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第12話:新たな事実-1

スタンピード発生から数日。


あれほどの事件があったにもかかわらず、迷宮都市は日常を取り戻していた。


街の権力者たるギルドが箝口令を敷き、街の外まで広がらなかったこと。

そして、都市を包み込むほど巨大な魔法陣によって全ての被害者が治療され、犠牲者が出なかったことが大きな要因だ。


巨大な魔法陣を発動した魔法使い──というより規模的には魔導士?──は誰かわかっておらず、ギルドが探しているらしい。


そして僕はというと、かなりの無茶をしたせいか……戦闘後、動けなくなった僕はイアシス院長の診療所に担ぎ込まれ三日三晩絶対安静を言い渡された。


ちなみに……ノエインがここまで運んでくれたのだが、ボロボロの僕を見るや否や、院長(イアシス)さんはノエインに回し蹴りを炸裂させていた。


なんか最近、ノエインはボコボコにされることが増えてるような気がするが……気のせいにしておこう。


ともかく、ようやく動けるようになった今日は迷宮(ダンジョン)には潜らず休むつもりだ。


僕はベッドから立ち上がり、薄緑色の病衣からノエインが用意してくれていた私服に着替える。

ゆったりした病衣とは違い、ここに来る前の僕に合わせて作られたシャツは少し筋肉がついてきたこの体を締め付けてくる。


「少し……小さくなってきたかな。」


長い時を陰ながら支えてくれた……今は小さくなった私服に成長を感じると共に、寂しさが襲ってきた。

たまに退屈な日々が懐かしく思える。

あんなに嫌だと思っていたのに……今では寂しさを覚えるなんて。


「……服を買いに行きますか?」


感傷に浸っていた僕は、思わずビクッと肩を震わせ振り返ると、申し訳無さそうに立つイオスがいた。

朝日に照らされた、滑らかな青紫色の長髪は輝きを放ち、美しさと凛々しさを併せ持った私服(ワンピース)の彼女は騎士ではなく町娘のようだった。


そんな彼女はいったいいつからいたのか……おそるおそる尋ねると、「最初からいました。」と申し訳無さそうに告げる。

考えうる限り最悪の回答にふらりとしたが、何とか立ち直る。


「……盗み聞きするつもりはなかったんです!」

「いやまぁ……起きたことはしょうがないから。」


イオスはこれでもかと謝ってくるが、別に彼女が悪い訳では無い。

むしろ、僕の方が謝らなければ行けないぐらいだ。

僕が感傷に浸らなければこんなことにはなっていないのだから……。


「そっ、それでは失礼します!」

「慌てると危な……遅かったか。」


ペコリと一礼した彼女は慌てて部屋を立ち去ろうとして近くの机に引っかかり廊下に向かって転げていった。

彼女に蹴られた机は粉々に砕け散り、パラパラという音を立て辺りに舞い降りてくる。


「なんの音……ってぇぇ!?」

「あっ、イアシス院長。」

「何をやってるんだい!?」

「ごっ、ごめんなさーい!」


大きな物音を聞きつけやってきた院長は目の前の惨状に怒りを露わにする。

一方、イオスは平謝りをし続け何とか許してもらおうと必死だった。


────────


院長(イアシス)さんにお礼をいい、診療所を出た僕とイオスは都市の南東部に向かう。


診療所の前で見送ってくれたイアシスさんは二度と来て欲しく無さそうな不機嫌な顔をしていたが、見なかったことにならないだろうか?


そんな現実逃避しつつ、南東部に向かうのは僕の服を買うためだ。


通りはいつも通り賑やかで商人や料理人たちが開店の準備を進めている。

行き交う人々は一般人が多く、冒険者たちは既に迷宮(ダンジョン)に潜っているようだ。


「この前の事件以来……かな、クロウ君?」

「む……彼がそうなのかい、ネロ?それに横にいるのは……まさか?」

「ネロさん、お久しぶりです。そちらの方は?」


都市南東部の大通り(メインストリート)を歩いていると、見覚えのある冒険者たちに出くわした。


腰に差したサーベルをオレンジ髪が覆い隠すように伸び、こちらに向かって手を振るネロさん。

もう一人は赤髪が特徴的で、背中に銀色に(きら)めく槍を背負った人物だ。


おはようございます、と挨拶を交わす傍ら、なぜこんなところにいるのかと不思議に思う。


「こんなところで何をしているんですか?」

「いい質問だ、少年!実は調査に……イッタァ!?」

「なに喋ろうとしてるんですか?機密を他人にペラペラ喋るのはやめてください。あと、先日のお礼もしてませんので、団長として仕事してください。」


意気揚々と話す赤髪の青年に、ネロさんの手刀が炸裂する。

だが、おそらくいつもの事なのだろう。痛がる青年を横目に、ネロさんは平然としていた。


「まったく……さて、自己紹介が遅れたね?僕はモルゲン、そこのイオス(ねぇ)の従兄弟だよ。」

「「えっ?」」


モルゲンの口から放たれた突然の言葉に、クロウとネロは思わずイオスに視線を移す。


「あっ、あの……そう、です。」


白色のワンピースから透けて見える肌は紅く染まり、恥ずかしさからなのか俯く彼女はボソリと呟くとさらに茹でダコの様に赤くなった。

先程から一切喋らないと思っていたが……なるほど、これじゃ喋れないのは当然だ。


そんな彼女に、モルゲンはゆっくりと近づく。


赤髪の青年と青紫を纏った乙女。傍から見れば、従兄弟ではなく兄弟のように見えるかもしれない。


「イオス(ねぇ)、帝都にいた時は鍛練ばっかりでお洒落なんて微塵の興味もなかったのに、変わったねぇ?……ってちょと待っ!!」

「ウワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ見るなぁぁぁぁぁぁぁ!?」


モルゲンの静止も虚しく、乙女(イオス)から放たれた拳が原因(モルゲン)を空高くまで打ち上げる。

その見た目からは想像できないほど強烈な一撃を受けたモルゲンは宙に舞ったかと思うと、煉瓦敷きの大通り(メインストリート)に頭から墜落し、大きな亀裂を作り出した。


「ハッ!……その……これは違うんです!?」


誰に釈明しているのか、純白の乙女(イオス)は手をバタバタと振りながら謝りだす。


「わ、私だって暇があればクッキーを食べながらグータラ生活しますし、可愛い洋服だって着ますし……。」


威勢よく話し出した彼女だったが段々と声が小さくなり、最後は指をモジモジさせつつ蚊の鳴くような声で呟いていた。


可愛い、と辺りを歩いていた人々全てが彼女を前に心を一つに合わせる。

だが、足を止めることなく人々は彼女の隣を通り過ぎていく。


「そこの喫茶店でも入りませんか?」

「そっ、そうだね。イオスもいいよね!?」

「はい……。」


これ以上醜態を晒すまいと、ネロとクロウは慌てて提案する。

肌という肌が羞恥心から真っ赤に染まり、元々桜色のワンピースを着ていたかと錯覚するような彼女(イオス)は、恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆いつつもそそくさと喫茶店に向かっていった。


突っ立っていたネロは彼女をエスコートするかのように慌てて先回りし、樫の木で出来た喫茶店のドアを開くとイオスと共に入っていった。


クロウはというと、ピクピクと痙攣しているモルゲンを叩き起こす。


「何やってるんですか?」

「いや、ついな……すぐ手が出るところも昔っからさ。」


あはは、と笑い飛ばすモルゲンにクロウは「まったく……」と溜息をつくのだった。

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