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好きな人には、好きな人がいて。  作者: 座闇 びゃく


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19 歩み

 耀は一言呟くと、瞬き一つせずに凪を見つめていた。

 息を吐くと、凪は口を開く。


「うん。月島君も同じかな?」


「そうかも……しれない」


 表情を変えない耀だが、耳たぶは赤く染め上げられていた。

 凪は、唇を噛んだ。

 ――ずるいよ。

 そうやって想いは誤魔化して。なのに、両想いって。いくら頑張っても、僕の想いは報われないんだから。

 赤沢さんは、振られても嬉しそうだった。なら、振られても僕だって笑顔になれるのだろうか。救われるのだろうか。

 ……救われるって、なんだろう。僕は片里さんに救われたから、好きになったんじゃないのか。




■□■□


 


 気が付いた時には、水菜ことが好きだった。

 きっかけは、中学校に入学した頃。

 周りは、小学校からの持ち上がり。教室では、既に仲の良い人同士で固まっていた。

 凪は、一人だった。誰も知り合いがいなかった。

 その日の放課後、忘れ物をして玄関から教室に戻っていた。すると、扉の開く音がした。

 女の子だった。少女は、鞄の中から体操服を取り出していた。

 

「君もジャージを取りに来たの?」


「……ううん。違うよ」


「そっか。私は陸上部に体験入部するんだ。よかったら来る?」


「いや、僕は走るのが苦手なんだ」


 体操服を手にした少女は、教室の扉に手をかける。去り際に、一言こちらに振り向いた。

 長いまつ毛が、ぱちりと上下に動いた。夕陽に彩られた少女の瞳が向けられる。


「これから三年間よろしくね」


 少女が去った後も、凪は扉から目を離さないでいた。

 ――そのたった一言で、心細かった僕の心は救われたんだ。




■□■□



 

 「片里さんに告白するって言ったら、月島君はどうするの?」


「それは……」


 耀は、焼けた腕の肌をさすりながら、言葉を詰まらせた。口を開くも、何かを発することなく閉じられる。

 ――あの日に僕は、救われていたんだ。この感情も、君が話しかけてきてくれたから知れた。

 唇を噛んだ耀は、そっと呟いた。


「怖くないのか……振られた時が」


 その瞳に目を合わせた凪は、視線を逸らさない。


「怖いよ。でも、立ち止まっても変わらないって、あの人を見て思ったから」


 耀は目を大きく開くと、じっと凪を見つめ返していた。




■□■□



 

 中学生に進学してから、一ヶ月が経った頃。鞄を持って校門に向かっていると、グラウンドから掛け声がした。砂利の湿った臭いが、鼻を刺激する。

 ジャージ姿の水菜が、同級生や先輩に囲まれながら一緒に体を動かしていた。

 少しずつその輪から遅れていく。躓いて転ぶ。顔や髪の毛に土や砂利が覆い被る。先頭集団から徐々に距離が遠のいてしまう。

 だが、水菜は立ち上がると再び地を蹴り出した。目元を擦りながら、荒く肩を上下に揺らしている。

 真っ直ぐにグラウンドを見据えるその瞳は、どこまでも澄んでいた。凪は、ずっとその場から眺め続けている。

 ――クラスで頑張ろうって、勇気付けられたんだ。なら、貰った勇気を、君に見届けて欲しい。

  



■□■□

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