第四話-4:出会い
蜘蛛との戦闘からしばらくして、なんとか僕は階段前まで辿り着いた。
道中にモンスターはいるにはいたものの、この階層のモンスターは基本的に待ち伏せらしく避けて通ればどうということはなかった。
まぁ、運が良かったのかもあるかもしれないが。
そんなことはさておき、さすがに階段まで辿り着くまで時間もかかったので歩き疲れたし、喉はカラカラだしで体はもう既にボロボロだ。
ノエインが入れてくれた地図がなければ本当に危なかった。
だが、階段に辿り着いて気が抜けてしまったのだろう。
僕はその場に座り込んでしまった。
もちろん、座ろうと思ってなんかいない。
足に…力が入らないのだ。
だが、階段まであと少しなのに…そう思ったが今の僕にはどうすることも出来なさそうなので通路の壁にもたれかかり、休憩することにした。
だが、もちろんこのまま座っていればモンスター共の餌食になってしまう。
そこで魔法の出番だ。
この世界の魔法は基本的に自分の願いを具現化するものだ。
例えば、騎士に憧れた人は剣術が上手くなったりするし、誰かを助けたいと思った人には治癒系の魔法を使って治せるようになったり…。
もちろん、これは基本的な適正の話なので鍛練を積めば火や水、それにさっき少し出てきた治癒系の魔法を使えるようになる。
これは最初に言った通り、願いが関係してくるので適当に言っているだけではあんまり使えない。
使えないことはないのだが、威力が落ちたり魔力効率が悪かったりと基本的にいいことがないので使われることはない。
あと、その時の願いがこもってなかったりしてもダメだし詠唱だって必要だ。
ちなみにスキルとして使えるものが魔法で代替出来たり…なんてのもあったりするので全くメリットがない訳では無い。
そんな、割と使い勝手が微妙な魔法なのだが、僕は
「こんなところから飛んで自由になりたい!」
と願っていたので魔法を使えば飛べるようになった。
ただし、僕の魔力量はそこまで多い訳ではないし第一もう既に自由なのであんまりだったりする。
それに、飛べると言っても背中から翼が生えて飛ぶのでこんな迷宮層だと使い物にならない。
そんなことを考えつつ少し休憩していたのだが、そろそろ立てそうなので立ち上がる。
バッグパックの中身自体はもうそれほど残ってはいないのだが、道中で蹴散らしたモンスターから回収した魔石が今の僕には重いのだ。
とぼとぼと階段に向かって歩き出すが足が重い。
別に、それほど距離がある訳ではない。
なんなら普段通り走ればすぐ着くような距離なのだが今は杖を着いて歩きたいぐらい大変で遠く感じる。
しかも、何とか辿り着いても階段を登らなければならないと思うと気が重い。
手すりが欲しいよ、なんで無いんだよ。
まぁ元はと言えば、無警戒で偽の宝箱を開けていくつも階層を落ちる落とし穴の罠にハマった自分のせいなのだが。
口にこそ出してないが、頭の中で愚痴を吐きつつ階段に着いた。
そして、階段を一段、また一段と登っている時に問題は起きた。
ドドドドドと、大きな轟音が聞こえてきたので後ろを振り返ると、人の背丈の三倍ほどだろうか?
とにかくデカイカマキリが階段に迫って来るのが見えた。
どうやら、一組のパーティが襲われているようで、四人組が必死にこちらに向かって逃げてきているのが見える。
だが、今の僕には彼らを助けるどころか巻き込まれたら逃げられない。
見殺しにするのは申し訳ない、とは思いつつも再び階段を登り始める。
だが、もちろんパーティは僕のいる階段を通って逃げるはずなので巻き込まれるのは最初から決まっていたのだ。
パーティのうち、戦士と見られるおっさん三人がまず僕を、そして少し遅れて僕ぐらいの少女だろうか?
如何にも治癒系の魔法を使いそうな、十字架のマークの入った服を着ている少女が必死の形相でさっさと九階層に逃げ込んで行った。
あんな可愛い子もいるんだなー、なんて考えていたがこのままでは僕があのカマキリのおやつにされてしまう。
何とか逃げようとしたが、逃げる訳には行かなくなってしまった。
「お前はアイツの餌にでもなっておけ!」
そんな声が聞こえたあと、鈍い打撃音と共に少女が上から落ちてきた。
さっき通り過ぎて行った、逃げるのが少し遅かった少女が上から落ちてきたのだ。
僕には、あの突き落とされた少女を見殺しにすることは出来なかった。
だって、僕が憧れた冒険者たちならば…きっと、誰も見捨てないから。
「我を解き放つ輝く翼、一筋の光を放ち我がもとに顕現せよ!」
僕が頭で考えるより先に、体が動いていた。
上から落ちてくる少女を助けようと右手に握りしめていた相棒のダガーを放り投げ、助けに向かう。
そして、動きだすと共に久しぶりに唱えた魔法。
この魔法を使ったのは、宮殿から脱走するのに唱えた一度きり。
そんないつ使ったのか僅かに覚えてる程度の魔法だったが、詠唱は何故かスっと脳裏に浮かんできた。
ともかく、魔法で翼を得た僕は落ちていく少女へと向かって飛ぶ。
魔法を唱え終わった時には僕を通り過ぎてモンスターに一直線だったが間に合わせる!
少女は気絶しているのだろう、身動ぎ一つなく真っ直ぐカマキリが待ち構える口の中へ一直線のコースだ。
だが、助けようとして暴れられるよりはよっぽどいい。
僕は景色がゆっくりと流れる中で少女を抱きしめ、必死にカマキリから避けようと翼を広げる。
カマキリが鎌を振ってきたがすんでのところで懐に潜り込み躱すことに成功する。
そして、そのままカマキリの下を超低空飛行し十階層にある近くの細い通路へと入り込んだ。
だが、僕はこれで本当に戦えなくなった。
今の僕には、相棒のダガーも、冒険の手助けをしてくれるアイテムも、最後の切り札たる魔法を使うための魔力さえも残っていない。
少女を抱えながら戦うことなんて、例え万全の状態でも不可能だろう。
そんな時、胸元で青緑色に光る共鳴石を思い出す。
(こいつを割れば…)
自分一人の力で帰還するだとか、そんな考えは何処かへ行っていた。
とにかくこの、仲間たちから生贄にされた少女を助けたい。
そう思った僕は共鳴石を握りしめ、砕いた。
共鳴石は思ったよりあっさりと割れた。
握りしめた拳から、キラキラと共鳴石だった粉が落ちていく。
「これで一安心…かな。」
僕は少女を抱えたまま壁際に座り込む。
イオスはどうか分からないが、これでノエインは確実に来てくれるだろう。
階段前で僕らを探しているあのカマキリにさえ見つからなければ、多分生きて帰れる。
安心して気が抜けていたその時、パキィーンという音が聞こえたので咄嗟に通路から顔を出す。
すると、目に飛び込んできたのはあのデカブツが凍っている光景。
これほどの氷結魔法を使える魔法使いを、僕は一人しか知らない。
彼だ…ノエインが来たんだ!
だが、僕が共鳴石を割ったのはついさっき。
なぜこんなに早く駆けつけてくれたのか…。
ふと、脳裏に今朝の光景が映し出される。
そうだ、この共鳴石には共有の魔法がかけてあると言っていたことを思い出す。
おそらく、落とし穴にハマった時に異常を感じて駆けつけてくれたのだろう。
やっぱり彼は頼りになる、本当に僕にはもったいない騎士だ。
そんなことを考えていると凍ったカマキリが真っ二つに割れる。
そして、その真ん中を通って歩いてくるノエインの姿が見えた。
僕は少女を抱えたままガラガラの喉だということさえ忘れ叫ぶ。
「ノエイン、ここだ!」
そう叫ぶも少し声は掠れてしまう。
だが、彼には十分だった。
僕のいる通路へ迷うことなく駆けつけ、座り込む。
「もっと頼ってくれてもいいんですよ?」
ちくしょう…カッコいいじゃないか…。
彼が来てくれた。
彼が必死に声を掛け続ける中、僕の緊張の糸がプツンと切れてしまう。
何とか保っていた僕の意識はここで途切れてしまった。
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