せっかくUSJに来たんだし
カゴメが手を振って身を翻し、あっという間にUSJの園内の人混みに溶けていく。
その背中が完全に見えなくなってから、ようやく僕たち3人は息を吐いた。
「……すげーな内藤カゴメ。圧がすげぇ。」
睦は腕をさすりながら苦笑した。いくらコミュ力お化けの睦でもカゴメのペースは掴めなかったようだ。
朝日は怯えた目で、小さくなっていくカゴメが見つめていた。
天野聖は、何か考えるように静かに遠くの景色を見ていた。
僕は唾をゴクリと飲み込んだ。
この空気…地獄だ。
まぁこんな地獄の空気にしたのは間違いなく僕のせい。
「よし…じゃあ皆」と言って軽く咳払いをした。
「気を取り直してマリオカート行こう!!!」
僕は右手を上げ軽くジャンプをした。マリオの真似だ。人生で1番明瞭な大きな声で言った。ジャンプした足が地面につくと同時に頬が紅潮したのがわかった。
3人とも一瞬呆気にとられた顔をしたがすぐにホッとしたような顔をしてくれた。
なんてたってここはUSJだ。楽しまなくてどうする。
マリカーカートのアトラクションには120分ほど並んだ。このアトラクションはポイントを競う要素もあり1位は意外にも天野だった。朝日が0点で「もう一回やりたい」と威張って聞かなかった。(もちろん2回目はやらなかった)
キノピオカフェでは奇跡的に昼時に予約ができた。僕と天野はマリオのハンバーガー。睦と朝日はスパゲッティを頼んだ。朝日は疲れたのか食べてる途中で寝てしまい顔面がトマトソースまみれになるアクシデントが発生した。3人でそんな様子を見て顔を合わせて笑った。
ホグワーツ城に着いた頃には、日がどんどん落ち始め薄暗い闇に包まれていた。ここでは2時間並ぶことになった。待ち時間が長かったので天野が寮診断をしようと言ってきた。皆、それぞれのスマホでもくもくと質問に答えた。
結果は、朝日がグリフィンドール、天野がレイブンクロー、僕がハップルパフ、そして睦がスリザリンだった。
睦がスリザリンという結果に睦本人も含めて皆驚いていた。
時間はもう夜9時を回っていた。
最後はジョーズのボートに乗った。黒い水面から赤い血まみれの人喰いサメが左右何度もボートを襲う。
「や…やだ……」
「大丈夫大丈夫、俺が横にいるって」
「お前なんか役に立つか!!次言ったら殺すからな!!」
そしてボートが動き始めると朝日が叫んだ。
「ちょ、ちょっとほんとにこれ無理!睦!睦ーーーッ!!」
睦の腕にしがみつき、泣きそうに震える朝日。
僕と天野は笑いをこらえるのが大変だった。
アトラクション終了後、朝日は放心状態。
天野がタオルで汗を拭ってあげていた。
こうして3人の関係性が目の前で紡がれていく。
そんな様子を僕はただ眺めていた。
USJを出る頃には4人ともゲッソリ疲れていた。
土産袋のビニールの湿り気も重みも今日の余韻みたいだった。
ホテルのフロントに足を踏み入れた瞬間、冷たい空調が火照った肌に触れて、僕は思わず息を吐いた。
「わぁー!!ロビーめっちゃ広い!!」
睦がキョロキョロしながら叫ぶ。
「うるさいムツミ」
朝日はそう言いながらも、どこか楽しそうにしていた。
天野聖はフロントの天井を見上げながら
「ここ写真より綺麗ね」
と静かに微笑んだ。
僕はというと―疲れと高揚感と不安がぐちゃぐちゃに交錯していた。
天野の隣を歩くたび、胸が心臓の鼓動とは別に変なリズムで鳴る。
フロントで手続きを終え部屋割りが決まった。
「天野と朝日が向こうのスイート、俺らが端っこのダブルねー」と睦はルームカードを振って見せる。
「ちょ、ダブル!?ベッドひとつ!?」
僕は思わず睦を指差した。
「なんだよイオリくん、俺も守備範囲だったりするの?」
「いやだから、カゴメとは付き合ってないって!」
朝日はあからさまに僕から目を逸らし、天野は「部屋見てくるね」と軽く会釈して歩いていった。
その後ろ姿を見送るだけで、
僕の胸はまた妙に苦しくなった。
結局、天野の正体を聞くことは出来なかった。




