第四話-2:出会い
「ふぅー、美味しかったね。」
「そうでしょう、ここの料理は美味いんですよ。」
料理を食べ終えた僕たちは、自室に戻ってきていた。
僕は部屋の窓を開けて夜空を見上げる。
宵闇にうっすらと輝く三日月が浮いており、夜道を照らしている。
一仕事終えた労働者たちが、今日も迷宮から帰ってきた冒険者たちが、肩を組んで歌い、酒を飲む。
そんな大笑いし、ときに怒声をあげる夜道の熱気をさらに盛り上げるかのように過激な衣装を身に纏う踊り子たち。
彼女らは吟遊詩人の管楽器や弦楽器の奏でる音楽に合わせて陽気に踊る。
そんな彼女らにつられ、妖精と鳥人は空で舞い踊る。
それを見て人間や獣人、鉱精は酒を飲みながら今日の出来事を語り合う。
ただ、森精たちは静かに音楽と踊りを楽しんでいるみたいだ。
明日をも知れぬ冒険者たちは今を精一杯楽しんで生きているのだろう。
僕も、明日生きて帰ってこられる保証なんてもちろんない。
明日、とんでもないモンスターに出くわしてあっさり死ぬかもしれないし、生きて帰れても二度と迷宮に潜れない体になるかもしれない。
だが、そんなことはみんな分かっていて冒険者になっている。
だが、なぜみんな続けられるのだろうか?
決まっている。
命をかけるほどに、この迷宮に皆惹かれているのだ。
「僕は、やっぱり死ぬのが怖いや。」
そう呟き、窓から離れベッドに横たわる。
いくら冒険者が憧れとはいえ、僕は続けていけるのだろうか?
皇子としての責務を放棄し、冒険者に逃げた僕。
だが、僕とは違いここにしか居場所がない人たちだっているはずだ。
そんな、もうこれ以上行く場所のない、覚悟を決めた人たちと僕は競い合い、勝ち抜かねばならない。
このまま冒険者を続けていけば変われるのだろうか?
僕はいくら考えても纏まらないので、逃げるように寝入った。
そして、そんな僕を見ていたのだろう。
布団で寝ている僕を、少しゴツゴツしてるけど優しくて温かい手が撫でてくれた。
──────────
鳥のさえずりで目を覚ます。
まだ少し眠い体を何とか起こすと、ノエインが朝食を持ってきてくれていた。
少し硬いパンと目玉焼きにソーセージ、それにスープ。
僕はありがたく受け取り、朝食を一気に胃に送り付ける。
寝起きの体を、温かいスープが駆け巡るのがわかる。
朝食を食べ終えた僕は、短刀を磨き上げていたノエインに告げる。
「今日は、一人で潜りたい!」
ノエインは少し驚いていたが、少し悩むと懐から紐の着いた、青緑色に輝く宝石を取り出した。
そして、ベッドに座る僕の首に掛けるため、膝をつきながら話す。
「これは共鳴石と言って、二つで一つの特殊な宝石です。何かあればこの宝石を割ってください。私とイオスが駆け付けます。」
そういうと、ノエインは立ち上がり魔法袋を持ち部屋を出ようとする。
だが、扉に手をかけるとこちらに振り向きながら、忘れていたといったように話す。
「言い忘れてましたが、その宝石には共有という魔法が掛けてありますので、あまり動かないでくださいよ?
あぁ、イオスには私から話しておきますから。」
それだけ言うと、ノエインはどこかへと出かけて行った。
彼なりに気遣ってくれたのだろう。こんな我儘ばかりの主君にはもったいないような、いい騎士だ。
僕はベッドから立ち上がり、ノエインが部屋の机に残していった迷宮の地図をバッグパックに突っ込み部屋を後にした。
──────────
【炎翼の獅子亭】から迷宮までは目の前の道を歩くだけで通れる好立地だ。
迷宮までの道は広く、メインストリートと言っても差し支えないだろう。
そんな道には市場がたっており、宿屋や労働者向けの肉や野菜から、冒険者向けのポーションや迷宮の地図まで幅広い。
ちなみに迷宮の地図はギルドでも売っているが、市場で売っているものはギルドのものでは載っていない最新情報もあったりする。
ノエインが置いてくれていった地図はおそらくとしか言えないが、ギルドのものに情報を多少書き加えたものだと思う。
少し汚い字ではあるが、安全に休憩できる場所や、逆に奇襲を受けやすい危険地帯が記されている。
やっぱりノエインはなんだかんだ面倒見はいいんだよなぁ…そんなことを考えていると迷宮の入口に着いた。
迷宮は石造りの建物の中に入口がある。
なんでこんなのが出来たのか、それはよく分からない。
もし、迷宮を創っただれかがいるのなら、見栄えを意識してのことだろう。
そんなことを思いつつ中に入ると、パーティメンバーを募集する声や何を揉めているのか怒声が聞こえてくる。
だが、僕は今日一人で潜るつもりなので関係ないからさっさと喧騒の中を通り過ぎる。
「おい、おチビちゃん。一人で潜るつもりかい?」
「早く帰って寝といたほうがいいんじゃないのー?」
僕を馬鹿にしているのだろう、何処から飛んできているのか分からないがとにかく聞きたくなかった。
僕は駆け出し、逃げるように迷宮への階段を駆け下りる。
こんな姿を見て、声の主たちはさらに馬鹿にするだろうし、酒のつまみにもするだろう。
だが、見ておけ!僕はお前らみたいなやつなんかすぐに抜かしてやる。
今は逃げることしか出来ない情けない自分に悔し涙を流しながら、そう心に刻み込んだ。
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