第四話-3:出会い
逃げ隠れるように迷宮に飛び込んだ僕は、しばらくして走り疲れ草むらに座り込んだ。
バッグパックに入っている水筒を手にかけ、キンッキンに冷えた水が渇いた喉を潤していくことがわかる。
そして、残った分を頭にかけて気分を落ち着かせる。
なぜ僕は逃げてしまったのか。
決まっている、図星だったからだ。
僕はずっと逃げて、助けて貰ってばかりだった。
だからこそ変わりたくて、今日は一人で潜ることを決めた。
だが、現実はどうだ。
自分なりに覚悟を決めたつもりだっただけだ。
言い返すことすら出来なかった、そんな自分を嫌いになりそうだ。
そんな自分が情けなくて、涙が出てくる。
だが、ここは迷宮だ。
いつまでも泣いている訳にはいかない、相手は待ってくれる訳じゃないから…。
そう思い、両手に強く握りしめられた雑草から手を離す。
引きちぎられた雑草が、風に乗って飛んでいく。
僕は両手で頬を思いっきり引っぱたく。
「…さすがに痛いなぁ、やりすぎた。」
じーんと鈍い痛みが襲ってくるが、切り替えて腰に差したダガーを引き抜き下層に向かって歩き出した。
すると、一匹のゴブリンがカモが来たとばかりにノコノコと襲ってきた。
「憂さ晴らしに丁度いい…なっ!」
『フベェッ!?』
ダガーで斬るつもりだったが、ストレス解消のために右足で思いっきり蹴りあげる。
渾身の一撃がゴブリンの急所を襲い、倒れると動くことはなかった。
粉砕!!
──────────
自分では冷静になっていたつもりだったが、やはり色々と溜まっていたのだろう。
次々と襲ってくるモンスターをゴミのように薙ぎ払い、魔石を回収するため滅多刺しにしてまた進む。
そんなことを繰り返し、いつの間にか七階層まで辿り着いていた。
いくら自暴自棄になっていたとはいえ、潜りすぎだ。
だが、どうせ七階層まできたのなら十階層まで潜ってみたくはある。
というのも、この地下迷宮では十階層ごとにモンスターをはじめとする環境が大きく変化する。
ちなみに一桁台の階層だけ少し特殊らしい。
まぁ、最初から難しいものなんてやってられないので助かってはいる。
そんなことを思いつつ歩いていると、草原の中にひっそりと佇む宝箱を見つけた。
迷宮に宝箱があるのは知っていた。
中身は武器や防具から、どんな傷をも癒す秘薬、或いはスキルを与えてくれる特殊なアイテムまで様々だ。
たまにトラップもあるらしいが。
ちなみにスキルは魔法とは違い、ノータイムで発動できる。
発動間隔があるものの、スキルは基本的に先天的なもので魔法は後発的なものだ。
鍛練によって身に付く魔法と違い、スキルは意図的に覚えられたりは出来ない。
僕もスキルは持っていて、【折れぬ意志】というものだ。
どうやら、何度も何度も立ち上がれるスキルらしいが詳しいことはよく分かっていない。
ただ、何度も命の危機に陥りながらもまだ迷宮に潜れるのはこいつのおかげかもしれない。
そんなことはさておき、僕は一目散に駆け寄り宝箱を開ける。
このとき、なぜ僕は無警戒だったのか本当に分からない。
少しの油断が、死に直結すると分かっていてなおこんなことをする僕はやはり馬鹿なのだろう。
宝箱周りの地面が崩れ落ち、僕は巻き込まれないように近くの地面に手を伸ばす。
だが、あと少し。ほんの少し届かずに崩落に巻き込まれた。
──────────
「いてて…ここは?」
僕は体が痛むものの、何とか首を動かし辺りを見渡す。
辺りは暗かったものの、胸元の共鳴石が青緑色の光を放ち周囲がうっすらと見える。
どうやらかなり落ちたらしい。
おそらくここは十階層以降の何処かだろう。
辺りが文字通り迷宮のように入り組んでおり、さっきまでの草原とは打って変わった景色が眼前に広がっていた。
どうやら僕は煉瓦で作られた道の真ん中に落ちたようだ。
僕はまず、何とか立ち上がり周囲の状況を確認する。
辺りに人影は見当たらない。
周りには水色のなにかが飛び散っているが、おそらくスライムだ。
これは推察に過ぎないが、上から落ちてきた僕のクッションになってくれたのだろう。
ひとまず僕はバッグパックから痛み止めのポーションを取り出し、一気に飲み干す。
一気に飲んだポーションは人が飲むものとは思えないほど不味かった。
おぇー、と思わず舌を出したが水は飲み干してしまったのでしばらくはこの苦味と付き合うしかない。
落下した時にでも切れたのだろう、左腕と右足に出来た切り傷から流れ出る赤黒い血を止めるため包帯を取り出し、巻き付ける。
痛み止めのポーションが早速効いてきたのだろう、包帯を巻き付ける時に少しも痛みを感じなかった。
応急処置が済んだのでとりあえず帰還を目指すことにした。
胸の共鳴石を砕いて助けに来てもらうことも出来るが、可能な限り自分で戻りたい。
冒険者は行きだけ良かったらそれでいいわけではない。
遠足なんかでもそうだが、基本的に帰るまでがセットだ。
事故だったとはいえ、勝手に深くまで潜って戻れないので助けてもらいます。なんてのは虫のいい話だろう。
僕は覚悟を決めるとバッグパックを背負い、ダガーを右手に強く握りしめ当てもなく歩き始める。
地図はあるものの、まずは何処か広い通路にでないと今の位置さえ分からない。
少し歩いていると、天井から真っ黒な蜘蛛に似たモンスターが襲いかかってきた。
咄嗟のことだったので、バッグパックを下ろす暇がなかった。
蜘蛛の八本からなる足攻撃にダガーで受け止めようとするも弾き飛ばされ、バッグパックの重みに耐えきれず倒れ込んでしまう。
蜘蛛はその隙を見逃さず、追撃してくる。
蜘蛛は足で突き刺し、僕を串刺しにしようとしてきたが僕の脳が危険を感じて覚醒したのだろう。
眼前の光景が、動きが、時間の流れがゆっくりと感じた。
だが、そんな中で思考だけが素早かった。
モンスターの攻撃を見切り、僕は体を横に捻り、初撃を回避する。
さらに迫り来る攻撃を横に転がりながら避けつつ、ダガーで反撃することに成功するものの、壁にぶつかって思わずダガーを落としてしまった。
「ぐっ…どうなった!?」
『ギシャー!!』
蜘蛛の悲鳴を聞き、急いで立ち上がる。
どうやら僕が放った一撃がヤツの腹を裂き傷跡からは緑色の液体がドバっと溢れ出ていた。
そして、蜘蛛は体を震わせているものの、動けないようだった。
おそらく攻撃が強すぎて、床の煉瓦に足が刺さってしまったのだろう。
僕は床に落ちたダガーを拾い直す。
落とした時にかかったのだろう、蜘蛛の液体で滑るダガーを必死に握りしめ、蜘蛛に近づいていく。
蜘蛛はなんとかして逃げようと、体を動かす。
しかし、動く度に傷口から液体が溢れ出ており、少しずつ弱っていくのが感じられた。
そんな蜘蛛相手に、僕はダガーを脳天に突き刺した。
蜘蛛はピクピクと痙攣し、崩れ落ちる。
「本当に、いきなり死ぬかと思った。」
僕は蜘蛛の横に思わず座り込む。
階層を飛ばしたこともあったとはいえ、一歩間違えば死ぬところだった。
僕は蜘蛛の腹を裂き、魔石を取り出す。
蜘蛛の魔石は5cm程もあった。
これほど大きなものを見たのは初めてだったが、興奮より今は冷静さが勝っていた。
魔石を革袋に仕舞い、バッグパックを拾い上げる。
この階層は今の僕にはあまりにも危険すぎる。
だが、ノエインたちを呼ばないとさっき決めたばかりなのに覆したくはなかった。
僕は少し悩んだが、なるべくモンスターと戦わずに脱出を目指すことにした。
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