ。でも、立ち止まっても変わらないって、あの人を見て思ったから」
耀は目を大きく開くと、じっと凪を見つめ返していた。
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中学生に進学してから、一ヶ月が経った頃。鞄を持って校門に向かっていると、グラウンドから掛け声がした。砂利の湿った臭いが、鼻を刺激する。
ジャージ姿の水菜が、同級生や先輩に囲まれながら一緒に体を動かしていた。
少しずつその輪から遅れていく。躓いて転ぶ。顔や髪の毛に土や砂利が覆い被る。先頭集団から徐々に距離が遠のいてしまう。
だが、水菜は立ち上がると再び地を蹴り出した。目元を擦りながら、荒く肩を上下に揺らしている。
真っ直ぐにグラウンドを見据えるその瞳は、どこまでも澄んでいた。凪は、ずっとその場から眺め続けている。
――クラスで頑張ろうって、勇気付けられたんだ。なら、貰った勇気を、君に見届けて欲しい。
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