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第12話:新たな事実-2

「さて、改めて……Sランクパーティー(マルティリオ)リーダーのモルゲン・フォン・アナトリーです。

先日は仲間たちを助けていただきありがとうございました。」

「いえ、こちらこそ……あなたたちが下層でモンスターたちを食い止めてくれたからこそ被害がここまでなかったんですよ!」

「ハハッ……そう言ってもらえると気が楽になります。」


僕とイオスが隣に、テーブルを挟んでモルゲンとネロが座る中、深々と頭を下げるモルゲンにクロウは顔を上げてください。と声をかける。


クロウの言葉に頭をあげつつも、少し哀しげな表情を浮かべるモルゲン。


クロウはなにかあったのだろうか…。と考えるが、当然わかるはずもない。


それよりも、要らぬことを思い出させてしまったかもしれないと愚かで軽率な発言を後悔した。

僕は運良く生き残れたが、それはあくまでも()()だったから。


迷宮(ダンジョン)下層に挑み続ける精強な彼らとて、死という結末から逃れられるわけでは無いはずだ。


「しっかりしてください、冒険者となったあの日から……みな覚悟の上です。」

「そっ、そうですよ?何があったかはわかりませんが、リーダーならシャンとしなさい!」

「ネロ……イオス(ねぇ)……そうだね、僕がちゃんとしないとね。」


二人の応援に、モルゲンはつくり笑いを浮かべるが誰がどう見ても無理している。


喫茶店独特の珈琲(コーヒー)の香りが漂う店内の一角では重苦しい空気が漂っていた。

テーブルを囲む僕たちの前にはそれぞれ淹れたての珈琲(コーヒー)が湯気と香りを立てて鼻を刺激する。


モルゲンはアツアツの珈琲(コーヒー)に臆することなく、一気に流し込むと覚悟を決めたかのように話し出した。


「僕の家はお恥ずかしながら貧乏でして……一応騎士爵持ちの貴族ではあるのですが、そこらの商家に劣るほど困窮していました。」

「ん?……てことはイオスも貴族なの?」

「はい、私の実家は伯爵なので伯爵令嬢ですね。」


しれっと語られる衝撃の事実に、クロウは空いた口が塞がらない。


知らなかった……え?イオスって伯爵令嬢なの?ただの食いしん坊にしか見てなかったんだけど。


喉まででかかった言葉を何とか飲み込み、イオスの方に目をやるとムスッとした表情をした彼女と目が合う。

どうやら僕は驚きを隠しきれず顔に出ていたようで、しまったと思ったが手遅れだった。


気まづくて何とかならないか、とキョロキョロすると珈琲(コーヒー)片手に固まったネロが目に入る。

彼も驚いたようで、珈琲(コーヒー)はカップからダラダラと零れ落ち彼の戦闘衣(バトルクロス)に大きなシミを作り出していた。


「イオス(ねぇ)……もしかして、説明してなかったの?」

「えぇっと……とっくに説明してたものだと。」

「初めて聞いたよ……。」


テヘッと笑うイオスを尻目に僕とモルゲンは目頭に片手を添えた。

なにか言いたげな目つきでイオスを見つめていたモルゲンだったが、おそらく苦労人なんだろうと少し同情してしまう。


「はぁ……ともかく、僕は三男坊なので実家にいても爵位は継げないので自由に憧れて冒険者になったんです。」

「まぁ、面倒見がいいのが災いしていつも自由とは程遠いほど苦労してますけどね。」


やれやれといった感じで優雅に珈琲(コーヒー)を飲んでるネロだったが、今更取り繕っても手遅れだと思う。

イオスは目を離していた間にサンドイッチを注文していたようで、ダース単位で注文した大量のサンドイッチに食らいついていた。


そんな二人を一瞥したモルゲンは再び語り始める。


「これは機密に当たるのですが……今回の探索で私のとこだけでなく、かなりの冒険者が亡くなりました。

クロウさんに助けてもらったのは僕たちS級……第一線で活躍する者たちの支援役で、下層の戦闘に耐えられない彼らを逃すために前線を張ったものたちを中心に亡くしました。

みんな……いいやつらでした。」


ぽつりぽつりと呟いた彼の目からは大粒の涙が零れ落ち、テーブルを濡らしていく。


彼にとって……本当に大事な仲間たちだったのだろう。

僕だってノエインやイオス、ファロスを亡くしてしまったら……と考えるとおそらく彼と同じ結末に至ることだろう。


「ぐすっ……すいません、お見苦しい姿を。」


彼は僕に気を使って頬を伝う涙を拭い、笑顔を覗かせる。

まだスタンピードからは……彼が仲間を亡くしてから数日しか経っていない。


僕ならば……同じように振る舞えるだろうか?


いや……きっと出来ない。


三日三晩、いやもっと悔やむことだろう。

だからこそ……目の前の彼に、何と声をかければいいか分からなかった。


────────


「すみません、本当はこんな姿を見せるために会ったわけではないのですが……。」

「気にしなくていいよ、こっちも無神経すぎた。」


申し訳無さそうにするモルゲンと、頭を搔く僕。

モルゲンが泣き止んだのを見て、喫茶店を後にした僕たちはここで別れることにした。


ちなみに支払いはモルゲンが全額払ってくれたのだが、あれだけサンドイッチを食べたイオスの分まで出してくれるのは少し申し訳なく思う。


それでは……と別れようとするとイオスがモルゲンに近づいたと思うと背中をバチーンと引っぱたく。


かなり痛かったようで、何するんだ!と目で訴えるモルゲンだったがイオスを前にした彼は、猛獣に襲われる獲物の如く背筋をピンとするだけで文句のひとつも言えなかったようだ。


「しゃんとしなさい!あなたは団長(リーダー)でしょう?」

「えっ……で、でも。」

「でもじゃない!返事は!?」

「はっ、はい!」

「よし……頑張ってね。」


励ましの言葉をかけ、僕に駆け寄ってくるイオス。

やってやりましたとばかりの笑顔を向ける彼女に引き攣った笑いしか出ない。


モルゲンを励ますために引っぱたいていたのだろうが、おそらく僕がまともに食らったら身体がバラバラになると思う。

やり方はともかく、モルゲンには屈託のない笑顔が広がっていた。


「それじゃ、行きましょうか?」

「そうだね、買い物に行くのが遅くなっちゃったから急がないと……。」


診療所を出たのは早朝だったのに、今は太陽が真上に昇りサンサンと照らしている。

喫茶店で山盛りのサンドイッチを頬張っていたイオスと違い、僕は珈琲(コーヒー)を飲んだだけで腹ぺこだ。


なので早く食事にありつきたいのだが……そうはいかないようだ。


「私との買い物は嫌ですか?」

「えっ、そんなことないよ!ただお昼が近いから……。」

「なら、ゆっくりでも大丈夫ですね?」

「あっ、はい。」


笑顔を見せつつ圧を掛けてくるイオスに、僕はNOを突きつけることが出来なかった。

イオスを前に、モルゲンと同じく格付けされた僕は重い足取りで目的の店に向かう。


並び歩く二人の表情は片や満面の笑みを、片や暗く沈んだ表情を浮かべ、彼女なんていないであろう連中から「なんでお前みたいなやつが!」とばかりの視線を受けつつ大通り(メインストリート)を歩いていった。


店に行くまでの人通りは多く、普段見る冒険者たちの賑わいとはまた違った一面を見せている。

装備を身に纏う冒険者は少なく、お洒落な格好をした人がほとんどだ。


そして、こんなところに似つかわしくない僕より大きな盾を持ったドワーフや、手のひら程の大きさしかない妖精がいる冒険者の一団もいるが……僕と同じく今日は休みなのだろうか。


そんな余計なことを考えていると、目的の店につく。


【星々の導き】


遠くからでも見える、塔のようなこの建物は二十階建てで都市のどこからでも見通せるほどの高さだ。


なんでこの店に来たかというと、この都市の服飾はこの店がほぼ全て……というかこの国のほとんどがこの店が作っている。

ほぼ独占状態なだけあって、人の出入りもそれなりに多い。


「それじゃ、入ろっか?」

「えぇ、楽しみです!」


美しく照らされた店を前に、普段の血生臭く……死神が付き纏う迷宮(ダンジョン)とはまた違った緊張を押し殺して一歩を踏み出した。

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